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【05:渺かなる盤瀛の揺籃】19.12.04. ('、3[___] .。oO( もみじ…

1.紅葉と高野山の決名

11月は紅葉を見るために京都や和歌山へと車を走らせていた。今年は気温がなかなか下がらなかったせいなのか、紅葉はやや足が遅いように感じる。下の写真は京都のとある庭園での何気ない一枚だ。池面に映し出される紅葉と水底に沈んだ落葉が浮いているように見えて、目の錯覚を誘って面白い。

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紅葉を池や湖、青空を背景にして美しく撮影するのは定番中の定番なのだけれど、こういった余り人が写真に写そうとしない場所を面白がる癖が自分にはある。タイトル画像に選んだ一枚はその一環だ。揺らめく水面に歪む水底の紅葉を写しただけなのだが、自分と重なるものがあったのでトップに持ってきた。その理由は4項にて。

お次は高野山・壇上伽藍の大塔と蛇腹道の紅葉たちだ。

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ちょうど紅葉の時期の高野山はどこも車と人で溢れかえっている。大きなキャリーケースを引っ張っている海外客が本当に多い。一度行ってみて分かったことだが、そうまでして観る価値のある美観が高野山にはある。都合が良ければ毎年でも行きたくなる場所だし、このNOTEを読んでくださっている方にも一生に一度は高野山をおススメしたい。

しかしながら、車で国道480号線を使って高野山に向かおうとすると、40分ほどくねくねと蛇行する山道との格闘になる。が、このことを自分は全く知らずに行ったので地獄を見ることになった。初めて走るには下記の悪条件が揃い過ぎていて、息つく暇を与えてはくれなかった。

・幅員が狭いこと(観光バスやトラックがカーブでそれ以外の車を止める)
・紅葉シーズンは交通量が激増していたこと
・信号が全くと言ってもいいほどないこと(40分間に2つ位しかない)
・工事で片側通行になっている場所があること
・下りでは同じスピードで自転車が並走していたこと(めちゃくちゃ怖い)

結局、最後の方はヘトヘトになり、自分が運転しているはずなのに若干酔ってしまったのが何とも情けなかった(帰る時もそうなったので、運転初心者が行くには相当の覚悟が必要だ)。

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高野山に到着後、休憩スペースで持ってきた柿の葉寿司をつまみながら、まだその時点では世に出していない詰将棋を開いた。手順を頭の中で繰り返し味わいながら、未定だったタイトルを少し考えることにした。高野山の決戦(1948年の第7期名人挑戦者決定三番勝負【升田ー大山戦】第三局)ならぬ、高野山の決名と言ったところか。

2.渺茫/盤瀛の揺籃

その詰将棋とは「驚愕の曠野」改良図(|5一玉| 角金4銀銀歩9、 59手、岡村孝雄氏、詰パラ 2004-4)を右に90度回転させたような下の図である。

図1 初形図

玉座裸玉には遠く及ばないが、果てしなく玉が広く見えることからタイトルを「渺茫/盤瀛の揺籃」(びょうぼう/ばんえいのようらん)に決めた。曠野(荒野)とイメージが被るのを避けるため、瀛(音:エイ、訓:おおうみ;大海)という形容を選んだ。「おおうみ」という読みはくずし字用例辞典 普及版、児玉幸多 編、東京堂出版の626ページを参照したものなのだが、下記リンクのように漢字の読みを紹介している様々なサイトを巡回しても「おおうみ」という読みはどこにも書かれてはいなかった。

タイトル「渺茫」にはストレートに遠く渺(はる)かなさま、広く果てしないさまという意味がある。また、サブタイトルの「盤瀛の揺籃」は直訳すると盤上という大海に浮かぶ揺りかごという感じになるのだが、揺籃には揺りかごの他に物事の発展の初期の段階という意味も持っている。本当のところは、この裸玉は天王山裸玉にたどり着くまでのほんの起点に過ぎないという気持ちが込めてある。

【参考】
①検討量
今回、「渺茫/盤瀛の揺籃」の検討で作成したテキストファイルの容量はトータルで2608KBにもなり、|5九玉|角金4銀3桂桂歩、29手、はる筆線屋、NOTEの172KBが霞んで見える量だ。文字数は文庫本で換算すると約2600ページ(約130万字)で、京極夏彦 著の「鉄鼠の檻」と「絡新婦の理」を読破するくらいの文字数がある。NOTEの一記事として張るには多すぎるだろう。

②脊尾詰による回答時間
次に詰むのにかかった時間を記しておく。脊尾詰は大抵の詰将棋であれば10秒以内に解を導いてくれるほどに回答がとても速い。試しに自分のPCで「ミクロコスモス」、1525手、橋本孝治氏を解かせてみたところ、 3分59秒という驚くべきスピードで回答した。同じ条件で「渺茫/盤瀛の揺籃」を解かせてみると4分45秒となり、「ミクロコスモス」を軽く上回る記録を叩き出した。棋力に自信がある方は是非ともこの渺茫たる盤瀛にダイブして頂きたい。

これらのことから、「渺茫/盤瀛の揺籃」の難易度は死ぬほど難しいレベルと言っても差し支えないだろう。こういうことを書くと某Twitter上で「詐術的印象を与える」などとまた難癖を付けたうえで晒されるかもしれない。

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一筋の光明とでも言うべきか、未発見の1筋の完全作裸玉は探せばまだ残されているらしい。唯一未発見の地点は1六であり、探し続ければいつかは見つかるだろう。「渺茫/盤瀛の揺籃」は自分としては前述の逆玉座裸玉に次ぐ2作目の発表であり、史上2例目の五段目の完全作裸玉でもある。いずれは高野山でなく、京都の天王山で同じような命名をやってみたいものだ。

裸玉報告数191204+

冗談はさておき、「渺茫/盤瀛の揺籃」は解の手順が中々興味深い。まず、初手▲4八角の限定打に対して2手目▽2六銀の限定合で返すところから始まる。仮に、初手▲3三角や▲4二角とすると2四に(歩や金などの)合駒を打たれて詰まないし、▲3七角と近づけて打とうものなら同じ▽2六銀で不思議と詰まない。2手目も銀以外を合駒をすれば早詰になる。ちなみに、銀合に次いで長手数なのは角合の33手詰だった。

手数が長いので、10手単位でざっくりと解の手順を眺めていこう。

図2 2手目▽2六銀

【初手~10手】
▲4八角   ▽2六銀(上図)▲1六銀   ▽同 玉
▲2八桂   ▽1五玉    ▲1六金   ▽2四玉
▲3六桂   ▽3五玉(下図)

図4+ 10手目▽3五玉

▲4八角が絶妙の位置で検討を行うと▲3七角でも▲5九角でも詰まなかった。10手目までに桂を打って跳ねる手が含まれているので手順には躍動感が感じられる。

【11手~20手】
▲2六金   ▽4五玉   ▲3五金   ▽同 玉
▲4四銀   ▽3六玉   ▲3七金   ▽4五玉
▲5五金   ▽3四玉(下図)

図5 20手目▽3四玉

金を押し売りし、桂の利きを利用して上から銀を被せることによって手つかずの盤に包囲網が急激に形成されていく。この流れるような手順には個人的に感動を覚えた。

【21手~30手】
▲3五歩   ▽2五玉   ▲2六金   ▽1四玉
▲1五金   ▽1三玉   ▲2四銀   ▽1二玉
▲2三銀打  ▽2一玉(下図)

図6 30手目▽2一玉

4八角・3七金が主役となって玉を物量で圧していく。後述するが、29手目の▲2三銀打は▲1三銀打でも良く(単一駒非限定)、30手目の▽2一玉(作意)に対して▽1一玉と逃げる手もある(変同)。

【31手~40手】
▲2二銀成  ▽同 玉   ▲3三銀左成 ▽3一玉
▲7五角   ▽2一玉   ▲2二歩   ▽1一玉
▲1二歩   ▽同 玉(下図)

図7 40手目▽1二玉

銀を成り捨てて長く眠っていた角が35手目にしてようやく7五へと飛び出し、左辺への逃走経路を断つ。ようやく収束が見えてきた。

【41手~45手】
▲2三銀成  ▽1一玉   ▲2一歩成  ▽同 玉
▲2二成銀左(下図) まで45手詰

図8 45手目▲2二成銀左

41手目の▲2三銀成は不成でも構わない(成/不成非限定)。詰み上がり図は詰方の駒ばかりだけれど、2筋と五段目の並びは作ったかのように整然としている。

3.補足

図9 29手目単一駒非限定

ここからはキズについて記しておく。29手目は上図の通り▲2三銀打/▲1三銀打のどちらでも構わない(自分は▲2三銀打を選択した)。これに対して30手目に▽2一玉/▽1一玉と2通り逃げる手があり、下のような4つの図が生じる。

図10 30手目変同

30手目に▽2一玉を作意としたのは理由が2つある。1つ目は玉方として広い方に逃げることが自然であること、2つ目は▽1一玉を作意にすると余詰が発生するためだ。詰み手順は2通り存在し、1つは作意手順と同じく▲2二銀成からの詰みで、もう1つは下記に示すような▲1二歩からの詰みだ。

【29手~45手】
▲X三銀打  ▽1一玉   ▲1二歩   ▽2一玉
▲2二銀成  ▽同 玉   ▲3三銀左成 ▽3一玉
▲7五角   ▽2一玉   ▲2二歩   ▽1二玉※
▲2三銀成  ▽1一玉   ▲2一歩成  ▽同 玉
▲2二成銀左 まで(X=1、2)

※:ここで作意手順と合流する

41手目の▲2三銀成を▲2三銀不成とすると▽1三玉▲1四金までの43手早詰という分岐が増えるだけなので、成/不成のどちらでも良い。

図12 41手目▲2三銀不成

最後は45手目の検討だが、最終手余詰が多数ある。

①41手目▲2三銀成の場合
3一角成ー同玉3二成銀直まで最終手余詰(47手)
3一角成ー1一玉2二馬まで最終手余詰(47手)
3二成銀直ー1一玉2二成銀直まで最終手余詰(47手)
2二成銀左ー◎(45手)
3二成銀右ー1一玉2二成銀上まで最終手余詰(47手)
3二成銀右ー1二玉2二成銀寄1三玉2三成銀寄まで最終手余詰(49手)
2二成銀直ー◎(45手)
1二成銀ー同玉で不詰

②41手目▲2三銀不成の場合
3一角成ー同玉3二銀成まで最終手余詰(47手)
3一角成ー1一玉2二馬まで最終手余詰(47手)
3二成銀ー1一玉2二銀成まで最終手余詰(47手)
2二成銀ー◎(45手)
3二銀成ー1二玉2二成銀寄1三玉2三成銀寄まで最終手余詰(49手)
3二銀不成ー1一玉で不詰
2二銀成ー◎(45手)
2二銀不成ー1二玉1三銀成同玉3一角成1二玉2二馬まで最終手余詰(51手)
1二銀成/不成ー同玉で不詰

4.トップ写真の意味

実のところ、初手▲1六歩を▽同 玉と取ると詰んでしまうほどに持駒が強い。▽2五玉と逃げた局面を検討している時はいつ余詰が出てくるのか?と常に恐怖と不安に苛まれていた。水面の波で歪んで見えている紅葉は完全作がぼやけて心細いという暗喩であり、穏やかではない心中を投影している。

図13 初手▲1六歩

.これからの展望

|1五玉|角金3銀3桂歩3を一筋の光明と形容したのには単に1筋の裸玉だからという他にも理由がある。|5九玉|角金4銀3桂桂歩と全く離れた場所での持駒ととても良く似ているようには見えないだろうか?これは自分の直感なのだが、5筋と五段目が直交する天王山においても|5五玉|角金a銀b桂c歩dという持駒系が成立する気がするのだ。ついでに言えば、初手も▲8八角(▲2八角)から始まる手順かもしれない。

図11 天王山裸玉の初手▲8八角

実際に2五玉や3五玉での探索はもう始めていて、2手変長や完全作に近い候補はいくつか見つかっている。今後は、1五から天王山へのアプローチをやっていきたいと思っている。最後は真っ赤な紅葉でキレイに〆ておこう。

ここまで長駄文を読んでいただきましてありがとうございました。

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6.スペシャルサンクス

詰将棋おもちゃ箱 様:裸玉完全作リストを拝見いたしました
パナソニック将棋部 御中:脊尾詰を使用させて頂きました

7.引用について

|1五玉|角金3銀3桂歩3、45手、はる筆線屋、NOTE2019.12.04.について、他の誰かに自作発言をされては困るので|1五玉|角金3銀3桂歩3の引用をする際は、拙作だということが分かるように何かしら明記してください。

8.完全性について

別NOTEに検討結果を記載しているので、興味がある方はどうぞ。



「ためになるわ」と感じて頂ければサポートを頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。