HaniwART はにブログ                                                    埴輪を愛でる美意識


 
古墳時代の遺物である埴輪は、専ら歴史資料・学術資料として扱われてきましたが、芸術的・美的視点からみれば、他にはない特徴と魅力を備えたユニークな造形物であり、独自の美を持つアートであるとも言えるでしょう。
 
土を焼いてつくった古代の大きな造形物には、中国の兵馬俑やヨーロッパのテラコッタ彫刻などがあります。何れも写実的で精巧なつくりであり、人や馬をリアルに表現しています。それらに比べると埴輪は単純・素朴で、視覚的印象はだいぶ異なります。
 
技術的に高度なもの・精巧なもの・つくるのが困難なもの・貴重な素材を用いているものと、芸術性の高さがイコールではないことは言うまでもありません。むしろ、どこにでもある素材で、誰にでもできるような技術で芸術性の高いものをつくり出す方が困難とも言えます。埴輪が持つ芸術性や魅力は、精巧な技術や、リアルな表現、見る人を圧倒する迫力などとは違うところにあるように思えます。人が頑張ってつくったモノというよりは、土の中から自然に生まれてきたような感じすらします。

東京国立博物館の展示から


 
日本独自の伝統美・美意識を特徴づけるものに、わび・さびの感性があります。豪華さや過多な装飾、精巧さの対極にあるものとして、素材そのものの魅力や自然で素朴・簡素な美、不完全ともいえるものを尊ぶ感性・美意識です。備前焼や信楽焼のような焼き締め陶、竹を切っただけの花生け、草庵風の茶室などにその意識の反映を見ることができます。土や竹はどこにでもあり、それ自体高価な素材ではありませんが、このような素材でつくられた簡素な造形物に価値を見出し尊ぶのは、日本的美意識の特徴のひとつです。埴輪を愛でる美意識の背景には、このような日本特有の価値観・精神が見てとれるかと思います。

一方、絵画や彫刻だけでなく、陶磁器などの工芸品を芸術とみなし尊ぶ感性も、日本の美意識・日本美術の特徴の一つです。東京芸大教授で人間国宝でもあった陶芸の大家が「日本の陶芸の魅力は、形や色だけでなく、他の素材で置き換えられないこと」と仰っていました。確かに陶芸作品を見る時、形や色・紋様などと同様に、その質感も愛でていますよね。素材ならではの造形、素材と呼応した形や色を見ているとも言えます。
 
埴輪も同じで、シンプルな造形・古拙さ・素朴さなどの特徴も、その質感や地肌と相まって醸し出されているように感じます。土を焼いた自然の地肌が持つ独特な質感、明るい色合い、素材が生み出す柔らかい形・・・・、土という素材の特性を最大限に引き出したかのような造形に、埴輪に魅力のひとつがあるように感じます。
 
わび・さびの美意識が概念として成立したのは後世のことですが、我々が埴輪に感じる魅力や芸術性には、このような日本独自の美意識に通ずるものがあるように思えます。埴輪は日本美の原点と言ってもよいかもしれません。

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