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09. HANMOづくりの現場から②大正紡績技術編

HANMO
HANMOはサステナブルな循環経済を実現するために生まれたTシャツです。服をつくるときに、どうしてもできてしまう端切れ。この端切れから糸を紡ぎ、生地をつくるのが 【反毛 はんもう】です。反毛の糸は不均一さを持つ独特の風合い。製造ロットごとに少しずつ表情も変わります。 反毛を使うことで、ふんわりとした着心地のTシャツができました。           https://hanmowear.jp/


職人集団で「出来ないと絶対に言わない」という熱い気質の大正紡績。そんな彼らが紡ぎだす糸は美しくて繊細で、今も昔も多くの人の心をつかんでいる。微妙な違いを生み出せる彼らの技術を聞いた。


多くのデザイナーに愛される大正紡績の糸

一言で「綿100%」と言っても大正紡績の品番はなんと1000個以上にのぼる。まず風合いや色味は繊維の直径で変わる。繊維のひねりを緩くするかきつくするか、単一の種類を使う場合もあれば相手の好みに合わせてブレンドする場合もある。紡績のための機械は大きいため、紡績会社は普通重量単位はトンの仕事でないとやりたがらないそうだ。しかし大正紡績は100kg単位、ましてや5~10kg単位でも求められれば受け入れるらしい。他が面倒でやりたがらない、できないことをやりたいんだと盛り上がって話す姿に、あぁ本当にこの方たちは難しさすら楽しんでいるのだと感じずにはいられなかった。


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糸の品番が1000個以上あるのだから、それらから作られる布が途方もないくらいであることは言うまでもない。紡績業者は糸を販売する会社であるから、営業するときも普通は製品である糸を見せる。しかし大正紡績は糸を織って布にした状態にまでするそうだ。それだけ自分たちの糸が布になった時にどのように仕上がるのか、そこまで見せて使ってほしいという質への並々ならぬこだわりがやはり職人だと感じさせられる。

反毛で糸を作ること自体はそれほど難しいことではないそうだ。しかし50kg、100kgという単位、必要な分だけという小さいロットで行えるというのが大正紡績の強みだと浅田さん。必要な分だけを買う仕組み、どこかで聞いたことあるなと思ったら、そうだ最近人気なゼロウェイストショップ、量り売りショップだと気付く。必要な分だけ買うという行動は、消費者の中では徐々に広まりつつある。これが生産現場でも同様に求められ始めているということがとても面白い。生産する時点で、必要とする人がいて、必要な分だけを届けるという前提で行うものづくり。生産者と消費者が同じ目線に立った循環型経済の第一歩だ。


反毛のトレーサビリティ

大正紡績はどこまでも透明性を持っていられるように、どこで行われた反毛で、何%オーガニックコットンが使われているのかという情報を示せるようにしている。GRS(グローバル・リサイクルド・スタンダード)という、リサイクル製品に関する国際的な認証にも申請中だそうだ。日本ではまだ二十数社しか取得していないものらしい。さすが、徹底している。現時点ではまずその認証をクリアして、信頼性を担保する。ただ大正紡績は反毛がメインの工場ではないので、受ける布の全てを裁断する能力はない。そのため他と協力しながら、トレーサビリティを明確にした上で反毛を行っていけるものを作ろうとしているそうだ。これからのことを考えたときに、すでに他と協力するという前提、自分達だけで完結しようとしていないというところにも、これまでの経済にはあまりなかった循環経済のヒントがあるように感じるし、ワクワクしてしまう。


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海外で作った反毛は、たとえ綿100%と書いてあったとしても実際は化学繊維が入っているものも多々あるという話をしながら、実際に混ざっている生地を見せて下さった。たしかに、触り心地も違うし完全な綿100%の生地よりもつるつると蛍光剤による光沢がある。大正紡績では綿100%で反毛を行い透明性を持つために、全ての工程を自分達で行っている。そのときに難しいのが回収、区分けだそうだ。「キャパが小さいので、どれくらいの規模で何ができるのかを見極めて受け入れたい。」自分達で透明性を持って行える範囲を把握して、確実に信頼できることだけを行う大正紡績。「透明性」って、自分達のやっていることが外に対して開かれている、というイメージだった。しかしそれだけではなく、自分達の手掛けられる範囲を理解しその中で徹底していく、という自分らにベクトルが向いたことでもあると学んだ。それを明確にし、常に正直である大正紡績、今回のHANMOプロジェクトのメンバーとして無くてはならない存在だ。


この先紡績業を存続いていくために

とても興味深かったのが、「今は大量生産のために建設された新しい工場から廃止されている」という話だ。最近建設される工場は、効率性を重視し大量生産を目的にしたものだが、それらは全て海外の工場に取って代えられ始めているため、新しいものから廃止されているらしい。一方で大正紡績のように歴史が古く、少量でも柔軟に対応出来る工場の方が今の日本に合っているし、求められていると。「企業に自社の物を説明するときも、前は手触りだった。今はストーリーや背景をまず説明するんです。」社会が求めることの変化に応じて、企業への訴えかけ方が変わってきている。それだけ背景が大切にされ始めていることに驚きだ。大量生産が良しとされていた頃にはあり得なかったであろうことは他にもある。服を構成する糸にも特徴があるから、大正紡績では糸にも名前を付けて人格化しているそうだ。ひたすら大量に生産・販売していたころ、誰が糸を人格化するなんて考えただろう。ただ安ければ良いという時代はもう終わった。産業を守るためにと考えた結果、必然的に環境や廃棄のことを考え、糸にまで人格を持たせるほどのストーリー性を生み出すことになっている。そこから生まれるHANMOの物語にも注目だ。


服の循環が生まれる

服を買うとか着るとか、トレンドを追うファッションのなかにこれまで「循環」という言葉はなかったように思う。私の記憶にある服の循環は、姉からの服のおさがりや、小さい頃近所でたまに回ってくる、少し年上の友達の服が詰まった段ボールだ。「これ、〇〇ちゃんが着てたやつだよね、似合っているね!」と他のお母さんから言われたこと、よく覚えている。あのときの服の循環が、オーガニックコットンという単一の素材で、少し形を変えて、もっと大規模に。着て、経過と共に出てくる味わいを楽しみながら過ごし、またいってらっしゃいと送り出す服の循環。HANMOによって、生活の起点である「着る」という行為から新しい服の循環生まれる。




バックナンバー

01. 綿100%で生産と再生を繰り返すTシャツ「HANMO」

02. 「着る」という行為からその意思を拡張するHANMO

03. 着ながらも次の循環を意識しつづける服

04.(突然ですが)yohakuの渡辺さんって信頼できる

05. そしてサイセーズが始まった

06. HANMOな人たち

07. 事業を通じて未来の生活を実現する博報堂のチーム「ミライの事業室」



HANMOについて
HANMOは、循環する服作りをテーマに集まったサイセーズ株式会社と株式会社博報堂ミライの事業室の共同プロジェクトです。これまで服作りやブランドづくり、ECなどに関わってきたメンバーが集まって、それぞれの得意領域を持ち寄りながら、新しい循環経済の仕組みづくりを目指しています。                        
このnoteをかいたひと                        大山貴子(おおやま たかこ)
株式会社fog代表取締役。米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取組 みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフードウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。https://note.com/octopuseatskale              株式会社fog                            “循環”が社会のエコシステムとして機能する社会を創造するデザインファーム。企業や自治体、コミュニティや消費者など、様々なセクターと手を組み、人を含む生物と地球にとって持続可能な環境を構築するプロセスをデザインしている。                     https://fog.co.jp/

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