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【 エッセイ 】 小さな手袋




先日、部屋を整理していると中学校2年生の時の国語の教科書が出てきた。何気なくパラパラと読んでみるとその中によく覚えていた物語があった。

「小さな手袋」というタイトルの話で、今も強く印象に残っている。ご存知の方もいらっしゃるのではないだろうか。小さな女の子と森で出会ったおばあさんとの切ない物語だ。

【 小説「小さな手袋」あらすじ 】

小三のシホは、雑木林の中で、近くにあるリハビリ病院に入院しているおばあさんに出会った。
おばあさんは脳卒中を経験し右手右足が不自由だったが、毎日ゆっくり毛糸人形を編んでいた。
シホはおばあさんと仲良くなり毎日通ったが、自分の祖父が同じ脳卒中で倒れて亡くなったことに衝撃を受け、それ機に雑木林に足が向かなくなった。

二年半後、熱を出した小六のシホは、初めてその病院で診察を受けるため訪れた。その際、病院の修道女に雑木林のおばあさんがいるかと聞くと、足が向かなくなった当時、シホに渡したくて内緒で小さい手袋を編んでいたと聞かされる。

おばあさんはまだ入院していたが、シホが会いに行こうとすると、ぼけが激しくなりシホのことはわからないため会ってもしかたがない、と制止される。宮下さんは、昔住んでいた大連にいると思っている、心はもう大連に帰ってしまったんですよ、と告げられる。

国語教科書の素材辞典 HP から引用
原作 : 内海隆一郎


私が強く記憶に残っているのは、この物語を授業で教えられた後に宿題として書いた読書感想文である。

「○○君の感想文が特によかった。ぜひみんなの前で読んでくれないか ? 」

と担当教師に言われクラス全員の前で発表したのでその時書いた内容もよく覚えている。

感想として、主人公シホやおばあさんがかわいそうとか悲しいということではなく、互いに相手を思う素直な優しい気持ちが随所に描かれている部分に胸を打たれたこと。
また同時に、おばあさんとの触れ合いの中でシホの成長を読み取れる部分が多く、これからもっと成長し、その素直で優しい気持ちを忘れず大切に育てていってほしいと感じたことなどを書いた。

引用させていただいた要約にはないが、おばあさんと会わない間におばあさんが不自由な体で手袋を編んでくれていたことを知ったシホが手袋に顔を押しつけてすすり泣くシーンがある。
それがシホの素直で優しい気持ちが凝縮されているような場面に感じられて、その当時、特に印象的だった。

また、おばあさんともう心が通い合っていないことが分かった後も、シホがもう一度おばあさんと出会った森に行こうとする場面も描かれており、強く胸を打たれたことを覚えている。お別れの原因が「死別」ではないことがこの物語全体を通して感じられる切なさをより際立たせている。

そういえば中学校2年生当時にそんなことを感じていたな、と思いつつ、大人になった今、もう一度この物語を読んでみた。なかなかボリュームのある文章で、内容も深い。最後まで読み終えた時、あることに気づいた。

読んだ感想が当時とほとんど変わらないのだ。
こんな感じ方や捉え方もできるな、という部分は多少あっても感想の本筋は昔と同じだった。

この事実には驚いた。
何しろ子どもの頃に読んだ物語なのだ。この当時の自分と比べると今の自分は人生経験も積んでいるし、色々な考え方や捉え方もできるようになっている。にも関わらず同じ感想を今抱いている。

なぜだろう、自分は成長していないのだろうかと考えた時、1つの自分なりの答えに辿り着いた。
それは、自分が大切に思っていること、つまり心に響く部分が当時と変わっていないからではないかということだ。

今回、あらためて「小さな手袋」を読んで私が感動した部分は、主人公シホとおばあさんの素直で優しい心と、シホのまっすぐ成長していく姿だった。そしてその素直さ、優しさというのは私自身、生きていく上でずっと大切にしてきたものでもある。

これまでの人生で何か壁にぶつかった時、素直な気持ちに戻り、優しい気持ちを持つことの大切さを思い出し、困難を乗り越え、成長してきた。
そこにはシホの姿と重なる部分が多少なりともあったのかもしれない。

人生経験を重ねると新たな視点から物事が見れるようになったり、同じものでも違った捉え方ができるようになることはある。

今思えばこの部分はこんな捉え方もできるな、とか、こういう解釈もできるかもしれないな、などとより広い視野で物語を読むことができるようになっていく。

ただ、そうしたものはあくまで感じ方の「引き出し」の1つ1つであって、その引き出しがいくら増えようと、感じ方の根幹は案外、一貫していることが多いように思う。

そしてそうした部分にこそ、本当に自分が大切にしている価値観が隠されているのではないだろうか。変わっていく中で変わらない感受性、感じ方。そうしたものを今回再発見した気がした。

何か越えられない壁にぶつかった時、過去に出会った本を開いてみるといいかもしれない。
過去に読んだ時と同じ思いを抱く部分があればそれはきっと自分が本当に大切にしてきた思い、変わらぬ価値観なのだと思う。そしてそれが困難を乗り越えるヒントになるかもしれない。

私がシホに優しい気持ちを忘れずに持ち続けてほしいと願ったように、自分の心の幹になる部分を私はこれからも大切に守り育てていきたい。

文章から学ぶことはまだまだ多いのである。




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