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詩まとめ

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詩のまとめです。感情が滲み出てくるような詩を書きます。
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2022年5月の記事一覧

【詩】爆弾魔になれなかった放火犯

街中を歩いている人はみんな、喧騒というものが、見ず知らずの他人の幸福で構成されていることを知っている

だから、わたしも例にもれずそのことを知っていたのだけれど、それだけでなくわたしもあなたたちと同じように喧騒を喧騒だと思っていたから。だからわたしは、いろんな電車が通じている大きな駅の構内をひとりで歩いているとき、通りすがるひとびとすべてに対して、一瞬にして消えてくれればいいのにと思っていた。

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【詩】わたしは亡霊

眠れないまま夜を過ごして

気づいたときには日が昇って

わたしはその煌びやかな光を、呆けたように見つめることしかできなくて

その瞬間からただ次の夜を待っていた

わたしは亡霊

【詩】真空

暴言しか吐けないその人は
多くの人に疎まれ、嫌われながら死んでいった
か細い声で「みんな死ね、みんな消えてしまえ」と言いながら。最期の最期まで、塵を見るような目で見られながら。それでも、ただのひとつも、言いたいことが言えないまま。
痛み止めの種類が違っただけなんです
痛かった、ただ痛かったんです
と、その人は言いたかった
数多の注射痕と大きな傷口がひとつ
割腹自殺の傷口に、その先に、道が開けている

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【詩】冗長の詩

もうすぐ世界が終わりますね

先生、いかがお過ごしでしょうか

わたしはあれからどんどん文章が下手になっています。わたしは今でもはっきりと覚えているんです。あなたが文章の書き方を教えてくれたときのことを。

あなたはわたしの書いた文章をあれこれ見ては、これは無駄だ、あれは無駄だと切り捨てていった。そしてそのとき、先生にいらないと言われた多くの文字たちは確かに死んでいた。切り刻まれて飛び散ったみたい

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【詩】心臓には形がある

象徴することを「象る」と言うのはどうしてだと思う?それはね、なにかを象徴するってことが、なにかを「型取る」行為に他ならないからだよ。

もう誰が言っていたのかも忘れてしまった。

後になってわたしが調べても、そんな事実が出てくることはなかったから、その話はきっとそのひとが思いついたでたらめに違いないのだけれど。それでも、わたしはその言葉がずっと忘れられないのだった。

わたしは今日も人を好きになり

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【詩】眼窩

本当は、ただ見ているだけだった
だから、きみはわたしの持つ一対の瞳に自分の姿が幽かに映りこんでいるのをどうしようもなく喜んでいたけれど、その瞬間のわたしの瞳はただの鏡となんら変わりなかった
鏡が輝いていようがくすんでいようが関係ないのと同じように、
わたしの瞳が輝いていようがくすんでいようが関係なんてないから
実像も虚像も関係ないし、
本物も偽物もなにも関係ない
きみは穴凹に向かって語り掛けている

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【詩】栞

ぼくは偉くなりたくて本を読んでいた。けれどもきみは本を読みたくて本を読んでいた。

ずっと分かっていた。ぼくときみが違うことは

文字は文字のままだった。だから栞が必要なんだ。読んだ証が欲しかった。そんなぼくは澄んだ空気の下で、何度も本を閉じては開いてを繰り返していて、意味もなく煌びやかな太陽に目を奪われてばかりいる。

あどけないきみの表情が苦しかった。きみが羨ましかった。

栞のいらないきみへ

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【詩】嘔吐

きみは知らない

きみが幸せそうな顔をしているのを見て、吐きそうになっているひとがいることを

綺麗さっぱり吐けてしまったのなら幸せなのだけれど、そもそも吐き気がこないのならばどれだけいいか、と確かにそう思っているのだけれど。ただそんな願いはすぐに、思い出せない夢みたいに消えていき、今日も今日とて路傍でとどまることのない嘔吐をするのです

そして何も知らないきみはきっと、ごくごく一般的な感性から、

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【詩】破壊

綺麗に壊れるものになりたかった
ガラス玉みたいに、壊れてもなお綺麗でいたかった
けれどもぼくがたとえどんなに願っても
いつまでもそんな日が来ることはないから
成長はどこまでいっても老化の希望的観測で
ガラス玉の名残があるのはぼくの瞳だけ
だから、どうしようもなく腐ってしまう前に
どうか、ぼくを壊してくれませんか

【詩】感

見える風景が

漂う匂いが

聞こえる音が

身体を震わせることなく

ただ沁み入るように

深く、深く落ちていってほしい

すべてのものはわたしたちの心のためにあるものではないから

雨は悲しみを象るものではないし、

晴れも喜びを象るものではないのだから

さあ、言葉なんて捨ててしまえ