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やさしさとは何か(5)〜発達障害の呼び方を変えたい〜

※前回の記事を未読の方は、ぜひこちらからどうぞ↓

前回は、定型発達と自閉症の違いにフォーカスを当てて社会脳ネットワークの一部を説明しました。

社会脳ネットワークの動きが違う発達傾向は、他にもあります。

今回は、前回取り上げた「定型発達」と「自閉症」に加えて、現在ポピュラーな次の2つの発達傾向を取り上げます。

・注意欠陥・多動性(ADD・ADHD)
・精神病質(サイコパス)

発達傾向の割合

ASD、ADD、ADHD、サイコパスなど、それぞれの専門家の本や論文を読んでいると、全人口の何%にそのような人々が存在するのか、調査結果に基づく統計や推測が記載されていることがあります。

それらをまとめると、大雑把にみて、おそらく次のような人口割合になっているのではないかと考えられます。

発達傾向の人口割合

・定型発達 85%
・注意欠陥・多動性(ADD・ADHD) 5%
・精神病質(サイコパス) 5%
・自閉症(ASD、ASC) 2.5%
・その他(学習障害や吃音症など) 2.5%

「%」だと「100人中○人」と考えてしまいイメージしにくいので、多くの学校の1クラスのように「40人中○人」で考えてみましょう。

・定型発達 40人中34人
・注意欠陥・多動性(ADHD) 40人中2人
・精神病質(サイコパス) 40人中2人
・自閉症(ASD、ASC) 40人中1人
・その他(学習障害や吃音症など) 40人中1人

この人数なら、イメージしやすい方が多いのではないでしょうか。

思い返せば、私は小学校から中学校の9年間は公立に通っていましたが、毎年クラスに2人くらいは落ち着きなく忘れ物が多い人がいたり、2人くらいは支配的で暴力的な人がいたり、1人くらいは吃音やチック症の人がいた記憶があります。

(これは今考えると、クラスごとの担任の先生の負担を不公平にしないよう、学業成績の上位者や、いわゆる問題児と呼ばれる特徴のある児童が偏らないように作為的に割り振っていたからではないかと思っています。)

また、「ADD・ADHD」「サイコパス」「自閉症」「その他の発達傾向」は、2つ以上が併発していることもあります。

発達障害の呼び方について

「定型発達」「注意欠陥・多動性」「精神病質」「自閉症」などの呼び方についてですが、すでに広く一般に普及しているので、一旦は便宜的に使用しました。

しかし、実は私はこれらの呼び方があまり好きではありません。

例えば「定型発達」ですが、もともとは"Neurotypical"という英単語で、直訳すると「典型的な神経回路」となります。

決して、「型に定まった通り正常に発達した」という意味ではないのです。

しかし、"Neurotypical"が「定型発達」と訳されてしまい、時には「健常者」と訳される事もあり、そうではない人たちが異常であるかのような印象になってしまっています。

ですので、この記事では、

「定型発達」→「典型発達」(ありふれた脳神経の発達)

と言い換えます。

そして、「注意欠陥・多動性障害」「精神病質」「自閉症」という呼び方についても、「定型発達」の人たちから欠点に見える部分に注目した呼び方であり、「定型通りに発達しなかった異常な人たち」という印象とレッテル貼りになってしまっています。

ですので、この記事では、それぞれの優れている面に注目して、

「注意欠陥・多動性障害」→「探索志向」
「精神病質」→「利益追求」
「自閉症」→「集中志向」

に言い換えます。

このような呼び方を採用する理由を、それぞれ説明します。

【ADD・ADHD】注意欠陥・多動性障害→探索志向

遊牧民

ADDやADHDの人は、時間にルーズで、よく話が飛び、整理整頓が苦手で、物事が長続きせず忍耐や集中力がないとされます。

しかし、ある調査結果では、定住生活をすると栄養不良になり、遊牧生活をすると健康になる傾向があるそうです。

特にADHDは、「身の回りの変化に敏感で常に気を配ることができ、気になったことがあると衝動的に確かめたくなる気質」があります。

この気質が、定住生活では「集中力がなく、じっとしていられない」欠点とみなされますが、遊牧生活では「家畜を守ったり食料や水をよく探し当てる」ことに役立ちます。

つまり、遊牧生活ではADHDは有能で、逆に典型発達者は障害者になりえるでしょう。

「移動しながら周囲に気を配り、気になるものを確かめる」を一言で表現すると「探索志向」が最適ではないかと思いました。

なお、ADDやADHDも、自閉症と同じようにスペクトラムになっており、典型発達との境界はあいまいで、典型発達にもADHDの傾向の強弱に個人差があります。

なお、ADDやADHDについて、より詳しく知りたい方は、

・サリ・ソルデン著「片づけられない女たち」Sari Solden "Women With Attention Deficit Disorder"
・トム・ハートマン著「ADD/ADHDという才能」Thom Hartmann"Attention Deficit Disorder: A Different Perception"

の2冊がおすすめです。

【サイコパス】精神病質→利益追求

利益追求✖️結果にコミット✖️非道徳性

サイコパスは、反社会性パーソナリティ障害とも言われ、反社会的な言動が多く、非合法・脱法的な行いなどを「誰にもバレなければよい」と躊躇なく行い、他人に迷惑をかけることに良心の呵責を感じない人たちとされています。

ある刑務所に服役している人の40%はサイコパスだったという調査結果があり、また、組織の支配階層や大企業の経営者の10%はサイコパスであると推測されています。

典型発達から見える欠点としては、自分の利益の為に人を思い通りに操作しようとしたり、冷酷で、人を傷つけても罪悪感を覚えない傾向があるとされます。

感情の起伏が激しいタイプの場合は、衝動的な暴力行為があったり、多くの犯罪歴がつくことがありますが、計算高いタイプの場合は、社会にうまく溶け込み、損になることは人に押し付け、得になることは人から奪ってでも自分の成果とし、平然と嘘をつき、法的なグレーゾーンも躊躇せず踏み込み、良い結果だけを求めます。

つまり、反社会的な行為を「リスクヘッジとして」自重する知恵があったり、「誰にもバレなければ」「誰も傷つけなければ」「上司に褒められれば」何をやっても許されるというような思考によって、結果にコミットすることが得意です。

ここまで意地悪な言い方ばかりを並べていますが、こういった汚れ役を平気で行ってくれる人がいるおかげで実は組織などが助かっている場合もあります。

これらの特徴を一言で言い表すと「利益追求」が最適ではないかと思いました。

なお、サイコパスもスペクトラムとなっており、典型発達との境界はあいまいで、典型発達にもサイコパス傾向の強弱に個人差があります。

なお、サイコパスについて、より詳しく知りたい方は、

・ロバート・D・ヘア「診断名サイコパスー身近にひそむ異常人格者達ー」Robert D. Hare "WITHOUT CONSCIENCE The Disturbing World of the Psychopathe Among Us"
・ジェームス・ファロン「サイコパス・インサイド」James Fallon "The Psychopath Inside"

の2冊がおすすめです。

【ASD・ASC】自閉症→集中思考

集中力

自閉症者は、こだわりが強く、興味の向く先が独特で、言葉を文字通りに解釈してしまうので言外の意図が伝わりにくく、空気が読めず、共感性に欠け、融通が利かないとされます。

しかし、典型発達とは異なる視野があるおかげで、見逃しがちな大切なことに気付いたり、特定の物事に没頭して新たな発見をしたり、思い込みなく言葉の意味から正確に内容をとらえたり、飽きずに反復的な動作を繰り返すことで技術的な精度を高めたりします。

これらの特徴を一言で言い表すと「集中志向」が最適ではないかと思いました。

前回の記事でも触れましたが、自閉症はスペクトラムとなっており、典型発達との境界はあいまいで、典型発達にも自閉症の傾向の強弱に個人差があります。

なお、ASDについて、より詳しく知りたい方は、

・千住淳著「自閉症スペクトラムとは何か」
・ローナ・ウィング著『自閉症スペクトル―親と専門家のためのガイドブック』Lorna Wing "Autistic Children: a Guide for Parents"

の2冊がおすすめです。

いかがでしょうか。

今回はここまでです。

今回の内容を踏まえて、次回は「発達傾向ごとのやさしさ」について考えていきたいと思います。

続きは後日投稿予定です。

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