君に伝えたい百の言葉

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やさしさをまとって

やさしさをまとって

「へえ、」 わたしはひとり、つぶやいた。 Amazonで買い物をするときは、クレジットカード会社のホームページを経由して、「ポイント2倍」の恩恵を授かっていたのだけれど、その優待がなくなったみたい。 残念だけど、仕方がない。 わたしがいますべきことは、失われた事実を悲しむよりも、笑って「他に使えそうなモノはないかなあ」と探すことだった。 わたしが普段使うサイトで、ポイント2倍になるもの。 調べてみたら、「ユニクロ」の文字を見つけた。 なるほど、これなら使うかもしれない。

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わたしの未来を生きていて

わたしの未来を生きていて

メッセージを開いたら、写真が届いていた。 誰かの顔のアップで、それが送り主でないことだけはすぐにわかった。 「誰だよォ」と思いながら、タップした3秒後には泣いていた。 顔を見た瞬間、ほんとうに、じわりと涙が滲んできた。 ほんとうに、久し振りに見る顔だった。 仲間内で話題になっても、「最近会った」という人はいつもいなかった。 それでも、懲りずに名前は挙がり、「元気かなあ」とか、「元気だろうね」とか、思い出話に花が咲いたりしていた。 久し振りの集まりに顔を出したということは

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僕たちの世界で

僕たちの世界で

あまのさんから、連絡が来た。 「散歩に行かない?」 休日の、午後の出来事だった。 「今日は毛布をしまって、掃除をしたいから、5時くらいでもいい?」と尋ねたら、「だいじょうぶ」と返事がきたので、出掛けることにした。 マックの前で待ち合わせすることになったので向かってみると、後ろ姿を発見した。 後ろ姿、なんだか妙だと思った。 待ち合わせをするならば、道路かマックに背を向けて、歩道を見るのがふつうのはずなのに。 あまのさんは、カメラを構えていた。 「新しいカメラ買ったんだ」

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ある日、夕方の記憶

ある日、夕方の記憶

歩き始めて数分経ったら、チャイムが聞こえてきた。 平日、夕方5時の音。 この平日は、わたしにとって休日で、「散歩にでも行こうかな」と思っていたら、こんな時間になってしまった。 梅雨の湿気も、夏の暑さも得意ではなく、憎らしいと思ってしまうのに、日が長いのはちょっぴりありがたいと思う。 夕方5時でも、明るい世界。 だらりと過ごしてしまった日中の罪悪感は、かんたんに打ち砕かれてしまう。 夏至は、もうすぐだ。 * チャイムの音が鳴り終わった頃、ジャージ姿の中学生をすれ違った。 背

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黄金色の世界

黄金色の世界

西日の、黄金色を見つめている。 ぶわりと輝く、そんな時間があることには気づいていた。 6月、 このあいだまでの雨模様は少し遠くなったようで、夕方には晴れている時間が多いような気がする。 基本的には方向音痴で、 それでも地図を見て、ひとりでどこでも行けるおとなの、ふりをして生きられるようになった。 方角のことなんか基本的にわかっていないけれど、会社のあの窓は西側なんだろう。 夕方、気づいたら見つめている。 黄金色に、輝く窓。 何かに包まれている、と感じるのは、錯覚だろうか。

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小さな旅人

小さな旅人

今日は、ここまででいい。 そう思っていたのに、「もう少し行ってみようかな」と蹴り出してしまう。 「もう少し」、わたしの人生はそんなふうにできている気がしている。 * 最近、帰宅時の散歩コースを開拓している。 いままでは、手前の駅で降りて歩いて帰る、というのが定番だったのだけれど、「こんなに迂回せずに、最寄り駅で降りてから散歩する方法はないか」と考えた。 思いついた、というほうが正しい。 そうだ、最寄り駅! この手もあったんだ! わたしは浮かれながらGoogleマップを開

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キッチンの換気扇の下、煙草を吸いながら

キッチンの換気扇の下、煙草を吸いながら

ずたぼろだったあのころのことを、あんまり思い出したいとは思えないままだけど あの時期に於いても大切な記憶っていうのは幾つかあって、苦味と一緒に時々噛み締めている。 あのころ、 動かない右手を許せず、はっきりと当たり散らすこともできず、もやもやと過ごしていた。 許せないのは、右手じゃなくてわたし自身だったのだと、いまでは思う。 そしてそれは、しかたのなかったことだ、と。 幼すぎたし、苦しすぎたし、実際のところ不便すぎた。 家の外ではそれなりにしゃんと過ごしていたわたしが、弱

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2ヶ月に1度、君に会う

2ヶ月に1度、君に会う

「松永さん、こんにちは」 声が聞こえてきて、わたしは視線を上げる。 「お待たせしてしまってすみません」と言われたとき、わたしはLDKを懸命に読んでいた。 だから、「ぜんぜん大丈夫」と言って笑った。 今日は、美容院に寄った。 美容院には、2ヶ月に一度くらい行っている。 前髪が伸びてしまった頃、そして毛量が増えて髪が乾きづらくなる頃は、だいたい同時に訪れる。 「今日は予定が急に空いちゃったんですか?」と問われて、わたしは首振る。 「仕事が早く終る日だったの、思い出して。お昼

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弟と、絶対の約束

弟と、絶対の約束

弟と話すとき、わたしは時々慎重になる。 おとうと、と特定の友人をそう呼んでいるけれど、「弟のような人」であって実際の弟ではない。 もう10年以上の付き合いで、当時年下の友人や先輩に囲まれていたわたしにとって、ほとんど唯一の年下だった。 弟という言葉に、わたしは「家族」という意味を込めている。 一緒に暮らしているわけではないし、血の繋がりもないけれど、 何か特別な繋がりの濃さ、を感じている。 もし、この人が同い年か、年上でも「弟」と呼んでしまったかもしれない。 なんとなく

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いつか、遠くへ行ってしまっても

いつか、遠くへ行ってしまっても

昨日眠ってしまったのは、まくらのせいだ。と思っている。 実際のところは怠惰なわたしのせい、というのはわかっているんだけれど まくらの吸引力というか、新しいこのまくらは、もふもふしている。 使い古して、べたんとなったアイツとは、ぜんぜん違う。 包まれている、と思う。 それは、許されることに似ている気がした。 買ってよかった、と思う。 長年の付き合いのまくらを手放して、IKEAで500円のまくらを買ったのは、数日前の出来事だった。 ずいぶんと悩んだ。 いや、悩んでいた。

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