マドルスルー

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若い人たちと議論する #未来のためにできること

私は未来が心配だ。人口減少・高齢化、地球沸騰化、経済の低成長、インフレ、格差拡大などの多くの課題が待ち受けるが、問題はそこではない。心配なのは、政治の、国民の、これらの課題への取組み姿勢であり、熱量である。 日本は、1980年代以降、経済の活性化、制度の公平・公正性の確保、官民癒着の排除、公的支出の無駄削減など様々な観点から、規制・制度改革、行財政改革に取り組んできた。これらに一貫するのは、「官から民へ」、「公平・中立・簡素」、「自律と自己責任」、「効率的な政府」といった思

    • #10 日本の未来はどうなるか。国家の衰亡について調べてみた

      これまで、黒木氏、高坂氏、森嶋氏、中西氏の衰亡論を見てきた。それらの要点をまとめれば、次のようなこどがいえる。 衰亡論は、成功者を謙虚にする、衰亡しないための議論である 「衰亡の原因を探求して行けば、われわれは成功の中に衰亡の種子があるということに気づく。」「幸運に臨んでは慎み深く、他人の不運からは教訓を学んで、つねに最善を尽くすという態度が大切」。 衰亡論が議論される社会はむしろ健全 「興味深いことに、その国の人々が衰退を本当に強く意識し始めると衰亡論は読まれなく

      • #09 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

        改革のカギとなる「マドルスルー」という生き方中西は、大きな改革を前にしてリーダーと国民一人ひとりが抱くべき『精神の姿勢』がカギというが、では、この「精神の姿勢」とは何か。それが「マドルスルー(泥の中を手探りで進んでいく)」である。これは、イギリス人の国民性の一つの大きな特徴になっているという。 「マドルスルー」とは、成果に到達できるかできないかで良し悪しを判断するのではなく、成果に向かって、もがきながら進むプロセス自体を楽しむという考え方だ。たとえばシェークスピアには悲劇も

        • #08 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          イギリスを復活させたサッチャー改革19世紀末から続いていたイギリスの衰退に終止符を打ち、改革によってイギリスを復活させたのはサッチャーである。 「サッチャー改革」の意義について、中西氏は次のように言う。 「1970年代のイギリスは、世界に先がけて『20世紀の終焉』を迎えていた。20世紀が代表した計画化や福祉理念、つまり『やさしさ』を本質とする『大きな政府』の理想は今や明らかに行きすぎていた。そのため、人々の内面の自由だけでなく、その寛容と博愛と干渉は人間の本質的な『弱さ』と

        若い人たちと議論する #未来のためにできること

          #07 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          なぜ、イギリスは、サッチャー改革まで100年の停滞を余儀なくされたのか イギリスは、19世紀末から1980年代のサッチャー改革まで、100年近く、長い衰退の時代を経験した。中西氏は、別の著作(「国まさに滅びんとす―英国史に見る日本の未来」)の中で、イギリスが、なぜ、長い停滞から脱せなかったのか、そして、いかにして停滞から脱出し、復活したかを説明している。 19世紀末から20世紀初頭の改革論争氏によれば、イギリスでは19世紀末から20世紀初頭にかけて、改革論争があったという。

          #07 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          #06 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          高坂、中西両氏が示す、衰退から脱する方法では、衰退のトレンドから抜け出すにはどうしたらよいか。高坂氏はいう。 「幸運に臨んでは慎み深く、他人の不運からは教訓を学んで、つねに最善を尽くすという態度が大切なのである。たしかに、現在の世界に住む者にとって、ひとつの問題を解決しても、またすぐ厄介な問題が出て来て、われわれはそれに苦しむことになるだろうとか、また、20年先には、全然異質の困難な問題が出て来て、世の中は大混乱に陥るだろうといった悲観的な気持ちになることは、しばしばあるだ

          #06 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          #05 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          2050年の日本はどうなっているかでは、2050年には日本はどうなっているか。氏は、戦後教育がエリート主義と職業倫理の退廃をもたらし、「人的資質」という日本の土台が「活力なき土台」になっているのではと危惧している。 戦前教育の基礎には儒教国の伝統があった。儒教は江戸時代に国学となり、長く日本人の精神的基盤だった。儒教国では、「人は教育の有る者と無い者に分けられる」。かつては教育の有無の基準は大学であり、大学を出た人は君子、出なかった人は小人だった。 だから、親は必至になって

          #05 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          #04 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          2050年、日本は没落するといった森嶋道夫黒木氏と同じように、ロンドンに長い間住み、外から日本を見て、その衰退を予見した人に、経済学者の森嶋進夫がいる。   森嶋氏は、1942年に当時の京都帝国大学経済学部に入学。翌年、20歳で徴兵され、帝国海軍に入隊。通信担当として、特攻隊、戦艦大和、沖縄戦など日本海軍の敗戦への道のりを経験。戦後は大学に復帰し、京大経済学部助教授などを経て、40歳で阪大経済学部教授となる。その数年後、イギリスに渡り、エセックス大学、ロンドン・スクール・オブ

          #04 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          #03 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          中西輝政は言った。「国家が衰退している時は衰亡論は読まれなくなる」 中西氏も、高坂氏と同じように、いずれ国家は衰退するということを直視し、成功に慢心せず謙虚に進むことの大切さを強調している。 中西氏が「なぜ国家は衰亡するのか」を書いた1998年は、前年に日債銀、山一證券の破綻、官僚の接待汚職や企業の不祥事が重なり、「誰の目にも、日本は衰退の兆しをあらわしているように見える」という時代だった。 そんな時に「衰亡論や衰退史などというものはペシミスティック(悲観的)であって、社会

          #03 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          #02 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          2大巨頭、高坂正尭と中西輝政の衰亡論 次に、高坂正尭氏と中西輝政氏の衰亡論である。それぞれ、国家の衰亡についての著書があり、そのエッセンスをご紹介する。   まず、高坂正尭氏の「文明が衰亡するとき」(1981年)である。この本は、1970年代の2度のオイル・ショックを経て、経済成長率が10%から5%に低下し、日本が高度成長から安定成長に移行した頃に書かれた。 高坂氏は、京都大学教授で日本の国際政治学に大きな影響を与えた国際政治、外交の専門家である。私は、社会人になりたての頃

          #02 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

          #01 日本の未来はどうなるか。国家の衰亡について調べてみた

          人口減少、高齢化、経済の低成長、円安かつて経済同友会代表幹事の小林喜光氏は「平成は敗北の時代」といい、京大の藤井聡教授は「日本は衰退途上国」といった。はたして日本は衰退しているのだろうか。Chat-GPTに聞いてみると、「日本は一部の課題に直面しているものの、その文化や技術、国際的な地位を考慮すると、衰退していると一概に言える状況ではないと言えるでしょう」と、こちらはまだ衰退していない派だ。 経済成長率を見れば、1990年から30数年間、実質成長率は平均1%未満で、ほとんど

          #01 日本の未来はどうなるか。国家の衰亡について調べてみた