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君に伝えたい百の言葉

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あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
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2020年10月の記事一覧

音が連ねる記憶

今日はもうダメだ なーんて思うことは、よくある。 度合いは違えど、めずらしくない。 そんな夜 同居人がいないときは、大音量で好きな曲を流す。 今日は、アニメ「うたわれるもの」の歌集を選んだ。 なんとなく、Suaraさんの声が聞きたくなって アニメ「うたわれるもの」は、最近になって履修した。 親友、と呼んでくれる男が、勧めてくれたアニメだ。 「これは、人生で影響を与えてくれたアニメのひとつだ」 「君に、ぜひ見て欲しい」と強く推された。 この男は、軽音部の先輩で、いまとな

僕たちの北極星

久し振りに、アマノさんとゆっくり話した。 最近あったことの、どうでもいいことをつぶやき合う。 おやつを食べて、にんまりする。 看板のひとつずつを読んで、笑う。 少し眠たくて、黙る。 気が向くと、ふらりと遠くへ行ったりする。 わたしたちは、 少なくともわたしは、このひとの隣で、すこやかに自由な時間を過ごす。 隣を、守られた自由。 今日話したことの、半分以上をわたしは覚えていない。 他愛のないことを話す、それはやさしい時間だった。 覚えていることもある。 大切なこと。 最

まさかのわたしたち

たまに、母親と電話をする。 母は、わたしの上京後「電話をかけて繋がらなかったら不安になるから」と言って、自分から電話をかけてくることはない。 気が向いたとき、わたしが電話をかける。 ほんとうに、思い出したときに。 このあいだ電話したときに、わたしの近況の話になった。 なんでそんな話になったか覚えていないのだけれど、日々の暮らしの話。 同居人とは、うまくやっているよ、とわたしは言った。 「案外、生活に於いては”大らかな人”だったんだよね」 母親は、同居人のことを「繊細そう

わたしの一部をあなたに、預けます。

わたしは、すぐに忘れる。 上澄みをかすめるように、生きているような気がしている。 物事を、深く咀嚼できないような ふわふわとかるい、その代わりにほんの少しの明るさで、足先を照らしている。 そうして、なんとか呼吸をする。 「無職のあいだにはアニメを見ている」と話したのに、 「なにを見ていたの?」と訊かれて、答えられるタイトルは少なかった。 たぶん、実際に見たものの3分の1くらいだと思う。 そんなふうにわたしは、すぐに忘れてゆく。 むかし、母親が「読んだ小説の内容を忘れる」

あなたのぬいぐるみと、わたしの指輪

電車の中で、ぬいぐるみを抱えている女の子を見た。 かわいいなあ、とぼけっと眺めたあと ハッと、”わたしとおんなじだ”と気づいた。 あのぬいぐるみは、わたしの、金の指輪を同じなのでは、ないだろうかと。 * 左手の中指に、金色の細い指輪をしている。 友達からもらったものだ。 確か、「お気に入りで、なくしちゃったと思って新しいのを買ったんだけど、出てきた」と言って、ひとつをもらった…ような気がする。 もう5年くらい前のことなので、曖昧な記憶だけど、確かそんなことを言ってい

お兄ちゃん観察日記

「換気は、いいことだからね」 実兄のその言葉に、わたしは驚いた。 * このあいだ、兄が遊びに来た。 近所に住んで数年……もう、5年以上経過しただろうか。 遊びに来るのは2度目。 そもそも、遊びに来るようなタイプの人ではないので、「そちらに寄っていいですか?」と連絡が来た時点でも、驚きだった。 仲は、たぶん良いほうだと思う。 それでも、「兄妹でなければ友達にならなかったタイプ」で 兄はいまでも、未知の存在だ。 午前中からやってきた兄を、同居人とふたりで出迎える。 ごは

スーパーファミコンで遊んでいたころのわたしに会ったら、伝えてあげて

兄が、うちに遊びに来た。 貸していたタッパーを返しにくるという名目ではあったけれど、「遊びに来たい」と言ってくれたので、わたしは嬉しかった。 隣の駅の、反対側に住んでいる兄の家までは、歩いて30分。 ちょっと前までは「めんどう」とか「いつかね」と言っていたのに、最近は時々遊んでくれる。 同居人がカレーを煮詰めてくれているあいだに、わたしは兄とスマッシュブラザーズで対戦する。 兄から借りパクしているソフトで、今となってはわたしのほうが圧倒的にプレイ時間が長い。 それなのに兄は

時間が流れても、変わらずにいてくれるもの

母親にLINEをしたら、「今日は由美子ちゃんの誕生日だよ」と返ってきた。 これはいけない!と思い、わたしは慌ててプレゼントの発送手続きをする。 いつも、気がつくと由美子ちゃんの誕生日が訪れてしまう。 由美子ちゃん、というのは母親の親友の名前だ。 わたしにとっては、第2の母親のような存在と断言できる。 わたしは、由美子ちゃんのことが大好きだ。 由美子ちゃんとの思い出はいつもやさしい。 背筋を伸ばして、テーブルの上にきちんと両手を重ねて、身を乗り出すように一生懸命に頷いてく

自分の機嫌と、バランスを取ること

二度寝しちゃった。 怠惰に暮らすことを許しているので、だいたいのときは「ま、いっか」とか「疲れちゃったんだね」と、思えるようになった。 生きていることというか、起きていることって疲れてしまう。 無職なのに何を言うの、と思われてしまうかもしれないけれど。 確かに、疲労してゆく。ほんとうに、不思議だけれど。 それでもときどき、「やっちまった」と思う。 今日は一度起きて、ネイルを塗ったあとに、もう一度、うとうとすることを許した。 起きたら何時間も経っていて、何度もアラームを止め

路線図を片手に

最近は、制服姿の子どもたちを見かけるようになった。 ああ、よかったなあと思う。 みんな笑っている。 わたしはばかみたいに、「子どもが元気なのがいちばんだ」なんて思ったりする。 夕方は、たくさんの制服とすれ違う。 地下鉄を乗り換えて、通い慣れた目的地に向かう。 乗り換えはもう、迷わない。 通い慣れた、というのもあるけれど しっかり、駅の案内を見て、乗換案内を見れば、だいたいの目的地に着ける。 東京という街の案内図は、複雑かもしれないけれど、丁寧なような気さえしている。 乗

もう一度、「はじまりの輝き」

ピアスを落とした。 気づいたのは、出先だった。 そのときなぜか、耳元に触れたら、右耳だけピアスがなかった。 雨の中、買い物を終えて、さあ帰ろうと思ったときの出来事だった。 いつ落としただろう、 考えてみたけど、もちろんわからない。わかったなら、拾っている。 あさはかな自分を、責める。 フックタイプのピアスは、いままであんまり使ったことがなかった。 家を出るときに、ピアス穴にきちんと、フックを通しただろうか。 「なんとなく」ではなかっただろうか。 家を出る直前に鏡を見た、あ

最初からうまくいかないって、いまならわかる

すごく久し振りに、ヘアアイロンを使った。 もともとすごい癖っ毛で、ここ1年くらいは、ストレートパーマをあてているわけだけど、そろそろとれかかっている。 最近、頭の形がぼふんと大きい。 ストレートが取れて、癖で膨れ上がっているのだと思う。 毛先も、少しずつ跳ねてきた。 方向で言えば、左右どちらも→←の内側とか、←→外側に跳ねてくれればいいのに わたしの髪は絶対、→→に跳ねる。片方は内側、反対側は外ハネ。 風が吹いてないのに、片側から強風で煽られたように跳ねる。 「アイロン

理想に近づく

羨ましい、と思っている。 弟(と呼んでいるひと)の、ひとり暮らしの新居。 羨ましい。 何度見ても、思い出しても、羨ましい。 「最近、家が快適すぎて」とにやつく姿を見て、心から「よかったなあ」と思う気持ちは嘘じゃないけれど、確かにギリリと羨ましい。 羨ましいなら、マネすればいいんだ! そう思って、わたしは少しずつ整備を進めることにした。 ゴミを捨てて、積んであった洋服を畳んだだけで、だいぶスッキリした。 そして、もうひとつ。 これは、「手が届きそう」「やってみたい」と思

しあわせな時間

しあわせだな、と思う。 同居人がいなかったり、寝ているあいだ 午前中。 この部屋の午前中は、いつだって少し暗い。 窓を開けて、煙草を吸う。 コーヒーを淹れて、キッチンを占拠する。 わたしだけの時間。 順序立ててわたしは、掃除をする。 手順はもうだいたい決まっていて、加えて「換気扇のフィルターも変えちゃおう」とか、「明日はゴミの日だから、ゴミをまとめちゃおう」とか、「加えて」の作業をできちゃうわたし。 えらい。 気持ちがずいぶんとほがらかだ。 きれいになった床を見つめて、