マガジンのカバー画像

君に伝えたい百の言葉

389
あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

いつつの灯火

「もうすぐ、40だから…」 そう言った本人も慌てていたし、わたしもびっくりした。 だから、「もうすぐ」なのか、「次」または「春で」と言ったのか、わたしももう覚えていない。 ただ、目の前の人は「もうすぐ訪れる春、次の誕生日で40歳」になるらしい。 彼女とわたしの年齢差は、5。 わたしが彼女の年齢を何度忘れても、この数だけは覚えている。 あれ、あなたこのあいだまで35とか、6じゃなかったっけ? いや、おかしいな。 ああ、わたしはこのあいだ、そう、34になったんだ。 うん、そ

これからも、わたしと旅をしてください。

その日、わたしは慌てていた。 年末の休暇が始まるまで、あと数日。 キリのいいところまで進めたい、と思ってはいるけれど、たどり着くまでに業務が増え、ゴールテープがどんどん遠くなってゆくのが仕事だ、と思う。 少なくとも、いまのわたしの業務に関してはそんな感じだった。 電話が鳴っても、郵便物が届いても仕事は増えるばかり。 「明日にすればいい」が通用しないのが年末で、とにかくわたしは慌てていた。 やればやるほどに仕事が増えて、「あ、これも足りない」と気づいて、繰り返して、優先順位を

それでも、原初の炎は燃えている

今年も、こんなお知らせが届く季節になりました。 note、2021年の記録。 書いた本数、スキされた数、全体ビュー、増えたフォロワー それから、よく読まれた記事…など。 今年1年を振り返ることのできる内容になっています。 Twitterでも、noteで知り合った方々の「2021年の記録」が出ていて、まじまじと見ちゃう。 そして、比べてしまうわたしがいる。 * わたしより、「書いた記事の数」が多いひとは、まだ見ていない。 つぶやきを中心にnoteを使っている人や、今

ここにあるもの

また、と思う。 また、なんだよ。 君はいつでもやってくる。 何度でもやってくる。 どうも、わたしのからだと、君は仲良しらしい。 口内炎。 ひとには「ウィークポイントがある」と教えてもらった夜を、忘れない。 わたしの場合は口。あと右手。 唇はすぐに荒れるし、口唇ヘルペスは永遠のカルマとしてお付き合いをしている。 口内炎も、そのひとつ。 特に、ここ数年は膨らむタイプじゃなくて、クレーターみたいな陥没タイプ? これはとにかく痛い。 乾いても染みる。濡れても染みる。もちろん、何か

くすぶる火

実は、禁煙している。 何が、”実は”なんだよ と、人は言うかもしれないけれど わたしとしては「実は」以外の切り口を見つけることができない。 実は、禁煙している。 禁煙して、もう1ヶ月ほど経つ。 喫煙歴は15年ほど。 仕事中はほとんと煙草を吸わないけれど、息抜きの数本と、あなたと喫煙所でおしゃべりすることを大切に生きてきた。 ある日、病院に行ったら「禁煙しましょう」と言われた。 次にできることはそれだ、というようなことをやんわりと伝えられ、「わかりました」と言うしかなか

冬、あなたに伝えたいこと

冬はあたたかい、と言っていたひとを、わたしはいまでも好ましく思っている。 町田駅の地下、だったような気がする。 記憶はうすぼんやりで、でも冬で、たぶんスタジオに行くときに通る道で、お店からの暖房がぶわりとわたしたちの頬を撫でた。 冬はあたたかい、と言って、君は笑っていたような気がする。 * 冬のあたたかなベッドに、わたしは埋もれている。 夏とは圧倒的に異なる幸福感の中、静かに息をしている。 ああ、もうどこへも行きたくない、と思う反面、どこへでも行けたらいいのに、と願ってい

となり

あの日のことを、覚えている。 久し振りに、スターバックスに座った。 おそるおそる注文したゆずシトラスティーが妙においしくて、少し泣いた。 「おいしい」という感覚は、夏から旅に出てしまっているので、今はもうほとんど会えない。 それなのに、おいしいと思えてしまったのだから、びっくりとじんわりしてしまった。 わたしはこの午後を、忘れない。 浮かれて、調子が良かったのだと思う。 「16時半まではここに座っている」と決めたのだから、時間はある。 少しだけ本を開いて読んで、それから手

戸惑いから、ときめきへ

うすいピンクに、黒のリボン。 知ってる、この組み合わせ! 「ジルだ!!!」 ジルスチュアートには、とっておきのときめきがある。 むかし、安野モヨコ先生がジルの話をしていて憧れていた。ハタチくらいのとき。 そのときはジルのことなんかこれっぽっちも知らなくて。 東京のどこかの街でジルを見掛けたときは、言葉通り目がハートになったと思う。 積み重なった憧れが、爆発した瞬間だった。 わたしはいまでも、ジルスチュアートを愛している。 震える手で、袋を開く。 小さな箱。 だけど、化

もうひとりで帰れるから

痛い、と思うとき 同時に、気のせいかもしれない、と思う。 いつもそうだ。 自分の鈍感さを、信じようとしてしまう。 「ばかは風邪をひかない」みたいに この痛みもまぼろし または、耐えるに値するようなもので、気にしてはいけないのかもしれない、と。 * 「いたいのとんでけ」と、かつて言われたかもしれない。 もう、覚えていない。 「いたくないよ」と、膝を撫でられたかもしれない。 やっぱり覚えていない。 わたしがこどもだったときは、うんと短かったのだと思う。 それはませていただ

おやゆび

ずきり、と鈍く響くのは、いつも親指だった。 右手の、古傷。 古傷が生まれる前、のことを、わたしはもう上手に思い出せない。 あの瞬間、わたしの記憶は分断された。それにしたってもう昔の出来事だった。 いまは、痛みだけが残っている。 なにかしらの不調や、季節の変わり目や寒暖差、 原因はよくわからないけれど、右手の親指の付け根が響くように痛みだして、右肩までじんわりと抜けてゆく。 これを、繰り返している。 * 単なる、ウィークポイントの話だ。 風邪をひくと、いつも声をガラガ

ふるさとを語れない

母からのLINEを、ぼおっと見つめていた。 * そもそも、痛みと絶望感から始まる愚痴だった。 どうしても耐えられない。 鼻に綿棒を突っ込まれるのも嫌だし、いやでも麻酔だから必要なのはわかっていて、そのあとの痛いアレも治療だってわかってはいる。もちろんだ。 治療中も痛いし、その後も1〜2時間はじわじわと残る痛みと違和感に付き合わなければいけない。 という治療を、週に1度受けている。 「今週も頑張った」 「つらい」 「痛い」 「来週から治療が少し変わるから、痛くなるかもって