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記事一覧
短歌二十一首 【2024年3月まとめ】
【3月自選五首】
ひるがえる白のカプリーヌ、花の陰翳、反時計回りのデジャ・ヴュー
靴ずれがなおらないままヒール履き歩調が乖離してゆく春寒
それいゆつておいしさうねといふひとの瞳のなかに咲いてゐる花
春の闇ものやはらかくひろがりて白く妖しく梅の香ぞする
まどひきて今もまどへり雪の果て月が満つれば若芽生ひそむ
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特別なログインボーナスとして
短歌二十首 【2024年2月まとめ】
【2月自選五首】
お手本のとおりきれいに折り目つけぱふりとひらく四角の正しさ
たどたどしい英作文のように、訳:あなたが好きですずっと前から
そうやって虜にするの新しいピアスに気づくあなたの指先
言えないよきみの背中が遠ざかる春時雨ふる三月の嘘
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ふるさとの畦道ゆけばそよ風にあの子の茶色いしっぽが揺れる
六歳の娘のあはきをとめごころスカー
短歌八首 【2024年1月まとめ】
【1月自選三首】
何も得ぬ人生だと思いたくないから北限を目指して歩く
遠き日の歌がきこえる てのひらで溶ける風花の涙のつめたさ
冬の夜の月かげ澄みて水底によこたふきみに花を咲かせり
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おさなごの今日のできごと聞きながら実家で囲む鍋はあたたかい
教えてよ懇々と胸の奥底できみが育てた夢のかがやき
太陽光発電パネルが整然と並ぶ田んぼの跡地にた
短歌九首 【毎日お題まとめ⑤】
◯ハロウィン
Trick or Treat? 菓子の籠持ち黒レースのヴェールの下で紅き舌なめずり
◯Apple
512ギガのうち本当に大切なものはどのくらいですか?
◯ケーキ
ひとり時間しあわせはここにあるから びわ湖ブルーのケーキを食べる
◯白
きれいねと言ってあなたがふれたから白いリボンは蝶々になった
◯文学フリマ
再就職して「母」でない私になり文学フリマ
短歌十二首 【2023年12月まとめ】
澄み昇る月かげ木の間のあはひより冬に磨かるる君をぞ照らさむ
独り立ちして思い知ることがある きつねうどんの透きとおるだし
星屑にまぎれたまま生きてきたのに射手が狙いし紅き心臓
喪った恋を引きずる 板チョコに齧りついたらあふれる甘み
いつの間に似てきたのだろう弟の背恰好に父の面影
不確かなことほど心を締めつけて眠りを浅くする冬木立
イヤフォンで聞くきみの声しらしらと解けない魔法のように降
短歌二十三首 【2023年11月まとめ】
【11月の自選六首】
冬の陽に桃いろほころぶ返り花 わたしのなかにふたつの心音
草の穂がささめく空は澄みわたりあなたの名前にこめた秋の香
兆しすらないまま君はいなくなり小さな鍋で食べる湯豆腐
童心のやはきところとしてあらむ ウーパールーパーのましろき膚
若冲の白象の目のやさしさできみはカンバスに雲を描けり
どくけしそうばかりが溜まっていくかばん 意外と世界はやさしいと知った
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短歌三十首 【2023年10月まとめ】
【10月自選五首】
人らしく在りたいだけの吾亦紅どうして普通になれないんだろう
月白の空のふところ 何ひとつ障害のない生き方ってあるの?
Good night. 小さなきらめき抱きしめてネオンテトラの群れにまぎれる
この眼鏡外したらわたし鳥になる 知っているのはあなただけでいい
「開け胡麻」のごと開く裁縫箱にはくるみボタンの花園がある
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短歌九首 【毎日お題まとめ②】
◯電車
三年間同じ電車に乗っていた背の高いひとを思い出す空
◯読書または本
長き夜に没頭したい 待ちわびた鈍器のごとく厚き新書本
◯風
空を分かつ飛行機雲の裂け目から白風の吹き、蜩のこだま
◯ケンカ
冷戦が三日続いて君が言う「今夜はビーフシチュー」「うん、いいね」
◯秘密
言わないで あなたの心を盗んだこと ひそやかに花開く月下美人
◯アイドル
彼らな
短歌十一首 【毎日お題まとめ①】
◯未読
既読にはなりえぬ最後の言葉たちを蒼きハーバリウムに沈めて
◯望遠鏡
天文台の望遠鏡をかわるがわる覗いた僕らをつなぐ流星
◯記念品
胎毛で筆をつくれり みどりごの手ざわり思ふ母の記念品
◯ゲーム
僕は今、岐路に立っている それなのにルート選択の画面が出て来ない
◯泡
音のなき閨は濃藍の海の底 泡沫の吐息にひそむ言の葉
◯触れる
ひそやかに熟した何
短歌二十四首 【2023年9月まとめ】
愛おしさに気づいて触れた指、まるで夏の魔法だブルーサルビア
生きている尊さ噛みしめ水澄のつくる波紋をしずかに見てゐる
優しさは所詮偽善だ。それでもきっと、今も誰かが救われている
釘を使わずに木材を継げるならあなたにもっと優しくありたい
秒針の音がやけに響く夜中 取り込まれてもいい闇がある
愛を信じきれない「ぼく」はまだ物置の奥でうずくまったまま
色なき風 主人うしなひしデスクには万年筆
短歌十六首 【2023年8月まとめ】
ひたすらに求め合っても僕たちは激しき驟雨にかき消さる運命
無き世への道を閉ざせる通り雨 罪に染まらぬ濡れ色の百合
菩提樹は絶望をも蓋う どこまでも透明な青が続いていくなら
夏の星 映す清水をむすんでは 遠ざかる君の涙を呑み干す
君が行く黄泉路を焼き滅ぼせぬなら真っ赤な柘榴をひとつぶ下さい
会おうねという約束が散り残る 残暑見舞いを今年も一葉
灯籠を流した川の果てにいるあの子の愁いが晴れ