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IPOの「天国と地獄」を体験、たどり着いたファイナンスの境地とは?自分のノウハウを後継の育成に活かしたい

2024年4月、ハコベルにコーポレート本部が新たに設置されると同時に財務経理部長として入社した柴田 正博。写真を撮ろうとするとそれまでの笑顔を瞬時に消してしまうシャイな一面はいかにも意外、その実績はまさに「ファイナンスのプロ」そのもの。会計事務所から一般企業へのキャリアチェンジ、そしてさまざまな経験を経てハコベルで実現したいことを聞きました。

コーポレート本部 財務経理部長
柴田 正博 Shibata Masahiro
2001年に都内会計事務所に入社、20社以上の経理業務等のバックオフィス全般に関わる。2008年にバイオベンチャーに入社、管理部全員退職の中から入社し株式公開まで従事。2012年にITベンチャーへ入社し株式公開、その後2社で株式公開準備に従事。2016年にエネルギー系ベンチャーへ入社、コーポレートファイナンス部長として主に資金調達に従事。ファイナンス計画を作成し、エクイティはシード10億円から約700億まで企業価値向上に貢献、デットはメガバンクのほか10社以上の地方銀行から融資契約、結果約100億円の資金調達に成功する。2019年よりフリーランスで活動し、2024年4月にハコベルの財務経理部長として参画し、現職。

ベンチャー界隈の知見が強みの源泉。未成熟な段階で組織に入り、バックオフィスの拡充に豊富な実績を持つ

—— コーポレート本部 財務経理部長として着任なさいました。現在のお仕事内容を教えてください。

 まず財務と経理とはなにか?というところから少し解説したいと思います。「財務」は会社のお金を管理する部署であり、「経理」というのは帳簿を管理する部署です。財務と経理、つまり「お金管理」と「帳簿管理」を分けないといけませんよ、というところで私が統括して管理をしています。

 もちろん会社によって細かな定義はさまざまですが、基本的には「お金の管理」と「帳簿の管理」、これはどの会社でも同様かと思います。

 現在、財務経理部は私の他に2名が所属しています。うち1人は7月に入社したばかりで、実務経験もありますが学習意欲の強い方で、私の経験を踏まえて指導をし、成長していく様子を見守っていきたいと考えています。私のキャリアをふり返ってみると、人を育て成長を見守ることは私自身のモチベーションにつながっているんですよね。「これからがんばっていきたい」という人たちに組織に入っていただき、私のノウハウを吸収していただく、ということを考えて組織運営をしています。

—— これまでのご経験もずっと財務・経理畑でキャリアを積んでいらしたのでしょうか。

 もともとは税理士を目指して税理士学科の専門学校に入り、その後、税理士タイトルは持たないまま、会計事務所に8年ほど勤務しました。その折、ちょうど “ライブドアショック” なるものがありました。当時私は全財産をライブドアマーケティングという会社に投資したので大変な目に遭いました。そもそも「IPO」という言葉すら正確にわかっていなかったのだ、と突き付けられた出来事です。特にベンチャーという業界をわかったつもりになっていただけだと反省し、、逆に興味がわいてきて、会計事務所を退職し縁あってバイオベンチャーに入社することになりました。

 バイオベンチャー入社後はリーマンショックがあったり、J-SOXの導入開始であったりと、現在のIPO審査基準よりすごく手間がかかり厳しいものでした。リーマンショックしかり、外的要因となる景気が良くない状況下でIPOを経験したかたは決して多くはないと思っています。

 そのバイオベンチャーでの経験はその後、さまざまな企業で活かすことができました。IT系や to C系、to B系とさまざまな企業で業界は問わず、組織の未成熟な部分をいかに「一般的に見て最適と言える状態」としていくか?ということに従事してきました。それこそ管理部が私のみという状態から立ち上げなどをしてきましたので、広報や採用、法務に至るまで中小企業のバックオフィスは概ね経験してきました。

より「魂を注ぎ込む」仕事を求めて。2024年問題に直面する物流業界、いまのハコベルで挑むべき挑戦

—— そういえばベンチャー特化型の会計事務所などは、そうしたバックオフィス丸ごと請け負うタイプもありますよね。

 そうなんです。初期に勤務していた会計事務所でも金勘定だけやっていたわけではなく、中小企業のバックオフィス受託をしているような会社でしたから、正直「なんでも屋」を8年間下積みから経験してきたというのが、私の持ち味と言えます。

 そもそも会計事務所勤務から一般企業にキャリアチェンジをしたことも、私のなかでは結構大きな転換点だったかもしれません。会計事務所に勤務していた当時、高度成長期のころにもともと事業をやっていた虎ノ門・新橋界隈の地主さんたちがお客様の中心だったのですが、バブル経済の時に固定資産税が払えないからビルを建てます、その後バブル経済が崩壊し不動産価額が下落しして借金まみれ、事業も立ち行かなくなりました…といったようなかたが多くおられました。

 その後景気が持ち直してくると、お客様もだんだんとうるおい始めまして、その不景気で苦労しているところから景気回復による好循環を体験できたことが非常に大きいことでした。ですがお客様が苦労を経て利益を得ていく喜びは、第三者の立場でしか語れないという非当事者性に対して、ある種の孤独を感じるようになっていたのも事実。コンサルのかたにもそうした感覚は通じるものがあるのだと思いますが、そのとき「この仕事では自分は魂を注げないな」と思い、民間企業、一般企業で力を試してみたい、と考えたのです。

—— そういう背景だったのですね。仕事をする企業を選ぶうえでどんなことを重視してこられたのでしょうか。特にハコベルに関心を持った理由はなんでしょうか。

 2016年4月に電力自由化となり、家庭では自由に電力会社を選ぶことができるようになりましたが、その規制緩和の恩恵を受ける会社に入社しました。この電力自由化は、かつて電電公社がNTTになったことに匹敵する50年に1度の規制緩和と言えるものだと考えていました。その会社での経験は、DXという表面的にきれいな言葉ではなくシスオペ(システム+オペレーション)の重要性を経験できたことはとても面白い経験となりました。その会社での成功体験も多くしましたが、もっと行動できたことがあったと後悔していることもあるのが事実です。そんななかでハコベルの話を聞いたとき「これは改めて規制緩和に向けてチャレンジをする場があるな」と思ったのです。

 それは、2024年問題により労働時間に規制が入ることで、運行管理の部分がしっかりチェックされるなど、日本の物流において非常に大きな変革のタイミングだからです。自分が電力自由化の際にやり遂げられなかったことや、こうやっておいたら良かったな、といった部分に再び挑めるチャンスがあると感じてハコベルに強く興味を持ったのです。ですので「あのときできなかった部分に再チャレンジしたい」という思いがあります。

 やはりいまでもシスオペが重要だという考えは変わりませんので、そのオペレーション部分もハコベルは高い評価を受けており、大手物流企業が資本参画していた事実もそれを裏付けていると思いました。そこで、私の貢献できる領域、可能性があるな、と思いハコベルに入社したのです。

資金調達に決まったフォーマットはなし。結局は「人と人」に帰結する

—— また、柴田さんはハコベル入社でフリーランスから正社員へ転身なさいました。働き方含めてご感想をお聞きしたいです。
 フリーランスの感想というよりは、ベンチャーを転々とするなかで自分でも新規事業を2件立ち上げるなどしてきましたが、正直うまくいきませんでした。ふり返ってみると、やはり得意・不得意なことがある、という事実を割り切って見たときに、不得意部分は補ってくれる人にお任せして、逆に財務経理は自分が得意だから任せてよ、という、人と人がつながってやっていくというのが企業や組織というものだと思い至りました。私ひとりでは「1」しか生まれないものも2人でやることによって「3」になるし、することが企業というものだと改めて思っています。

 現在管理職ですから裁量を持たせてもらっていますので、一般に「フリーランスの自由」みたいな話で比較すればそこはまったく影響はありません。反対に、ベンチャーを転々としていると暇が一番苦痛なんですよ(笑)。フリーランスで私はゆとりのある状況に逆に危機感を持っていたので、ハコベルへのチャンスをもらった際に「これはものすごい忙しいんだろうな」と思い、実際めっちゃ忙しいんですけど、それはそれで「おれ頑張ってるぜ!」という部分もありまして、むしろこういう環境でないと私は生きていけない人間なのかな、とあきらめてます。

 これまでさまざまなスタートアップの成長段階に関わってきましたが、だいたい私がジョインするタイミングというのが、従業員30名ほどの組織規模でバックオフィスが機能不全なところに入ることが多かったんです。そのなかでハコベルに入社したときに既にバックオフィス10人ほど、従業員も約100人という規模感は非常に新鮮に感じました。くわえて、上場企業のラクスルのバックオフィス文化を引き継ぎつつ、セイノーホールディングス様ともうまく相乗効果を生み出そうとしているという状況もまた、新しい体験ですね。

—— 柴田さんと言えば株式公開や資金調達などで豊富なご経験をお持ちです。どのような役割でどのように進めるものなのですか。

 仮に資金調達の交渉といっても、金融機関のかたも結局は人間関係というか、人と人の関係でしかないと思っています。どれだけ社長ないし柴田を信用してくれるのか?という話です。「会社にではなく社長に投資したいんだ」ということを仰るかたも多いですね。たとえばハコベルはベンチャー企業ですが、実際事業としては8年ほどやっています。ベンチャー企業は外部要因に弱いので急に無くなる可能性というのがありますから、それをどう歯を食いしばる人なのか?という点で、経営者の事業に対する意識や柴田の情報が合っているのかという、そうした人と人との信頼関係が大きく影響することだと思っています。

 決められたフォーマットがある世界ではないんですよね。よく言いますのが、たとえば「昨年は1千万円の売上でした。来年は事業を拡大するので3倍の3千万円になります。なので投資してください」、というのがごく一般的な手法。ですが、未来のことはドラえもんに聞いてくださいと私は言うんですよ(笑)。だって先のことは誰にもわからないじゃないですか。バックのデータや過去自分たちがやってきた実績だったり総合的に見てくれないと3千万が合っているか合っていないか、というのは正直不毛な議論でしかないのですから。

ハコベルのファイナンス。それは「オープン・パブリック・プラットフォーム」構想に尽きる

—— そういうものなのですね。最後に、財務経理の責任者としてこれからどんなことを実現していきたいですか。

 これは強く思っていることがありまして、「ファイナンスをなぜやるか」と言いますと、「資金をもっと集めて機動的なビジネスチャンスにつなげていきたい」という、いわば教科書的な話もあるのですが、ハコベルの場合はセイノーホールディングス様が提唱する「オープン・パブリック・プラットフォーム」なんです。

 2022年8月にセイノーホールディングス様を皮切りに、2023年10月に山九様、福山通運様、日本ロジテム様、そして24年2月に日本郵政キャピタル様に資本参画いただいたことで物流のネットワークを拡げることができました。やっと「1×X」になり、そのXの母数を増やしていきたい。それこそ物流に限らず物流周辺領域を含めると、産業としてはものすごく巨大です。日本の物流業界の未来を考えると個々の企業利益ではなく、オープン・パブリック・プラットフォームの重要性を理解いただき、それをハコベルに任せたいというパートナーを増やしていきたいと考えています。

 「ハコベルとこんな面白いことができるかも」という会話を積み重ねてハコベルのフォロワーを増やしていきたいと考えています。
 





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