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服とあいつの思い vol.3〜いつまでも少年の心を忘れないPLAY TWO eye HEART〜

服とあいつの思い

ファッションスナップさんで以前連載されていた〝服とあの子のはなし〟という連載のオマージュ企画。

服を題材に男性を主軸とした短いエッセイストーリーです。

今回はPLAY COMME des GARÇONSのニットカーディガンに焦点を合わせました。


〜いつまでも少年の心を忘れないPLAY TWO eye HEART〜

ついに買ってしまった。
未知山耕平の長きに渡る悲願が達成された瞬間である。

COMME des GARÇONS(コムデギャルソン)
言わずもがな、日本を代表するファッションブランドの1つで、デザイナーの川久保玲が設立し、ジュンヤ・ワタナベの渡辺淳也、trico COMME des GARÇONSの栗原たお、GANRYUの丸龍文人(現在独立)、など、多くの人材を生み出し、その鬼才達を世界に排出したブランドだ。

COMME des GARÇONS、通称ギャルソンには多くのブランドラインが存在する。
その中でも一際シンプルかつ、若者に愛されるライン、それこそがPLAY COMME des GARÇONSである。
COMME des GARÇONSには明確なブランドアイコンは存在しない。
ルイヴィトンであればLVモノグラムやダミエ、Christian DiorならCDロゴ、サンローランならYSLロゴのような、そういったものだ。
COMME des GARÇONSを理解する第一歩は、自身の感性を研ぎ澄まし、他者を理解するよりも、自信を理解することでその本質を読み解くことが出来る、そういったブランドである。
言わば究極の屁理屈の塊のような、それでいて自己主張の塊のような、そんなものだ。
しかし耕平が今恍惚とした表情で手に取っているPLAY COMME des GARÇONSは違う。
PLAY COMME des GARÇONSは川久保玲が価格を抑え、ファッション離れが進む若者に対し、COMME des GARÇONSの良さを知ってもらいたい、その想いが反映されて制作されたブランドラインである。
しかし若者向けの安いラインと言えど、その辺の高校生や大学生が簡単に買える値段と言った訳ではなく、あくまでCOMME des GARÇONSの安価ライン。つまりベースが高いブランドの魅力を安くで伝えようとしても、つまるところ安かろうが1着数万円に達してしまう。
事実、今の耕平の年齢は27歳。
服は好きだが色々なファッションを試してみたい。今のご時世、トレンドを冠する服などいくらでも安く買えてしまう。中にはワンコインで買えてしまうものもある。
そのような世の中で1着数万円もする服を、先行き不安な若者が買うのは中々勇気のいるものだ。
耕平にも憧れはあった。しかしいざ買おうとすると気が引けてしまう。いつもはプチプラで揃えた安定感のあるファッションスタイルにいきなりお高い物を身に纏うのは、ずっと地元の片田舎で遊んでいた中学生が電車を使い、バスを使い、百貨店やセレクトショップの立ち並ぶ都心部へ行くような、そんな冒険心と緊張感が交差する。
しかし今耕平の手元にあるのは紛れもない、PLAY COMME des GARÇONSのニットカーディガンである。
学生時代から憧れていた。同じゼミのあいつが来ていたPLAY COMME des GARÇONSのハートロゴTシャツ
Tシャツ1着10000円もする高価なもの。なんて貧乏学生の耕平が買えるわけでもなく。プチプラのセール落ちTシャツを着ながらいつも横目で羨ましそうに見ていた。
見ているか、当時の俺よ。
今俺はPLAY COMME des GARÇONSの服を手に取って会計しようとしている。しかもTシャツじゃない。1着3万円以上もするPLAY COMME des GARÇONSのニットカーディガンだ。
しかしなんだこの敗北感は。買えるのだ。今ならお金もある。余裕もほんの少し出てきた。なのになんなのだこの敗北感は。
きっと手に取って大体のサイズ感を把握し、そのまま会計を済ましていればこのような感情は持たずに済んだはずだ。
なのに手に取り試着をし、少し考えたいと店を出て、また入って手に取って、もう一度落ち着きたいと思って店を出て、そしてようやく。初めに店に入ってから計3時間もかけてしまった。
3時間働けば、今ならアルバイトでも3千円は稼げると言うのに。
兎にも角にも、中々セールをしないPLAY COMME des GARÇONSのニットカーディガンを耕平はついに手に入れた。

それから数日後、季節は春。近所の大きな公園には、まだ咲ききっていない初々しい桜が少し肌寒そうに咲いている。
今日はゼミ時代の友人たちとのバーベキュー。
場所取りのため、耕平は少し早めに公園に着いていた。
今日の服装は白いシャツに黒のシングルライダース、黒いスキニーパンツと茶色いブーツ。
この間買ったPLAY COMME des GARÇONSのニットカーディガンは着てないのかって?
バカ言うなよ。バーベキューだぞ。
匂いが着いちゃうじゃないか。
もう少し、この春はお預けかな。
君を着て出かけるのは。
秋までもう暫くの間、大切に大切に、君は僕のタンスの中さ。
また逢う日まで。

PLAY COMME des GARÇONS

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