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#03 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

中西輝政は言った。「国家が衰退している時は衰亡論は読まれなくなる」

 中西氏も、高坂氏と同じように、いずれ国家は衰退するということを直視し、成功に慢心せず謙虚に進むことの大切さを強調している。

中西氏が「なぜ国家は衰亡するのか」を書いた1998年は、前年に日債銀、山一證券の破綻、官僚の接待汚職や企業の不祥事が重なり、「誰の目にも、日本は衰退の兆しをあらわしているように見える」という時代だった。
そんな時に「衰亡論や衰退史などというものはペシミスティック(悲観的)であって、社会にとり百害あって一利なしだと思う人がいるだろう」と中西氏自身が書いている。

しかし、中西氏は言う。「衰亡論が議論される社会というのは、むしろ健全なのである。これまで衰亡論が書かれ、またよく読まれた時代というのは、実はすべてその国家や社会の興隆期に当たっている」。
「こうした興隆期の人々は、当然のことながら上昇志向が強いから、彼らの興味は『発展するにはどのような教訓があるか』『前者の轍を踏まないようにするにはどうすればよいか』という点に集中する。そしてさらには、どのような国家も衰退するということを直視し、慢心せずに謙虚に先人たちの経験に学ぼうという熱心な姿勢もみられるのである。」

国家衰退の可能性を常に念頭に置き、それを避けるためにはどうするかを考えていく謙虚さとたゆまぬ努力こそが国の衰退を防ぐ途ということだろう。

さらに、中西氏は気になることをいう。「興味深いことに、その国の人々が衰退を本当に強く意識し始めると衰亡論は読まれなくなる。
たとえば、17世紀のスペインは繁栄の頂点を過ぎて後退しつつあったが、この時期になると逆に衰亡論批判が盛んに論じられるようになった。また、イギリスにおいても、1930年にはそれまであった大英帝国衰亡の可能性を論じる議論は影を潜めてしまう。」

日本人には「正常化バイアス」が働いている?

これに関連して、政治学者の山口二郎氏は、最近、日本人には「正常化バイアス」が働くようになったのでは、と指摘している。

「正常化バイアス」とは、心理学で、災害や事故が迫っていても自分だけは大丈夫だろうと思い込み、危機を回避する行動をとらない心理のこという。以下、山口氏の意見をご紹介する(「アベノミクスは何を殺したか」朝日新書より)

「日本経済の実態としては縮小していく一方で、意識においては夜郎自大というか、自己肯定が肥大化していくというか。(中略)よりよい未来はありえない、という意識が国民のなかに浸透してくると、こんどは嘘でもいいからある種の安心感をもちたくなる。マインドのなかに秩序を作りたいと思うようになるのです。
人は不安のなかで生き続けることはできません。現状肯定とか、自己正当化という心理が働くようになります。その結果、不都合な現実から目を背けるようになるわけです。」
 
これは、まさに、国が衰退しているという現実から目をそむけ、「衰退論」を避けようとする態度ではなかろうか。思い込みを捨て、現状をデータで客観的に分析し、戦争、環境破壊、経済的格差という3つの課題を抱える世界の中で、日本がどう進むべきなのかを考えることこそ必要ではないか。

(次号に続く)


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