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#5 お茶屋を興す~無一文からのスタート|東京繁田園物語デジタルアーカイブ

本記事は、東京繁田園茶舗の創業者・繁田弘蔵が執筆した『東京繁田園物語』(1995年)の内容を再編集したものです。

▼第一章「お茶に出会う」の記事はこちら

無一文からのスタート

私が初めて自分の店を持ったのは昭和22年、場所は東京の阿佐ヶ谷でした。 
当時はまだ戦争が終わって二年しかたっていない時です。いまだ終戦の混乱の中にあり、ちゃんとした商店などない頃です。それだけに商売を始めるとしたらこの時がチャンスでした。

「とにかく一時でも早く店を出すこと」

父も強くそう言っていました。「露店でもなんでもいいからとにかく人より早く店を出せ、そうでなければ出遅れる」と。私も同じ考えでした。なによりスタートが肝心でした。 

阿佐ヶ谷に場所を定めたのは、私が東京の夜学に通いながら茶業を手伝っている時に、兄がここに店を出していたことがあったからです。そのためこの土地になじみがありました。ちなみにその兄の店は残念ながら空襲で焼失しました。 

当時、阿佐ヶ谷では間口二間ほどのバラック建ての店ならすぐにでも借りることができました。六千円の権利金を出せば、その一帯をとりしきっていた顔役から即座に借りられたのです。

露店は許さじ

ところがこの件に関して兄弟や親戚から反対が出ました。露店ではだめだと言うのです。 繁田園くらいはちゃんとした店を出さなくてはいけないと皆が口を揃えて言います。そこには祖々父の時代から大々的に茶業にたずさわってきた繁田組のプライドがあったのです。店を開くよりは妻をめとるほうが先で、いっそのこと養子に行くのが一番とまで言います。 

当時は戦争によって青年男子が極端に少なくなっていた時代です。私と同じ年頃の男子の大半は亡くなっていました。そのため多くの家で養子を欲しがっていたのです。

実際、 「金六さんの子供さんなら願ったりかなったり是非きてほしい」と、たくさんのところから望まれたくらいです。引く手あまたでした。しかも繁田という家柄だけでなく、兵隊に行っていたのでたいていのことなら自分ででき、その上商いもやってきましたから、自分で言うのはなんですがどこに行っても役に立つ男だったのです。 

しかし、養子に行くのはいやでした。行けば財産を増やしてあたりまえ、減らせばなんだかんだと言われるに決まっています。 養子に行く限りは財産を増やさなくてはならないという使命があったのです。それで養子行きは断りました。

このあたりの話は今の人ではちょっと想像がつきにくいかもしれません。 なぜ養子に行くのを兄弟や親戚が勧めるのかも理解しにくいでしょう。ただ、こういうことが別に不思議でもなんでもない時代だったのです。 

間口四間からのスタート

とにかく私としては一人ででも店を開き、商売をしようと意欲に燃えていました。しかし、兄弟や親戚は露店は絶対にだめだと言います。

そこで土地を借り、店を建てることに なりました。阿佐ヶ谷には疎開したあとの空き地がほうぼうにあって、顔見知りの地主さんが「だったらお使いなさいよ」と言ってくれたのです。しかし、新築するには金がいります。私にはその金がなかったので、盛岡と埼玉の兄が資金を出してくれました。 当時で八万円かかったと記憶しています。間口四間からなる店でした。 

開業初期の阿佐谷本店

そのようないきさつもあって、阿佐ヶ谷の店は兄弟三人の共同経営という形で発足しました。監督は埼玉の兄、仕入れは盛岡の兄、販売は私というふうに役割分担しましたが、実際には仕入れから販売まで私が一人で手がけました。そして三年目には会社にし、兄たちとも別れて文字通り独立したのです。二人の兄が出してくれた資金は、三年間で利益が十二分に出たので、会社設立の際配当金と利息とをつけて全額返済しました。

終戦後の焼け野原がまだあちこちに残る東京で人よりいち早く店を出したのですが、それは無一文からの出発でもあったのです。 

現在の東京繁田園茶舗阿佐ヶ谷本店
現在の東京繁田園茶舗阿佐ヶ谷本店(店内)

▼続きはこちら

★東京繁田園茶舗は、2024年7月にパリで開催されるJAPAN EXPO PARISに出展します。

JAPAN EXPO PARIS 2024
会期:2024年7月11日(木)~7月14日(日)
会場:Parc des Expositions de Paris-Nord-Villepinte
日本語版公式サイト:https://www.japan-expo-france.jp/

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