『ハリー・ポッター』と喪失感について


なにかの本で読んだのだが、『ハリー・ポッター』のテーマは喪失感であると、作者J.K.ローリングは述べていたのだそう。

わたしはこの言葉に妙に納得したものだ。



『ハリー・ポッター』といえば知らない人はいないのではないかというほどの有名作品で、小説のみならず映画も大ヒットした。

緻密に練り上げられた世界観は、ファンタジーであることを忘れるほどわたしたちを魅了する。


夢のような魔法の世界と、ドキドキハラハラの展開。

「喪失感」なんてみじんも感じられない気もする。



わたしが深い喪失感を味わったのは、物語の終盤である。

ハリーは見事ヴォルデモートに勝利し、すべてがまるくおさまったかのようなラスト。

しかし、その平和にたどり着くまでには数えきれないほどの損失があった。



たとえば、意味もなく殺されてしまった名前もわからない脇役たちや、大切な人を守るために自ら犠牲になった勇気ある人たち、最後の決戦で立派に戦い敗れてしまった勇士たちなど。

そしてとりわけ、シリウスやルーピン、ハリーの両親のように、ひとつまえの世代でヴォルデモートに立ち向かったものの、命を落としてしまった人々。

かつて勇ましく戦った者たちは、平和を目撃することなく散ってしまった。

そして、彼らが望んでいた世界は、その犠牲のうえに、未来ある子どもたちに託されたのだ。



これが、喪失感の正体だと思う。

ほんとうはシリウスたちといっしょにしあわせになることもできたのだ。

誰も死なないままでハッピーエンドをむかえることだって、創作なのだから可能なはずだ。



でも、『ハリー・ポッター』はそうではない。

平和な世の中を手に入れるまでに、あまりにも多くの犠牲があったことを忘れてはならない。

犠牲者たちに生かされているということを、無駄にしてはならない。

このように、やるせなさと喪失感ともに生きていかなければならないことを教えてくれる点にこそ、この物語の真の魅力があるのではないかと思う。




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ハリー・ポッター(Harry Potter)

ハリー・ポッターと賢者の石 ~ ハリー・ポッターと死の秘宝Part2

2001~2011年/カラー