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理想に近づく

羨ましい、と思っている。

弟(と呼んでいるひと)の、ひとり暮らしの新居。
羨ましい。
何度見ても、思い出しても、羨ましい。
「最近、家が快適すぎて」とにやつく姿を見て、心から「よかったなあ」と思う気持ちは嘘じゃないけれど、確かにギリリと羨ましい。

羨ましいなら、マネすればいいんだ!

そう思って、わたしは少しずつ整備を進めることにした。
ゴミを捨てて、積んであった洋服を畳んだだけで、だいぶスッキリした。

そして、もうひとつ。
これは、「手が届きそう」「やってみたい」と思ったことに、わたしは挑戦することにした。

弟の引っ越し当日、実家からの荷物の搬出は大物家具がなく、かなり速攻で終わった。

ということは、「実家からの荷物」に「生活に必要な大物家具」が含まれていない、ということを意味する。
荷降ろしをしたわたしたちは、車で買い物に出掛けた。
洗濯機、冷蔵庫、電子レンジをリサイクルショップで購入して、百均にも行く。
大きなスーパーと、デパートのあいだみたいなビルの中を、わたしたちは徘徊する。

その中で、どうしても値段が高く、「たぶん、もっと安いのがあるはず」と全員が思い、買えなかったものがあった。

わたしたちは、最後の希望をニトリに託した。

「まじかあああああ〜〜〜〜〜〜」

わたしはニトリで、小さく叫びを上げた。
買えなかった最後の物。
それは、布団だった。

そもそも、わたしがいま使っている布団は、もう本当に恥ずかしながら、18歳の上京時に親に買ってもらったものである…
同じように、同居人が上京時から使っているものや、一部同居人が途中で買い足したもので
正直、布団の値段の相場を、わたしは知らなかった。
ただ、「安いものがあるような気がする」と思って、駆け込んだニトリで見たのは「すぐに使える寝具6点セット」

税込みで約6000円???
こんなに安くていいの???
いや、相場を知らないわたしが言うのもなんだけど、この6点があれば、ほんとうにすぐ眠れる。
弟はこれに、数千円の毛布を買い足して、それで終わり。
ほんとうに???

わたしは後日、弟の部屋を訪れた。
部屋の隅にきちんとたたまれている布団を、ぐいぐいと掴む。
わたしはまだ、疑っていた。
6000円で、快適に眠れるわけがない、と。

掛け布団、敷布団と触っていくけれど、「薄い」とか「しょぼい」みたいな感覚はなかった。
過不足ない。
これで充分だ。
まじか……
「これでいいじゃん」と、ひとり勝手につぶやいて、わたしは弟の部屋を後にした。

布団を買い換えよう、と何度か思ったことがある。
そうしたほうがいい、と今でも思っている。
でも、布団は「粗大ごみ」になるので、捨てるのが面倒くさい。

でもこれなら、と思って、わたしはひとり、ニトリに旅立った。

季節外れになるから、もうないかな、と思いながら店内を駆け回る。
そうして見つけた商品を、にやにやと掴む。
お値段、約1900円……
わたしはにやにやと、レジに向かった。

買ったのは、タオルケット。

これなら、いま使っているものを「燃えるゴミ」として捨てられる。
いまのタオルケットは、ピンク地に「CD」をでかでかロゴが入っている。
これはもう、誰も信じてくれないと思うけど、18歳のときに譲ってもらった「クリスチャン・ディオール」のタオルケットだ。(そんなふうには全然見えない)

長年使っていたのだけれど、タオル地で全然乾かない。
大きいバスタオルみたいな存在だった。
譲ってもらっただけで、別に好きな柄でも、可愛いわけでもない。
もう、10年以上使った。

ニトリのタオルケットは、既に家にひとつある。
同居人が長年使っているもので、かつて同居前にわたしが転がり込んだときに、感動した一品だ。
「このタオルケットが気持ちよすぎて、わたしはもう二度と家に帰りたくない…」
そんなふうに思って、ずるずるとその後の同居になだれ込むことになった。

しあわせの、ニトリのタオルケット。
約1900円……
ああ、こんなに手頃な値段で、しあわせって買えるんだ……
この記事を書きながら、わたしはにやにやしている。

そうして、少しずつ生活を快適に、バージョンアップしてゆく。
その作業が、心地よいと思えた。

まずはタオルケットを変えることに成功したわたしは、次こそ布団を捨てる、という行動に移れるかもしれない。
だいたいのことは、「タオルケット買い替えて、シーツも買って、そういえば布団カバーも替えたほうがいいの?」と、タスクが”たくさん”になってしまうと、面倒になってしまうものだ。

ひとつずつならば、きちんと歩める。
ひとつひとつはきっと、全然たいしたことない。
「やってみれば、案外かんたんだった」みたいなことは、多い気がする。

そんなふうに、時間とか年齢を、重ねてゆきたい。

少しずつ快適に、少しずつ理想に
強張っている肩のチカラを抜いて、
この部屋の中で、わたしがきちんと、許されてゆきますように。

はやく、新しいタオルケットを抱きしめたい。
いまわたしは、結構なしあわせものだと思っている。


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