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夜、記憶の中の君

眠れない夜、というのは必ず訪れます。

具合の良し悪しも
心のすこやかさも
関係あるときもあれば、無関係な瞬間にも
不安なときにも、楽しみに溢れるときにも
おとなにもこどもにも
等しくなくても必ず、訪れるものです。

眠らなくては、と思うことを
なぜだか最近やめました。

ほんとうに、なぜだか不思議に思うのです。
わたしが思い出しているのは、
もう、十余年も前の出来事なのですから。

そのときわたしは、彼とふたりきりだったのか、
さんにんだったか、覚えていません。
たぶん、さんにんだったと思います。
家主と、彼と、わたしと
話し込んだり練習をしたまま、眠ってしまった夜のこと。
わたしたちは大学生でした。

いま思えば、ずいぶんこどもだったのです。
わたしたちは平穏に大学に通いながら、それなりに友達もいて、それなりに頭も悪くなくて
アルバイトだってやりたいと思えばなんとなく決まって、友達もいて
過不足がないように、思えたのに
いつもどこか満たされない、そしてその理由を探さない。
そういうところが、こどもだったのです。
だからときおり、肩を寄せ合うような時間を過ごしていました。
きっとその夜も、眠れなかったわたしが、目覚めてぶつぶつともんくを言ったのでしょう。

「まあでも」と、彼は笑顔で言います。
いつも彼は笑顔で、ピエロのようなひとでした。
(もっと泣いたり、怒ったりしてくれればよかったのに)

「寝れてなくても、横になって目を閉じてれば体力は回復するからね」

そういうもんなのか、と感銘を受けたことを覚えています。
彼は理系の学部で、わたしを含めた多くの友達が文系だったので、なんとなく理系のひとは頭が良さそうに見えていたのです。
だから、君が言うなら、って。
わたしはそれを、丸呑みで信じることにしたんです。

それは、いまも変わらず。

あのとき彼はきっと、言い聞かせていたのでしょう。
わたしに伝えることで、きっと自分自身にも
あのときは、気づいてあげられなくてごめんね。
そばにいくこともできなくてごめんね。
でも、救われようとしなかったのは君のほうだった、というのもわかっているから
もう、何も言わないけれど。
いまは君が、安心して目を閉じていることを、願っているよ。

わたしは、安心して眠っています。
眠れなくても
君の言葉が、都合よく響いてくれています。

少しだけ賢くなってしまったよ。
もうあのときほど、夜とか、まっとうであることとか、そういうことが、気にならなくなってしまったよ。

そんなふうに君も、
やさしすぎてしまった君も、
賢くずぶとくなっていればいいな。


【photo】 amano yasuhiro
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