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Starting over

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傷ついて立ち止まっていた人々が歩き始めるまでのお話
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#Starting_Over

【SS】あの日と同じ青い空

【SS】あの日と同じ青い空

月曜日の午後3時。週明けの慌ただしさがようやくひと段落した頃、ふと空を見上げた。思わず見とれてしまう程の青い空に、縮こまった体を伸ばしたくなった。一息つくために席を立ち、建物を出た。駐車場の隅の車が止まらないスペースで大きく深呼吸をした。
「そういえばあの日の空もこんな感じだったかな……。」
私は久しぶりにあの日の事を思い出していた。

「OK!私が手伝わなくてもできたじゃない。」
「ありがとうご

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【SS】一瞬

【SS】一瞬

「布団からベッドへ。ちゃぶ台からダイニングテーブルへ。生活は変わっていったわ。結婚して、子供も二人いて。貧しかったから古くて狭いアパートの一室に四人身を寄せ合って暮らしていた。主人と二人一生懸命働いたの。必死に働いていたから苦しいとか辛いとか考える暇もなった。今は広い家に住まわせてもらっているわ。子供たちも独立したし、楽をさせてもらっているわ。でも、なんかね、あの頃の狭いアパートがたまらなく懐かし

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【ショートストーリー】紳士協定

【ショートストーリー】紳士協定

久しぶりに見る夜景は思っていた以上に心に沁みる。そんなつもりはなかったけれど少し熱くなっていたらしい。心と頭に湖から吹く風が冷やしていく。少しずつ少しずつ冷静さを取り戻していくのがわかった。
以前、自分を取り戻すために寄ったプラットフォームのようなあの場所は、私にとって特別な場所になった。元カレと再会した後もあの場所で心を静めていた。終わらせたつもりでいた恋が終わっていなかったことを自覚したあの日

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【ショートストーリー】シルバーリング

【ショートストーリー】シルバーリング

ケーキ屋さんに併設されたこのカフェは、チェーン店やコンビニのコーヒーに慣れている僕にはちょっと敷居が高かった。あなたがここを指定してくれて、あなたと一緒だから入ることができます。
「あちらでいい?」
広い店内の奥まった席をあなたは指定した。平日の昼下がり。さして人は多くない。それでもあなたはそんな席を選んだ。
「ブレンドとミルクティーを」
あなたは僕の分まで注文をしてくれた。二人で会うときはいつも

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【ショートストーリー】天邪鬼

【ショートストーリー】天邪鬼

助手席の窓から見える空は泣きそうだけど泣けない、私の心そっくりだった。別に我慢しなくてもいいのに。私は八つ当たりするように空を見つめていた。
自分から別れを告げた元カレとの偶然の再会。全く予期していなかった。別れてからすぐに物理的な距離ができ、会えない時間が増えた。会わなければ忘れられる、そう思っていた。実際、仕事に紛れてあいつの事をほとんど思い出さず今日まできた。だけど…。以前と同じように話しか

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【ショートストーリー】雨にお願い

【ショートストーリー】雨にお願い

「走らない?」
彼女はそう言ってカバンを肩にかけた。
「でも、まだ雨が…。」
僕はそう言ってフロントガラスに打ち付ける雨を見上げる。確かに少し降り方が落ち着いてきたみたいだけど…。
会社の駐車場に車を停めた途端、滝のような雨が降ってきた。建物までそう離れていないのだが、外に出たらあっという間にずぶ濡れになってしまうだろう。社用車の中、僕と彼女は無言で雨を見つめていた。
彼女は今、何を思っているのだ

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【小説】プラットフォーム

【小説】プラットフォーム

夕日の名所であるこの場所が夜景の名所であることを知る人は少ない。だから日没時には湖に沈む夕日を撮影するにわかカメラマンでごった返しても、夜が空が覆う時間帯にはほとんど人がいなくなる。今この時も近くでスケートボードに興じる高校生くらいの少年達以外は、時折通り過ぎる市民ランナーくらいしかいない。だから良い。誰にも見られずに自分を取り戻すことができるから。私は遠くに見える街明かりを見つめていた。

つい

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