拝田啓佑

2017年6月〜作歌

拝田啓佑

2017年6月〜作歌

最近の記事

『光と私語』と微分方程式

人々がみんな帽子や手を振って見送るようなものに乗りたい/𠮷田恭大『光と私語』(いぬのせなか座・2019年) 今年の塔8月号に書評を載せてもらって以来、というか寄せる前からずっとこの歌集を読みあぐねていた。落武者のように総合誌やネット上の書評を徘徊し、何となく表面上の話は理解できても自分なりの解釈は得られずにいた。 引用歌。付録の栞文等で何度も目にした「特定しない」「あえてピントをずらす」「構造による抒情」といったような彼の短歌に見られる技法を共通鍵にして語られる歌だ。この

    • 【完】黄道12星座ネプリ #こうどう を読みまくる(Team4)

      こんばんは、拝田啓佑です。読みまくります。月丘ナイルさん率いるTeam4。(遅くなりました) あかねさす七夕の空数光年離れた君へLINEを送る/若林芳樹 七夕の夜に、織姫-彦星間の距離を自分達に重ねている。心理的な距離か、それとも遠距離恋愛の喩でしょうか。ほんとに数光年離れてると、届くのも数光年後になっちゃいます。そんなこと考えてると、ただのLINEが宇宙との交信みたいに壮大なものにも思えてきます。 牛たちは今日も今日とて草を食む 変わらぬ日々を静かに生きる/悠

      • 黄道12星座ネプリ #こうどう を読みまくる(Team3)

        こんばんは、拝田啓佑です。読みまくります。千原こはぎさん率いるTeam3。 二十二時君とベットでひつじ色のシャドウを互いの瞼にのせる/尾崎七遊 「二十二時」「ベット」「ひつじ色のシャドウ」の具体物が自然に混じり合う。互いの瞼にのせる、とあるから女性二人がいるのかな。それも含めて一首通してやわらかい印象がある。アイシャドウになにか凝縮されていて、おまじないの儀式のように感じる。 回すほどせつない中華のテーブルと天球儀、きみの冬の力点/たえなかすず 回すほどせつな

        • 黄道12星座ネプリ #こうどう を読みまくる(Team2)

          拝田啓佑です。読みまくります。かざなぎりん(杉谷麻衣)さん率いるTeam2。 鉄壁の鎧の隙間からのぞくウールマークが強そうである/ともえ夕夏 鉄壁の鎧を纏っていながら、中にはウールマークが付いているほどの質の良い服を着ている。真の強さは、外側の鎧よりもそういうところなのかもしれない。勝てなさそう。 牛乳にうっすら膜が張っていてダーリンずっと一緒にいよう/海老茶ちよ子 下の句が強烈。温めた牛乳に膜が張っていると嬉しい。すぐに破れてしまう膜だけど、そんなちいさいあ

        『光と私語』と微分方程式

          黄道12星座ネプリ #こうどう を読みまくる(Team1)

          タイトルの企画に参加させてもらいました拝田啓佑です。4チーム読みまくります。僕のいた、御殿山みなみさん率いるTeam1から順に。 眠れない子の枕辺を照らすため羊のまなこに三日月はある/志稲祐子 羊の黒目はほんとに三日月みたいに細い。その黒さが夜になると月となって光を放つ。眠れないのに消灯の時間が過ぎてしまって真っ暗。暗いとよけい眠れないのに。羊の目が照らすあかるさで本を読んでるうちに夢の中へ。 流星にお願いをする人口が減ってるらしい 星が見えない/石勇斎朱吉

          黄道12星座ネプリ #こうどう を読みまくる(Team1)

          サンタ未遂

          文学的にウケるかどうかは別として制服のまま眠る妹 台所と棚の間にあきびんと、(名前が思い出せない)掃除機 酔ってるの?と言われて酔ってると答えて最近発泡酒に慣れた 水だらけのお腹なのでインスタントラーメンのつゆがのめない ドライヤーとケトルとアイロンと炊飯器とみんなコンセントからのびている 細すぎるマイナスドライバーの使い道がない 息するたびにクリスマスがなじんできてハイテンションで息をしている 24日が日曜日だということをだいぶ前からおもってたのに 去年くら

          サンタ未遂

          赤が足りない

          神様も独り身だろう二千年続く恋などあるわけが無い どの角度で頭を打てば記憶からきみのことだけ消せるんだろう 誰かといなきゃ生きれないなら初めからそういうふうにつくってくれよ 女でも男でもなく君なのに 男女って何 だんじょってなに iPS細胞とかでうまくやれば心の移植できませんかね 大気中あなたの呼気の割合は今後上がってゆく一方だ 底の底から少しだけ登ってもまだ底の底の果てにいる蟻 席が一つ足りなかったらもう一つ増やせばそれで済むことなのに 午前五時医療ドラマを

          赤が足りない

          被食系男子

          僕ですか 二兎追えば二兎ともうちで飼い始めてしまうようなやつです 蛍光灯のもとにちらつく蛾にですら手を上げられない僕って一体 この心開けっ放しだとピーピーとアラームが鳴り冷気が逃げます 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だと駄々をこねうなずいてくれない扇風機 リーチインの棚のミルクティー湖の中ですやすや夢に浸かっているきみ 「こしあんとつぶあんどっちがいい?」顔をちぎるだけで十分だよヒーロー 笑う君 秒速二センチメートルで隣で静かに沈みゆく僕 光射す向きが変わればちぐはぐな僕らの

          被食系男子

          ひとっこひとり

          道ばたのさまにならない空き缶は退くと寝込みに化けてでますよ 読みきると三才老けるという本を三割ほど読んだ君は二十歳 春夏と流るあなたを見ていると飛び出してしまいそう信号は赤 「嫌な奴だ 私はもう私がいやだ」いいから君の好きな色おしえて 実はこれ僕でしたなんておどけたいぼくはあなたの傘になりたい 通り雨に濡れたワイシャツ取りこんだ あの日の証拠はどこにもないよ あのことは口には出すな僕らだけではなく世界の平和がゆらぐ 名も顔も知ら

          ひとっこひとり