羽子

偏った映画愛と、くだらない人生について。 ​映画ではない人生を、映画とともに生きていく。

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最近の記事

『バベットの晩餐会』は、純粋な食欲を刺激する

いつからだろう。 食べることの歓びを忘れてしまったのは。 『バベットの晩餐会』は、ガブリエル・アクセル監督による、デンマークが舞台の映画。 牧師の娘であるマーティーネとフィリパという姉妹は、ちいさな村で質素な生活を送っていた。 そこに、家政婦として働かせてほしいと言ってきたのが、フランスから亡命してきたバベット。 実はバベットは元々パリの有名な料理人で、そんなバベットが来たことで、姉妹をはじめとする村人たちの生活がすこしづつ変わりはじめるという話だ。 この映画のハ

    • 人生はディティールで構成されていることについて

      江國香織さんの本がすきだ。 なぜなら、江國さんの書く物語は、とるにたらないことで構成されているから。 たとえば、『冷静と情熱のあいだ』にはつぎのような描写がある。 目がさめて寝室がうす暗く、水音がきこえるとぐったりしてしまう。雨は好きじゃない。昼間こうして部屋のなかで本を読んでいても、膝の裏に触れるソファの質感が水を含んでいるし、頁をめくるたびに湿った紙の匂いがする。 マーヴが仕事から戻ったとき、私はすね肉をセロリと煮込みながら、台所で本を読んでいた。「ただいま」うし

      • 『ハリー・ポッター』と喪失感について

        なにかの本で読んだのだが、『ハリー・ポッター』のテーマは喪失感であると、作者J.K.ローリングは述べていたのだそう。 わたしはこの言葉に妙に納得したものだ。 『ハリー・ポッター』といえば知らない人はいないのではないかというほどの有名作品で、小説のみならず映画も大ヒットした。 緻密に練り上げられた世界観は、ファンタジーであることを忘れるほどわたしたちを魅了する。 夢のような魔法の世界と、ドキドキハラハラの展開。 「喪失感」なんてみじんも感じられない気もする。 わたし

        • 『アデル、ブルーは熱い色』で、熱い愛を目撃する

          この映画をひとことで表すとすれば、「一瞬の熱さ」。 『アデル、ブルーは熱い色』は、アブデラティフ・ケシシュ監督の作品。 主人公のアデルが、ある日エマという女性と出会い恋に落ちるという物語。 セリフではなく空気で登場人物の心情を描写していたり、映画全体をとおしてブルーが散りばめられていたりするのが印象的だ。 この映画をみて考えさせられるのは、こんなにも情熱的な愛を経験することができる人はなんて幸運なのだろうということ。 アデルとエマは、出会いの瞬間からひと味違う。

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        • 『ハリー・ポッター』と喪失感について

        • 『アデル、ブルーは熱い色』で、熱い愛を目撃する

          『SOMEWHERE』は、目に染みるほど眩しい

          砂地をフェラーリがブーンと走っては消えていく。 それが何度も何度も繰り返される。 そんなオープニングをみた瞬間、この映画がすきだと思った。 『SOMEWHERE』はソフィア・コッポラ監督の作品。 映画スターのジョニーは、たくさんの女性やファンに囲まれてきらびやかな世界で暮らしていた。 しかし、離婚した妻との子どもクレオを一時的に預かることになってから、ジョニーの心に変化がおとずれるという話。 やさしい色あい、眩しい陽の光、瑞々しい空気、ゆったりと流れる時間。 ソ

          『SOMEWHERE』は、目に染みるほど眩しい

          いつか『アメリ』をみて泣かないようになりたい

          世界とうまくむきあうことができない。 そんな悩みをもっている人はいるだろうか。 『アメリ』はジャン=ピエール・ジュネ監督の作品で、日本でもよく知られているフランス映画。 アメリのヘアスタイルやファッションに夢中になった女の子は数知れず。 ちいさい頃からひとりの世界にこもり空想ばかりしていたアメリが、徐々にまわりの人との交流を深め、やがてニノという男性に恋をするというお話。 絵本のような世界観、おしゃれなパリの風景、赤と緑(ときどき水色)のうまく配色されたセンスのいい

          いつか『アメリ』をみて泣かないようになりたい

          『ロスト・イン・トランスレーション』で孤独の感触を確かめる

          映画のラストでは、足のすくむような恐怖が押しよせてきて、思わず泣いてしまう。 やっとひとりじゃないと思えたのに、またひとりになってしまう。 生きることの孤独や未来への不安を浮き彫りにした映画だ。 『ロスト・イン・トランスレーション』は、ソフィア・コッポラ監督の作品。 夫に連れられて東京に来たシャーロットと、CM撮影のために東京に来た俳優のボブが出会う物語。 同じホテルに泊まっていたことからふたりは顔を合わせるようになり、やがていっしょに夜の東京に出かけていくなど、距

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          『君の名前で僕を呼んで』は、愛の記憶をよびおこす

          眩しい日差し、草木の香り、アプリコットジュース、古い街並み、自転車、Mystery of Love… この映画の空気を想うだけで胸が苦しくなる。 『君の名前で僕を呼んで』はルカ・グァダニーノ監督による映画で、世界中で絶賛され数々の賞を受賞した。 イタリアの避暑地で青年エリオと青年オリヴァーが出会い惹かれあう、ひと夏の恋を描いた作品。 この映画の空気。 それは瑞々しくやさしくゆるやかなもので、まるでアコースティックギターのキュッという音のような、どこかに置いてきた遠い

          『君の名前で僕を呼んで』は、愛の記憶をよびおこす

          『散歩する惑星』『愛おしき隣人』『さよなら、人類』は最大級のコント

          すきな人はすきだろうし、嫌いな人は嫌いだろう。わたしは大好き。 そういう映画。 『散歩する惑星』『愛おしき隣人』『さよなら、人類』はロイ・アンダーソン監督による三部作。 三部作といえども話がつながっているわけではなく、しかしよく似た構成になっている。 本来ならここで簡単なあらすじを紹介したいのだが、これらの映画にはあらすじといえるあらすじがない。 ではどんな内容なのかというと、いろいろな人がでできて、その人たちはなんだか奇妙な人ばかりで、彼らがなんてことない日常を送

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          『オン・ザ・ミルキーロード』は、物事の境界線を曖昧にする

          エミール・クストリッツァ監督の作品がすき。 陽気な音楽、憎めない人々、愉快な動物。 ぐちゃぐちゃでごちゃごちゃでめちゃくちゃ。 どこまでも明るくてエネルギッシュ。 これは『アンダーグラウンド』や『黒猫・白猫』などすべての作品に共通していることで、わたしは彼のセンスを100パーセント信頼している。 『オン・ザ・ミルキーロード』はエミール・クストリッツァ監督の作品。 戦争中の国で、ミルク運びの男コスタは、ほかの男と結婚する予定の花嫁と出会い惹かれあう。 とあることが

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          『気狂いピエロ』という永遠のナンバーワン映画

          『気狂いピエロ』は巨匠ゴダールによるヌーヴェル・ヴァーグの傑作。 妻をもつフェルディナンが、かつての恋人マリアンヌと再会し、そのまま逃避行をはじめるというストーリー。 その逃避行のきっかけになったのはマリアンヌの部屋にあった死体で、逃げつづける最中にもさまざまなできごとが起きる。 それらが重くとりあげられることはなく、とにかく軽快で勢いのある展開。 実験的な描写が多く、映画というものに挑みつづける姿勢がみられる。 なんといっても、ただただ赤・青・白・黄・緑の色づかい

          『気狂いピエロ』という永遠のナンバーワン映画

          映画と人生と羽子

          映画がすき。でも人生はそんなに。 最近は、映画のために生きているのか、生きるために映画をみているのかわからなくなってきた。 「偏った映画愛」とあるけれど、人は偏ることしかできないのだと思う。 「くだらない人生」とあるけれど、それはほんとう? 人生は映画ではない。 しかし映画は人生なのだ。 ​ ​ 人生に、映画を添えて。

          映画と人生と羽子