見出し画像

やさしさとは何か(4)〜社会脳ネットワークによる個人差〜

※前回の記事を未読の方は、ぜひこちらからどうぞ↓

「あくびはうつる」って、よく聞きますよね。

一人があくびをすると、それを見た周りの人もどんどんあくびをしはじめる現象のことです。

まるで「あくび」を誘う見えない妖精のいたずらか、呪いか、ウイルスのようなものがあって、感染拡大しているように見えるので「あくびはうつる」と言われ始めたようです。

あくびはうつる

落語の「あくび指南」を見た観客が噺家の演技につられてあくびをしてしまうという話も有名ですし、私もオフィスで仕事をしていて同僚から同僚へあくびがうつっている様子を見かけたことがあります。

真面目に研究している人の実験では、モニターの映像、スピーカーの音、あくびを描写した文章を読んだ人などにも「あくびがうつる」現象がみられたそうです。

こう聞くと、あくびは誰にでもうつるのかな?と思いますよね。

でも、私は「あくびがうつった」経験がありませんでした。

きっと私と同じように「あくびがうつった経験がない」人もいるだろうなと思いました。

なので、世の中には、
・「あくびがうつりやすい」タイプの人
・「あくびがうつりにくい」タイプの人

の2種類がいるのだろうと考えるのが、私にとっては自然な流れでした。

では、どんな人がうつりやすいタイプで、どんな人がうつりにくいタイプなのでしょうか?

答えを先に述べると、

脳の中にある「社会脳ネットワーク」という部分の違い

によって、あくびがうつりやすい人とうつりにくい人がいるという事なのだそうです。

この「社会脳」を知ることが今回の記事のテーマの一つであり、「やさしさ」をより深く知るためのキーワードです。

「やさしさ」は「社会脳ネットワーク」の影響を受けています。

「社会脳ネットワーク」の発達に個人差があるため、「やさしさ」に個人差が生まれ、人間関係に相性が生まれます。

今回は、「社会脳ネットワークによるやさしさの個人差」について考えていきます。

社会脳ネットワークとは

脳はたくさんの部品の集まりです。

部品によって得意な役割があり、

・目から入ってくる情報を処理するのが得意な部品は「視覚野(しかくや)」
・耳から入ってくる情報を処理するのが得意な部品は「聴覚野(ちょうかくや)」

などと呼び、互いに連絡を取りあいながら分業しています。

(脳の一部が損傷すると別の部品が役割を代わる場合があるので、「得意な役割」という表現を使っています)

脳の部品ごとの役割分担

これらの部品の中に、人とコミュニケーションする際に活発に動く部品がいくつもあります。

そして、部品同士が複雑に繋がってネットワークを形成しています。

この、「人とコミュニケーションするときに活発に動く部品のネットワーク」のことを、ひとまとめに「社会脳ネットワーク」と呼びます。

そして、この社会脳ネットワークの動き方には、生まれつき個人差があります。

社会脳ネットワークの個人差

冒頭で、「あくびがうつりやすい人と、うつりにくい人がいる」というお話をしました。

この答えを探すには、次の実験結果が参考になります。

・自閉症児は、定型発達者に比べてあくびがうつりにくい

なぜ自閉症児はあくびがうつりにくいのか、という疑問に対する答えは、今のところ、社会脳ネットワークの機能の一つである

「ミラーニューロンシステム」

に違いがあるからではないか、という考えがポピュラーなようです。

ミラーニューロンシステムとは

「ミラーニューロンシステム」とは、人の動きを観察して真似をする部品の集まりのことです。

例えば、定型発達の赤ちゃんは、

・親の笑顔を見ると笑顔を返す
・大人のする仕草を真似しようとする

といった特徴があります。

これは、定型発達の脳がミラーニューロンシステムのスイッチを常にONにしている為と考えられています。

定型発達の人は、大人になってもミラーニューロンシステムが常にONになっているので、誰かがあくびをするとつられてあくびが出てしまう人が多いのではないか、という推測がされています。

これに対して、自閉症児は、

・親が笑顔を見せても笑顔を返さない
・大人が拍手やバイバイの仕草をしても真似しようとしない

などの特徴を示すことがあります。

その原因の候補として、ミラーニューロンシステムの動きに違いがあり、スイッチがONになる条件に違いがあるという事実が挙げられています。

自閉症の人が、大人になってもミラーニューロンシステムの動きが定型発達と異なり、その影響であくびがうつらないのではないかと考えられます。

自閉症スペクトラム

今では、自分に自閉症があるという自覚がないまま学校や社会で生活し、苦労を感じている人々がいることが知られています。

日常生活で出てきた自閉症の特徴が、仕事、学習、生活、健康、人間関係などに大きな障害となっている場合、専門家に相談すると「自閉スペクトラム障害(ASD)」と診断されることがあります。

自閉症の特徴を自覚しながら、我慢、工夫、諦め、取捨選択、周囲の理解や協力などによって、苦しみながらも仕事や生活をなんとか自立できるレベルに保てている場合や、いろいろ恵まれたおかげで所属する社会で平均以上の暮らしを実現できている場合は「自閉スペクトラム状態(ASC)」と呼ばれます。

ここまで紹介してきた、事実や実験結果や推測などを積み上げると、「あくびがうつりにくい人」には、ASDやASCと呼ばれる人たちも該当するだろうと考えられます。

そして、「スペクトラム(連続)」という言葉が入っていることからもわかるように、自閉症の強さは定型発達も含めてグラデーションのように個人差があるとされます。

定型発達と自閉症の境界はあいまいで、定型発達者の中にも自閉傾向があり、その強さに個人差があります。

自閉症と診断されるくらい自閉傾向が強くても恵まれていれば生活レベルが維持できることもありますし、逆に自閉傾向が弱くても他の要因も悪ければ日常生活が困難になり、障害者手帳などの行政支援が必要なケースもあります。

スペクトラム(自閉傾向の強弱)

視線の感じ方

定型発達と自閉症(ASD、ASC)の違いについて、もう一つ紹介したい特徴があります。

それは、視線に対する感覚の違いです。

例えば、

・ふと顔を上げると、人混みの中から待ち合わせしている人と偶然目があう
・なんとなく気配を感じて振り向くと、知り合いが自分を追っていた
・女性であれば、胸元に向けられる男性の視線に気づく

など、これらは定型発達者にとってはありふれた日常経験ですが、実は、これらも社会脳ネットワークが関係していると言われています。

定型発達者にとってのありふれた日常経験は、社会脳ネットワークの動きが異なる自閉症(ASD、ASC)の人にとっては、ごく稀にしか起こらない経験であったり、日常的であっても鈍感だったりします。

この視線の感じ方の違いが、人の意図や気持ちを察する「やさしさ」に大きく影響します。

定型発達者同士であれば、お互いに似た感覚を持っているので気持ちを察し合うことが容易です。

同様に、自閉症(ASD、ASC)同士であれば、お互いに似た感覚を持っているので気持ちを察し合うことが容易です。

しかし、定型発達と自閉症(ASD、ASC)は感覚が違うもの同士なので、気持ちを察し合うことが困難になります。


いかがでしょうか。

今回はここまでです。

今回の内容を踏まえて、次回は発達傾向の人口割合について考えていきたいと思います。

続きはぜひこちらからどうぞ↓

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?