夜、記憶の中の君
眠れない夜、というのは必ず訪れます。
具合の良し悪しも
心のすこやかさも
関係あるときもあれば、無関係な瞬間にも
不安なときにも、楽しみに溢れるときにも
おとなにもこどもにも
等しくなくても必ず、訪れるものです。
眠らなくては、と思うことを
なぜだか最近やめました。
ほんとうに、なぜだか不思議に思うのです。
わたしが思い出しているのは、
もう、十余年も前の出来事なのですから。
*
そのときわたしは、彼とふたりきりだったのか、
さんにんだったか、覚えていません。
たぶん、さんにんだったと思います。
家主と、彼と、わたしと
話し込んだり練習をしたまま、眠ってしまった夜のこと。
わたしたちは大学生でした。
いま思えば、ずいぶんこどもだったのです。
わたしたちは平穏に大学に通いながら、それなりに友達もいて、それなりに頭も悪くなくて
アルバイトだってやりたいと思えばなんとなく決まって、友達もいて
過不足がないように、思えたのに
いつもどこか満たされない、そしてその理由を探さない。
そういうところが、こどもだったのです。
だからときおり、肩を寄せ合うような時間を過ごしていました。
きっとその夜も、眠れなかったわたしが、目覚めてぶつぶつともんくを言ったのでしょう。
「まあでも」と、彼は笑顔で言います。
いつも彼は笑顔で、ピエロのようなひとでした。
(もっと泣いたり、怒ったりしてくれればよかったのに)
「寝れてなくても、横になって目を閉じてれば体力は回復するからね」
そういうもんなのか、と感銘を受けたことを覚えています。
彼は理系の学部で、わたしを含めた多くの友達が文系だったので、なんとなく理系のひとは頭が良さそうに見えていたのです。
だから、君が言うなら、って。
わたしはそれを、丸呑みで信じることにしたんです。
それは、いまも変わらず。
*
あのとき彼はきっと、言い聞かせていたのでしょう。
わたしに伝えることで、きっと自分自身にも
あのときは、気づいてあげられなくてごめんね。
そばにいくこともできなくてごめんね。
でも、救われようとしなかったのは君のほうだった、というのもわかっているから
もう、何も言わないけれど。
いまは君が、安心して目を閉じていることを、願っているよ。
わたしは、安心して眠っています。
眠れなくても
君の言葉が、都合よく響いてくれています。
少しだけ賢くなってしまったよ。
もうあのときほど、夜とか、まっとうであることとか、そういうことが、気にならなくなってしまったよ。
そんなふうに君も、
やさしすぎてしまった君も、
賢くずぶとくなっていればいいな。
【photo】 amano yasuhiro
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