【作品】金木犀と蜘蛛の巣の帯留め
せっかくnoteの世界ではクリエイターと呼んでもらっているので、たまには作品を。ジュエリーの学校に通っていた頃のものです。
課題の指定は「ふくりん留め」の「ペンダント」だったのですが、先生に頼んで帯留め兼用でも可として頂きました。
先にお断わりしておくと、私は蜘蛛が苦手でした。ではなぜこのようなデザインになったのかというと、偶然の出会いがいくつかあったのです。
石選び
ふくりん留めは、石の周囲を覆った金属をコツコツ叩いて伸ばして留めていく方法です。学び途中の素人ですし、まずはカボションカットで。
「石は沢山お持ちでしょうから……」
先生、よくご存じで。
候補になった石
デンドリティッククォーツ、プリーナイト、ロードナイト、マラカイト達
カボションカットや変形カットの石を並べた中で、これで作ろうかなと思ったのがこの丸いマラカイト、和名は孔雀石です。ピーコックグリーンの濃淡が美しい石です。
マラカイトはボトリオイダル構造といって、葡萄のように球体が繋がったような構造で出てくることが多く、一つ一つの球体は同心円状になっているため、どこを取ってカットするかで模様が全然違ってきます。マラカイト3石、全然模様が違いますでしょう?
この時から、蜘蛛の巣の一部みたいな模様だなと思っていました。
デザインを決める
ふくりんだけだとシンプルなので、何かつけたいなと思いました。
石座はソフトワックスで巻くのが課題でしたので、同じくソフトワックスでお花モチーフでもつけようかなと思いつつも、蜘蛛の巣が気になります。
その頃、東京都庭園美術館の展覧会を観に行きました。改装前です。
本館の横に大きな金木犀がありまして、ちょうど見頃でした。
この雨で花は落ちてしまうかな……と庭園の方に行きますと、立派な蜘蛛の巣がかかっていて、雨粒や金木犀の花が装飾のようについていました。
そうだ、金木犀にしよう!そして蜘蛛の巣もなんとか入れて……。
もう一つの出会いは、アンティークの着物屋さんで帯を見つけたのです。
蜘蛛の巣の絵柄で、巣の主は不在です。これは何かの思し召し。
制作
奇跡的に、作っている頃の写真が出てきました(←写真をすぐ捨てる人)。
金木犀の花は、ワイヤーワックスをUの字に曲げて、
溶かしたソフトワックスのシャカ玉を中心に落とします。
先日、ハルジオンとヒメジョオンの話の時に、
『作るなら、ヒメジョオンは紙を細く切って、ハルジオンは糸で』
と書いたのですが、それはこの金木犀を思い出していたのでした。
金木犀ならワイヤーワックスを曲げてくっつけて。
柊木犀なら薄くしたシートワックスをつまんで。
同じモクセイ科でも違うものですね。
0.5mmに伸ばしたシートワックスで作った石座に、
蜘蛛の巣の続きや金木犀の花を溶着します
こちらは付属品。帯に差し込む部分なので見えないのに、凝ってしまう…。
歌舞伎の『土蜘(つちぐも)』に出てくる、蜘蛛の精の隈取です。
量産する時には、金属の型でゴム型を作り、そこにワックスを流し込みます。その、インジェクションワックスという柔らかいワックスを溶かして、水流を作った洗面器などに少しずつ流すと、不思議な形が沢山できます。
その魑魅魍魎の中から、コロッとした形を探して、蜘蛛の身体にしました。
ワックスの型をキャスト屋さんに出し、シルバーに鋳造してもらいます。
鋳造は、歯に入れる銀歯を作るのと同じ技法です。工具も似ています。
キャスト上がり(軽くするため、石座の穴は後で広げました)
石をセットして、磨いていきます(そこは割愛(笑))。
完成~
これは現在の姿、硫化して黒くなってしまいました。磨かねば。
これが、蜘蛛の巣柄の名古屋帯です。元は羽織だったようです。
この蜘蛛の巣には主がいないので、主を作ったわけです。
蜘蛛の糸に雨粒がついたようなチェーンを付けました。
マラカイト色の帯締め(三分紐)も見つかりました。色々と奇跡的。
小さい蜘蛛は巣を守っています
「主」の女郎蜘蛛(のつもり)
そうそう、課題はペンダントでした。
帯留めの金具と、チェーンをつける金具を裏につけました。
マラカイトって、成分に銅が入っているので比重が重いんです。
ペンダントは10gが普通に着けられるギリギリと言いますが、これはまさかの25g!が、革紐など幅のあるものをつけて、セーターの上からするとそれほど気になりませんが、ずっと着けていたら肩こり必至でしょうか。
装着するとこんな感じ(揺れた蜘蛛が止まらない)
今はもう、こんな手のかかるものにはなかなか取り掛かれません。
目が悪くなってしまいましたし、喘息の吸入薬の副作用で手が震えるので、細かい作業はまだまだです。
《ご参考》歌舞伎の話
土蜘の隈取の写真はこちら↓↓
ちょうど今年5月公演の演目にも土蜘がありました。
以前、かぶき手帖を読んでいたら、音羽屋さんには投げた後の蜘蛛の糸を元のように巻くのが上手い方がいらした気がします。
『土蜘』は松羽目物と言ってお能からきた演目ですので、後見さんは黒衣ではなく裃です。その裃後見がシャーッと放たれた蜘蛛の糸を、演技の妨げにならないようにくるくると巻きながら回収していくのも見ものです。
本来でしたら5月は團菊祭(團十郎さんの成田屋と、菊五郎さんの音羽屋)ですが、成田屋の襲名披露もままならないこの状況。成田屋レベルになると襲名披露公演は3年がかりですから、この状況ではなかなか始める判断に至らないでしょうね……。
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