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戸惑いから、ときめきへ

うすいピンクに、黒のリボン。
知ってる、この組み合わせ!

「ジルだ!!!」

ジルスチュアートには、とっておきのときめきがある。
むかし、安野モヨコ先生がジルの話をしていて憧れていた。ハタチくらいのとき。
そのときはジルのことなんかこれっぽっちも知らなくて。
東京のどこかの街でジルを見掛けたときは、言葉通り目がハートになったと思う。
積み重なった憧れが、爆発した瞬間だった。

わたしはいまでも、ジルスチュアートを愛している。

震える手で、袋を開く。
小さな箱。
だけど、化粧品やハンドクリーム、香水を扱うジルの商品ならば、何が出てきてもおかしくない大きさだった。
そして出会ったのは、うすいピンクに黒いフチ
ザ・ジルスチュアートのような王道カラーの、

「キーケース、かあ…」

三度まばたきをして、
これはもう、落胆と言ってもいい。

もうほんとに残念だけど、こういうことって、あるよね!?
定期入れを使わないのに、定期入れもらったり
本なんか読まないのに、ブックカバーをもらったり
みたいなことって、あるよね!?

わたしは、キーケースを使わない。
鍵はたくさん持っているけれど、家の鍵とその他に分けて、それぞれキーホルダーにつけている。

家の鍵はなくしても自己責任で、ごめんですむけれど
会社とか友達の家の鍵をなくすわけにはいかないから、キーホルダーを介してカバンにくっつるようにしていた。
だから、キーケース、は

使わないんだよなあ……

一生懸命選んでくれたプレゼントに「使わない」と烙印を押さなくてはいけねないことに、じわりと涙した。
わたしはなんてひどいやつなんだ、と思ってしまう。
こういうとき走り出してしまった感情を、止めることができない。

それでもおとなになったわたしは、少しだけ涙して途方にくれたあと、もう一度キーケースを開いてみた。

まあいい、使ってみよう。

自分の家以外の鍵を落としたら大変だ、という事実とか
わたしはキーケースを使ってこなかった、というのはやっぱり事実だけど
そういえばわたし、財布だって落としたことないからなあ。
そんなにビビらなくてもいいかもしれない。
キーケースには、キーホルダーとかカラビナをつけられる部分もあった。
これで、カバンと連結することもできそうだ。

いま、わたしはにんまりしながら、キーケースを使っている。

あんなに困って泣いたのに!
うそみたいに、わたしの暮らしに馴染んでいる。
もとから、そうだったみたいに。
ほんとうになんにも、問題なくて驚いている。
ただただ、かわいいだけだった。

ばかね、と
今宵、静かに反省している。

キーケースを使ってなかっただけで
絶対使いたくないなんて、そこまで思ってはいなかったはず。

「できない」と「やらない」とか
「できない」と「やりたくない」とか
「やりたくない」と「気になってる」とか
けっこう紙一重なことが多いよね。
ほんとは気づいてた。
でも、ときどき忘れちゃう。

どうしても嫌だと泣き叫んだっていい
そういうことからは、きちんと逃げるべきだけれど
「なんでやらなかったんだっけ?」と理由もわからないものは
とりあえず、試してみればいいんだよね。
合うか合わないかも、知らないだけで

まだまだ、知らないわたしがたくさんいるよ。

ときどき、教えてもらう。
誰かに
わたしの外側から
戸惑いから、ときめきへ、まるで羽化をするみたいに
変われるときは、訪れる。

これからキーケースで鍵を開けるたび、
わたしはきちんと、思い出していきたいな。と思っている。



見掛けたときには、かわいいって褒めてね




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