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【84】ハジマリ論 万葉から江戸、近代、アジアと現代



【ハジマリ論1 万葉から江戸まで】
大宮ハムハウスで展開中の本棚「ミカンのカンシ~オワリとハジマリ」。
昨日は【オワッタ論】スレッドしましたが、


今日は、「ハジマリ論」を3つに分けスレッドします^ ^
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「…中国の古典語によって形づくられた「漢詩」は、日本や韓国・朝鮮、ヴェトナムなど、いわゆる漢字文化圏の諸国においても、情熱をもって受け入れられた。たんに愛読されてきただけでなく、その韻律形式に即して、多くのすぐれた作品が生み出された。中国の『詩経』に始まる漢詩の歴史は、三千年に近い時の流れのなかで、漢字を用いる多くの人々の歓びや悲しみを歌いつづけて今日に至っているのである。
それだけに、「漢詩」の世界は広くかつ深い。これまでに世界中で作られた漢詩は、記録さ
れ保存されているものだけでも、何百万首かには、のぼるであろう。 かつまた、「同一の詩的ジャンル」として、三千年に近い生きた歴史を今日まで保ち続けているものは、世界文学史的に見ても「漢詩」(中国古典詩)以外には存在しない…」
『漢詩 美のありか』松浦友久、岩波書店、2002

「…日本人も朝鮮人や安南人同様・・・共通語である漢文によって、世界に通用する普遍的思考なり感情なりを表現することを、知識人の当然の仕事と心得ていたわけである。
・・・『懐風藻』や『日本書紀』が公式の文学であり、『万葉集』や『古事記』はいわば地方文学だった…」
『江戸漢詩』中村真一郎、岩波書店、1985

「…日本は中国に対して、その優れた文物を吸収し、みずからの文化のなかに同化させようとする…
…混血の文化と言えるでしょう。混血は血統を高めるともいいますが、そういう意味でも日本文化は誇るべきものだと思います。あまり日本のよさを強調するとナショナリストなどと誤解されますが、日本の文化がとても恵まれた環境のなかで、はぐくまれてきた…
…このような文化の相対性は、すでに古代前期の時代から自覚されています。自分たちの立場の自覚と、輸入されてくるものへの敏感さ、これは『万葉集』のなかにもずいぶんあらわれてきます…
『日本文学と漢詩』中西進、岩波書店、2004

「…『万葉集』以来現代に到るまで、連綿として途切れることのない歴史を持つ和歌に対し、昭和以降さすがに衰えたものの、やはり上代から近代(明治・大正)まで続いてきた文学ジャンルが漢詩・漢文である。特に韻文の世界において、和歌と漢詩は常にお互いを意識しつつ表現に工夫を重ねてきたよきライバルであったと言えよう。それは歌壇・詩壇を形成する集団同士というだけでなく、個人の内部においても、和漢兼作という形で表れる…
…純粋な中国風の漢詩を目指す立場にとっては「和臭」として退けられる行為ではあるが、漢詩が日本文学の一部として、また漢詩人が日本文化のなかで生きる文学者として、同時代のさまざまなモノやコトと向き合っている以上、日本の風物や日本で培われてきた文学の伝統と無縁でいることはできない。むしろ積極的にそれらを取り込もうとしてもおかしくはないであろう。
このような和漢融合ともいえる状況が、七五調(五七調)あるいは漢文訓読調のリズムのうちにやまとことば(歌語)と漢語を溶け合わせた、明治以降の新体詩やその後の土井晩翠・島崎藤村らの文語詩を生み出す土壌となっている。いわば、漢詩と和歌の両者が手を携えて、詩歌の世界における前近代と近代の連続性を支えている…」
堀川貴司「和漢」『和歌史を学ぶ人のために』鈴木健一・鈴木宏子編、世界思想社、2011

「…江戸時代における漢詩とは、文化の先進地域中国に生まれた、もっともレベルの高い、時代の文学の最先端を行く、高感度な文学形式であった。江戸時代の学問の骨格をなした儒学と表裏一体の関係を保ちつつ、文学思潮の前衛を形成し、時代の新たな表現領域を切り開いていったのは、ほかでもない漢詩というジャンルであった。江戸時代の文学全体のなかで漢詩というジャンルが占めた比重は、今日では想像もつかないほど大きかった…」
『江戸の詩壇ジャーナリズム-『五山堂詩話』の世界』揖斐 高、角川書店2001



【ハジマリ論2 近代】
大宮ハムハウスで展開中の本棚「ミカンのカンシ~オワリとハジマリ」。先ほどは「ハジマリ論1 万葉から江戸まで」スレッドしましたが、こちらは「近代」をスレッド!
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「…日本は近代になると、もう一つの外国文学ー欧米の文学を受容する。そうなると、旧来の受容物は咄嗟に自国化し、それが新しい外来物と対応することになる…」
『日本文学と漢詩』中西進、岩波書店、2004

「…明治時代に至り、旧文化の破棄せられ、漢学の疎外せられた最中にあって、詩人荐(しき)りに輩出し、名作随って現われ彬々として一時の盛を極めたのであるから、真に古今の一大奇現象といわねばならぬ…」
『明治詩話』木下彪、岩波文庫、2015

「…維新当時はまだ子供であったような人人が、青春の文学として漢詩を作っており、それが明治の青年たちに熱狂的に受け入れられていた…」
『近代文学としての明治漢詩』入谷仙介、研文出版社、1989

「…この時代、日本は旧封建体制から脱却し、欧米の先進国をめざして新しい出発をしました。新しく輸入された欧米の新思潮も自然に漢詩の世界にはいってきています。その点では現在の私どものにとって親しみやすくもあるし、また学びやすくもある…」
『漢詩の作り方 改訂版』新田大作、明治書院、1975

「…近代日本という時空間は、文体にしても思考にしても、漢文脈に支えられた世界を基盤に成立すると同時に、そこからの離脱、あるいは、解体と組み換えによって、時代の生命を維持し続けようとしたのです。その継承と葛藤、摂取と排除のダイナミズムを明らかにすることで、たんに古い文体としてでもなく、また、現代に活かせる古典の知恵としてのみでもなく、私たちのことば全体に密接にかかわるものとして、漢文脈というものを捉えなおすことができる…」
『漢文脈と近代日本-もう一つのことばの世界』斎藤 希史、NHK出版、2007




【ハジマリ論3 アジアと現代】
大宮ハムハウスで展開中の本棚「ミカンのカンシ~オワリとハジマリ」。「 万葉から江戸まで」、「近代」スレッドしましたが、最後に「アジアと現代」をスレッド!
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「…敗戦の折、日本人一般の脳裏に浮かんだのは、人麻呂の和歌でも芭蕉の発句でもなく、杜甫の漢詩の一行、「国破れて山河あり」ではなかったろうか…
…欧米の詩からだけではなく、アジア・アフリカや中南米の現代詩、なかんずく中国の現代詩から豊かな富を恵まれる時に来ている…」
『漢詩百首 日本語を豊かに』高橋睦郎著、中央公論新社、2009

「…黄遵憲…は詩詞内容の改革から手を付け、ついで形式の改革を行うよう主張し、””新詩派”を唱えた…
…梁啓超…譚嗣同…夏曾佑らが”詩界革命”を呼びかけた…
…新しい題材を導入したけれども、内容的に革命的な変化を生み出すに至らなかった…しかし清末のこうした詩歌改良の動きが、のちの”五四”現代詩運動に観念上の影響を与えたのは疑いない…』
『中国現代詩の歩み』謝冕著、岩佐昌暲編訳、中国書店、2012

「…俳句と漢俳を愛好する日中両国の人たちの交流は、年とともに深まっている…俳句の中国語訳、漢俳の日本語訳もすすみつつあり、中国の学童がつくっ1た漢俳も、日本語訳されて、日本の学童たちを喜ばせ、且つ刺激している…」
『現代俳句・漢俳作品選集』金子兜太・林林監、日中合同刊行委員会編、現代俳句協会、1993

「…伝統は我々の生命の色素であり起因であり、海であり大地なのです。もちろん私は伝統の牢獄には決して入りません。私は伝統の上に立って、新たに自己を作り上げ、伝統という肥沃な大地から飛び立つのです…真の前衛が伝統を生み出すのです…」
「東アジアにおける現代詩」田原 『現代詩手帖』2011、3月「越境するアジア・・・」

「…亜流であり、猿真似に過ぎないなら、捨ててもよかろう。だが、くどいようだが、日本の漢文、とりわけ漢詩は世界に例のない特質を持つ、優れたものであるから、これは是非とも正当に評価して、その伝統を継承しなければならない…」
『日本人の漢詩 風雅の過去へ』石川忠久

「…決められたルールに従って作っていきさえすれば、唐の時代に作られたのと同じような整った形式の詩を、海を隔てた現在の日本でも作ることができるのです。空間と時間を超越して、詩作の楽しみを共有できる…」
『漢詩はじめの一歩』鈴木淳次、リヨン社、2005

「…なるほど異国の千余年を隔てた古文学には相違ないが、それを余りにも私どもから遠方の、何か近づき難い疎遠なものように考えるのは、実は当らないことである。もと詩情は、千載もなお昨の如し、と心得ていい…」
三好達治『新唐詩選』1952

「…「漢詩」というものについての、黴の生えた既成概念を拭い去り、その実物が化政天保の文明の爛熟の産物として、同時代の絵画や音楽、俳諧や俗文学と同じ雰囲気のもの…」
『江戸漢詩』中村真一郎、岩波書店、1985

「…そんないいところのある詩の世界から漢詩ばかりをみつくろい、その黴臭いイメージをさっと片手でぬぐって、業界のしきたりを気にせず、専門知識にもこだわらない、わたし流のつきあい方…」
『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』小津夜景、粗粒社、2020

「…詩を読むことは、何を措き、まず純粋に、読者内心の歓びであっていい。自由な個人的歓びであることを要する。それが始めであり終わりであって差つかえはない…」
三好達治『新唐詩選』1952

「…まだ始まってもいねぇよ…」(マーちゃんby「キッズリターン」)

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