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【数学×詰将棋】確率統計を勉強したら、分からないことがちょっとだけ推定できるようになったかもしれない

このNOTEのテーマは数学と詰将棋とのコラボです。前回の素数・合成数関係について綴ったNOTEで未知の関数を求めるためには確率統計の知識が必要だと知りました。少しだけ勉強してみたので、その成果を詰将棋の世界で実践してみようと思います。よろしくお願いいたします。

1.詰将棋の裸玉ってなんぞや?

裸玉というのは将棋盤に玉1枚だけがポツンと配置された詰将棋のことです。通常の詰将棋は攻め側の駒が盤上に何枚か置かれている(拠点がある)ので、見た目からある程度候補手を絞り込むことができます。しかし、裸玉の場合は最初に詰めやすい場所へ玉を誘導したり、攻めるための拠点を作るところから始まるので、手順がより複雑化します。作品として成立させるためには詰み上がりに至るまでの解手順を一通りに限定する必要があるんですけれど、その条件を満たす図は今までに制作された詰将棋の数(少なくとも30万作)を分母とすればめちゃくちゃ少ないんです。

200326 図2 裸玉

「最初から最後まで単一解手順が存在して、はじめて作品として認められる」という一般的な詰将棋の創作ルールの基準を裸玉にも当てはめると、認められる作品は最悪ゼロ、あっても1,2作品に減ってしまうでしょう。そんな事態を避けるために、裸玉に関しては解として許容される基準が緩めに設けられています。完全作の裸玉についてはスライドに記載した基準をクリアすれば作品として認められます(おそらく「最終二手非限定を許容」もこれらの基準に入ります)。

2.今まで作られた完全作裸玉はどんな感じ?

裸玉報告数191204+++

2019年12月までに作られた完全作の裸玉の作品数を玉の配置と対応するように数字に書きました。例えば、1一玉の裸玉なら4作品、5九玉の裸玉なら2作品あるという感じですね。盤の中央に行くほど玉の逃げ道が手広いためか、作品がない(もしくは見つかっていない)裸玉砂漠とも言えるゼロ地帯が広がっています。

盤面の半分しか数字が書いていないのは将棋で使う全ての駒の利きが左右対称だからです。仮に、左サイド(6~9筋)に玉を配置した場合は鏡に映したように詰み手順が左右反転しただけの同一作品という扱いになるので省略しています。

3.完全作裸玉の平均詰み手数と平均持駒枚数はどんぐらい?

前々から興味があったのが、完全作裸玉が全部解明されたとしたら①詰みにかかる平均の手数と②初形図の持駒の平均枚数はどんぐらいになるのか?でした。今回はそれを知るために統計をとります。未知の完全作裸玉まで含めた全体像(下スライド左)を「母集団」、今あるデータ(下スライド右)を「標本」と呼びます。標本は母集団から適当にサンプリングしてきたものとして捉えて、そこから推定を行います。

200326 図1 サムネ

詰将棋には、その創作ルールがあらかた定まってから400年以上の長い歴史がありますけれど、完全作の裸玉は自分が知る限りだとまだ37作しかありません(詰将棋全体からすればおよそ1万分の1の割合)。そのうちの2つ(下左下右)が去年にNOTE発表したものです。どちらもコンピュータの力を借りて発見し、その手順に不完全さ(キズ)がないことを調べあげる数ヶ月間は人間性を失いかけ続けた時間でした(完全性の証明も別のNOTEにアップしてあります)。

200326 図3 2つ裸玉

4.データから平均値を出してみた

標本となる37作のサンプルの詰み手数と初形図の持駒の枚数のデータを収集して計算した統計量の表を示しましょう。

200326 図4 標本統計

標本平均は【平均詰み手数28.3手、平均初形図の持駒数8.81枚】となりました。詰将棋の手数は常に奇数なので27手か29手が平均値ということでしょうね。拙作もちょうど29手のものがあるので「すごいな(小並感」と思いました。

標本平均以外のデータについて、標本分散・標本標準偏差は標本平均を軸にしてデータがどれだけの広がりを持っているかを表す数字で、数値が大きいほどその散らばり度合いは大きくなります(標本の最短手数は9、最長手数は59なので、それなりの散らばり度合いです)。不偏分散は母集団のデータの散らばり度合い(母分散)を表す数値ですね。

例えば、硬貨や飲み物などの(平均値となる)重さや大きさが決まっている製品を大量に作らないといけない場合をイメージします。いくつかサンプリングしてきた標本の不偏分散がゼロ付近の数字にならなかったとしたら、平均値からズレている製品が少なからず混ざっているので「製造止めんとアカンわ」ということを数値で教えてくれます。感覚的には、不偏分散は製造を進めるか止めるかの判断に使えるバロメーターという感じですね。

今回は完全作裸玉の母集団に関する推定データが知りたいので標本の不偏分散を使ってちょっと計算をしてみます。

5.完全作裸玉母集団の平均詰み手数はどんぐらい?

母集団が正規分布に従うと仮定して考えると、母集団の平均値は標本と同じになります。

200326 図5 母平均

4項で標本平均が27手か29手になるという計算結果を示しましたが、その値がどれくらい信頼できるのか?を計算するのに不偏分散(119.60)を使いました。その結果、平均詰み手数はグラフの黄色で塗られた23手~33手の範囲にあるということが99%超の確率で信頼できると分かりました。

6.完全作裸玉母集団の平均初形図の持駒数はどんぐらい?

詰み手数と初形図の持駒数がそれぞれの互いに影響を及ぼし合わない独立した数字として見ると、母集団の平均初形図の持駒数は次の通りになります。

200326 図6 母平均(駒数)

4項で標本平均が8.81枚になるという計算結果を示しましたが、その値がどれくらい信頼できるのか?を計算するのに不偏分散(9.38)を使いました。その結果、平均初形図の持駒数はグラフの黄色で塗られた7枚~11枚の範囲にあるということが99%超の確率で信頼できると分かりました。拙作の完全作裸玉が2つとも11枚だったんですが、この推定を元にすると母平均に近いので、偶然でも何でもなかったと言えそうですね。

まとめ...と願望(天王山裸玉ってあるんかいね?)

200326 図7 まとめ

完全作裸玉の全体像について、正規分布に従うと仮定すると
①詰みにかかる平均の手数は 23手~33手
(信頼度>99%)
②初形図の持駒の平均枚数は  7枚~11枚(信頼度>99%)

個人的な最終目標は5五(天王山)における完全作裸玉の発見ですが、中央は完全に砂漠状態なので、何かしらの糸口が欲しかったんです。今回統計を取ってみたら平均持駒枚数が出たんで、これからはそれを参考にして探索してみようと思いました ( 'ω' ).。oO( 候補を見つけるだけで数ヶ月、単一解と証明するのにまた数ヶ月かかるし裸玉は魔性すぎるわ...

スペシャルサンクス

詰将棋おもちゃ箱 様:裸玉完全作リストのデータを計算に使用させていただきました

「ためになるわ」と感じて頂ければサポートを頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。