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自分の機嫌と、バランスを取ること

二度寝しちゃった。

怠惰に暮らすことを許しているので、だいたいのときは「ま、いっか」とか「疲れちゃったんだね」と、思えるようになった。
生きていることというか、起きていることって疲れてしまう。
無職なのに何を言うの、と思われてしまうかもしれないけれど。
確かに、疲労してゆく。ほんとうに、不思議だけれど。

それでもときどき、「やっちまった」と思う。
今日は一度起きて、ネイルを塗ったあとに、もう一度、うとうとすることを許した。
起きたら何時間も経っていて、何度もアラームを止めた記憶がある。
今日は、弟と出掛ける予定だった。

朝、出掛ける前に記事を書いてしまおう、と思っていたのに。
「夜、空く時間がある」とわかっていたので、わたしの意志は弱かった。
実際、夜に時間があることは決まっているので、焦ることはないのに、なんだか「やっちまった」と焦ってしまう。
そういう朝とか、そういうときが、たまに訪れる。
感情を、コントロールしきれない。
わかっているのに。


感情をコントロールできない、幼稚な自分が情けない。と、思ってしまう。
いや待てよ、まあそういうときもあるじゃないか、と、もうひとりのわたしがなだめる。
このあいだ、友達と話したばかりではないか。
かつてのわたしたちは、自分への期待値が高すぎたよね、と。
なんで、あんなになんでもできる、と思っていたのだろう。
いまは、「できなくて当然だよね」って思うよね、と、わたしたちは笑ったではないか。

本当に時間がぎりぎり、というときでない限り、わたしは煙草を吸う。
日課通り、窓を開ける。
一度起きたときは曇っていたのに、なんだか空が晴れ渡っていて、またびっくりする。
それでも、冷蔵庫のコーヒーをマグカップにそそいで、煙草に火をつける。

アメリカンスピリット、という煙草は、ゆっくり燃える。
わたしは、それを見つめる。

一度起きたときに思い立って、ネイルを塗った。
青と、グレイの混ざったような色を選んでおいてよかった、と胸をなでおろす。
大丈夫、青だから、と言い聞かせる。
青い色は、気持ちの落ち着く色だ。
そして、「ブルーベース」と呼ばれる、赤みの強い肌色のわたしに、青はよく似合う。
新しいネイルを買うときは、「青みがかった」と言われる色を選ぶと、間違いがない。と信じている。
大丈夫、青だから。
落ち着く色だから、そして、よく似合う色だから。


約束までの短い時間で、何か記事を書こうと「ネタ帳」を漁るけど、最近のネタのメモは、だいたい書き尽くしてしまったあとだった。
また、少し焦る。
空は、こんなに晴れ渡っているのに。
青いネイルは、こんなにも美しいのに。
何を焦っているのだろう、ともうひとりのわたしが静かに笑っているのに、もやもやとした気持ちが、消えない。

流しを見ると、洗い物が溜まっていた。
毎朝、基本的には掃除をして、洗い物をすませてしまうことを個人的なルールにしていた。
きちんと、ひとつずつやれば終わる量だったけど、焦った気持ちを抱えるわたしには、グワンと殴りかかってくるような、気の遠くなるような量だった。
元気で、時間に余裕があるときは、なんにも気にならないのに。


洗い物は、同居人に任せよう、と思った。
ふたりでなんとなく、家事は分担しているけれど、「分担された家事をしない」ということも、別に許されている。
朝のうちに洗い物をするのは、わたしの勝手なルールだ。

任せよう、と思った。
そんなに、頑張ることはない。
いいじゃないか、任せたって、頼ったって。
一緒に住んでいて、手を貸してくれる人がいるんだから。
「お願いね」と言って、嫌な顔をされたことはない。


大丈夫、今日はそれでいい。
そうしてわたしは、昨日の残りのハーブティーを飲んで、気持ちを落ち着かせて、ラベンダーのアロマを炊いている。
集中したいときは、ローズマリーとかレモングラス、ペパーミントを選ぶんだけど、今日は甘やかそう。
とにかく、落ち着こう。
そういうときは、ラベンダーが良い。

深く息を吸い込んで、焦っている気持ちは、さっきよりずいぶん遠くへ行った。


「自分の機嫌の取り方、だよね」と、友達が言っていたのを思い出す。
そう、それだよね、と言って、わたしたちは頷きあった。
昔は、自分の機嫌が取れなくて傷つけあったし、すぐに絶望の淵に立って、二度と立ち上がれない、という闇に、囚われていた。
「もう二度と、飛べないかもしれない」と、かつて彼女の口から何度か聞いたけど、彼女はいまでも、なんとか空を飛び続けている。
そして、「自分の機嫌の取り方だよね」と、そういうことだよね、と笑い合う。

機嫌の取り方、を覚えてから、「怒ることと悲しむことも、必ずしも悪いことではない」という気持ちも、両立させるようにしている。
ほんとうにダメなときはダメで、それでもいい。
「バランスだよね」と言ってくれたのも、彼女だった。


今日はうまく、機嫌を取ってあげられてよかった。
これで、出掛ける前にひとつの記事を投稿して、目標達成。
あとは、「できる限り」のことを済ませればいい。
大丈夫、あとはぜんぶ「プラス」に働く。もう、ゼロ地点には到達しているのだから。



(追伸)

そうして、記事を書き終わった頃、弟からの連絡に気づいた。
わたしより1時間以上前に、弟は起きていたようだったけれど、「二度寝をしたから、予定通りの時間でいい?」と尋ねていたところだった。

OKというスタンプと一緒に、「二度寝は最高」と返ってきたのを見て、少し笑った。
そうしてかんたんに救われたわたしの「焦り」は、本格的に遠くへ、飛んでいってしまった。



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