【詩】眼窩

本当は、ただ見ているだけだった
だから、きみはわたしの持つ一対の瞳に自分の姿が幽かに映りこんでいるのをどうしようもなく喜んでいたけれど、その瞬間のわたしの瞳はただの鏡となんら変わりなかった
鏡が輝いていようがくすんでいようが関係ないのと同じように、
わたしの瞳が輝いていようがくすんでいようが関係なんてないから
実像も虚像も関係ないし、
本物も偽物もなにも関係ない
きみは穴凹に向かって語り掛けているだけなんだよ
どこかで聞いたことのある物語を求めながら
どこかで聞いたことのある運命を求めながら
性懲りもなくきみは他を理解できると思い込んでいて
そんなきみはどうしようもないくらいに何も見えていない
でも分かっていた
きっとわたしもきみと同じくらい、何も見えていないのだということを

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