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深夜の宇宙船

深夜が過ぎると、
わたしの部屋は、小さな宇宙船になる。



無職になってから、半年以上が経った。
この暮らしにもなれたもので、最近は少しずつ作業時間を増やしながらも「徹底的に怠惰になること」を推奨している。
だって、いまのうちだけだし。

わたしは好きな時間に起きて、好き勝手に昼寝をする。
深夜に起き出して、記事を書いたりする。
そうして、眠れなくなる。

わたしは同居人とふたり、1LDKの部屋に暮らしている。

キッチン、リビング、寝室、がそれぞれ6畳くらいずつ。
最近はいろいろあって、リビングに同居人が住んでいて、寝室だった場所に、わたしはパソコンと電子ピアノを持ち込んで、勝手に「作業部屋」にさせてもらっている。

同居人は基本的に夜型で、遅くまで起きている。
その同居人も、朝が近くなると眠る。

キッチンとリビングのあいだにドアはないので、
同居人がリビングで眠るとき、キッチンとリビングの電気は消される。
ドアを隔てた、わたしの「作業部屋」だけが、ぼおっと明るい。

それは、宇宙に浮かぶ勇敢な宇宙船のような、ひかりだった。

家の外も、部屋も、まっくらなのに
ここだけが、明るい。
ここでわたしはひとり、お茶を飲んだり、パソコンに向かったり、
明かりに守られながら、まどろんだりする。

昼間とは違う、ひそやかな感じが、とても好きだと思う。



無職になってから「悪いこと」も推奨している。

深夜から作業をはじめて、一段落して、眠ろうか迷ったときに、おなかが空いていることに気づいた。
「お茶漬けの準備でも、しておこうか?」と、眠る前に同居人は言っていた。
「いいよ、べつに」とわたしは答えたけれど、この時間になってお腹が空くことを、彼は読んでいたのだろう。すごい。

お茶漬け、頼んでおけばよかったなあ、
でもまあ、しかたないか。わたしはひとりで暗いキッチンへと向かった。

暗い部屋で開ける冷蔵庫って、なんだかわくわくする。

わたしは、「なんだか悪いことをしている、どろぼうみたい」と思いながらも
冷蔵庫の中を詮索する。
すぐに食べられるものはなさそうだ。

諦めて、キッチンの下のカップラーメン置き場に手を突っ込む。
冷蔵庫は明るいけど、キッチンの下の戸棚は、まっくらで何もできない。

わたしはおそるおそる電気をつけて、赤いきつねを見つけ出す。
近年、カップラーメンをあんまり美味しく感じなくなってきたんだけど、うどんだけは変わらず美味しい。

お湯を沸かして(笛吹ケトルが、あまり騒がないよう、気をつけながら)
わたしは、静かに宇宙船へと帰還する。



今日は、一晩で、宇宙船の気分と、泥棒の気分を味わっちゃった。
お得だったなあ。
深夜を過ぎた、明け方のカップラーメンの背徳感もたまらない。
わたしはにんまりしながら、ベッドに潜り込む。

一生懸命に生きなきゃいけないときとか、
時間に制限がある暮らしって、どうせこのあとすぐにしなくちゃいけなくなるんだから


わたしは、悪いこともしたい。
まっとうさを欠いたような中に眠る、日常のときめきを
わたしは、冒険するみたいな気持ちで、きちんと拾い集めていきたい。






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