『バベットの晩餐会』は、純粋な食欲を刺激する


いつからだろう。

食べることの歓びを忘れてしまったのは。



『バベットの晩餐会』は、ガブリエル・アクセル監督による、デンマークが舞台の映画。

牧師の娘であるマーティーネとフィリパという姉妹は、ちいさな村で質素な生活を送っていた。

そこに、家政婦として働かせてほしいと言ってきたのが、フランスから亡命してきたバベット。

実はバベットは元々パリの有名な料理人で、そんなバベットが来たことで、姉妹をはじめとする村人たちの生活がすこしづつ変わりはじめるという話だ。



この映画のハイライトは、バベットが村人たちのために晩餐会を開くところである。

フランスから取り寄せた高級食材をふんだんにつかって、村人たちが食べたこともないような料理を提供する。

その料理は、とにかく生き生きとしている。

上品なスープ、鳥のパイ、どっしりとしたケーキなどなど。

なにがなんだかわからないけれど、初めての味にわくわくし、つぎはなにがでてくるのだろうとどきどきし…



そんな食事を、もうずいぶん長いこと経験していない。

けっして高級料理が食べたいというわけではない。

ただ、予想のつかないものを、心を躍らせながら食べたいのだ。

自分でつくる食事は内容がわかりきっているし、むしろ慣れているものしかつくらない。

そもそも食事への意欲がなく、ただの作業になってしまっている。



子どもの頃はもっと食べることが大好きだったはずだ。

遊び疲れて帰ってきては、「晩ごはんはまだ?」と親に駆け寄ったものだし、お腹を空かせては「おやつが食べたい!」とせがんだものだし、初めて食べるものにはどきどきしたものだ。

なのに、いつからか体型や健康を気にしては「食べてはだめだ」と自分を縛りつけ、食べることが悪いことや卑しいことに思えてきて…

食べるという行為の純粋な歓びを忘れ、大好きな人と食事をたのしむことの素晴らしさを忘れてしまった。



でも、映画にでてくる食事シーンはすきだ。

どんな映画でも、どんなにあたりまえな食べものでも、それらはとてもわたしを魅了する。

『バベットの晩餐会』の食事シーンももちろんすきだ。

子どもの頃の、純粋な食欲が湧きあがってくる。




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バベットの晩餐会(Babette's Feast)

ガブリエル・アクセル

1987年/デンマーク/カラー/103分