「してあげる」ことで関係性が変わる

 小学1年生が祖父母に、振り込め詐欺に気をつけるよう注意を促す手紙を送っている学校のニュースが報道されていた。すばらしい取り組みだと思う。子どもは祖父母のために役立っていると実感(自己有用感、自己効力感)し、成長する。祖父母も孫をいっそう愛おしく思い、また大事にされていると感じることで生きる意欲も増すだろう。

 これは、ほかのところにも当てはまる話である。

 企業組織などのマネジメントでは、上司が部下をどう扱うかという視点から論じられるし、病院では看護師が患者を、介護施設では職員が入所者を同看護・ケアするかに焦点が当てられる。いずれも一方的な上下の関係である。それだと、どうしても効果が限定される。

 職場の上司と部下にしても、病院の看護師と入院患者、介護施設の職員と入所者にしても、そこでの関係は一時的ではなく、かなりの期間続く。その場合、拙著(『「承認欲求」の呪縛』新潮新書)でも触れたように部下から上司に、患者から看護師に、入所者から職員に何かを「してあげる」という相互の関係をつくることが双方にとって有益だ。

 たとえば患者や入所者、あるいはその家族が看護師や職員の苦労をねぎらったり、仕事がしやすいように協力する姿勢を示したりするだけで看護師や職員の意欲は高まる。一方、患者や入所者にとっても何かを「してもらう」だけの立場から、ときには「してあげる」ことで自己有用感や自己効力感が得られ、さまざまな良い効果がもたらされるはずだ。部下と上司についてはあらためて説明するまでもないだろう。

 さらに「してもらう」「してあげる」という双方向の交流が生まれることによって、固定的な上下関係から、ある意味で対等な関係にシフトする。当然、ハラスメントなども減少するだろう。

 立場の弱い側、サービスを受けている側にとっても何か「してあげられる」ことはあるはずだ。してあげようという姿勢をとることは自身のためにもなる。双方向の関係づくりをもっと真剣に考えてもよいのではなかろうか。 

「個人」の視点から組織、社会などについて感じたことを記しています。