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『探求者』

生きていれば、知らない方が幸せなこともある。

誰かを傷つけないための優しい嘘のように、私たちは幻想に守られて生きている。愛、幸福、実体のないものに名前をつけて、その中身がなんなのか、実のところは誰も知らない。

知らないものに名前をつけずにはいられないのは、ひとりになりたくないからだ。愛も幸福も真実も、自分の中にしか存在しないと知ったなら、私たちはみな生まれて死ぬまで、一人残らず孤独であることを思い出してしまうから。 

清く正しいはずの真実が、私から全てを奪い去るかもしれない。私が戦うものの姿を、他の誰にも見ることは出来ないだろう。私の傷を、痛みを、他の誰にも知ることは出来ないだろう。


それでも知りたいと思えたなら、カンテラひとつ携えて、ひとりきりの旅に出よう。何が欲しくて何が要らないか、傷つかないように手に取る前に予想して、選別するのはもう終わりね。抱きしめたあとで爆発する地雷でも、抱きしめなくて後悔するなんてことは、絶対にしたくない。真実が私を救わなくても、知りたいと思う気持ちが、わたしの心に火を灯す。

教えてよ、この世界のこと、あなたのこと。それがどれだけ鋭いナイフでも、大きな爆弾でも、決して私を殺すことは出来ない。

『探求者』


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