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【乗車記】全力疾走、最後の雄姿[2022.3 きりふり⑤終]


「日光観光のために特急列車で移動する」のではなく、「特急列車に乗るついでに日光観光をする」一行を乗せたきりふり284号は、定刻どおりに東武日光を発つ。

鬼怒川線との分岐駅である下今市までは、きつい下り坂を慎重かつ軽快に進んでいく。相反する語彙が同列に並んでしまっているが、これは乗ってみればしっくりくる表現かと思う。ただ、もうこの車両には乗れない。残念な限りである。
下今市では、鬼怒川温泉方面から来た客が乗り込んできて、空席だった2割が埋まり、復路の浅草行きも満席状態での運転となる。

床下から車内へと響き渡るジョイント音が、こちらも軽快で心地が良く、昼食後の満腹状態である私にとっては眠気を誘われる。しかも、外から入っていた強い日差しも、次第に弱いものへと変わっていく。これに関しても眠気を誘う材料となる。
そんなこんなで数十分間の眠りについてしまった。

目が覚めると、新栃木と栃木の間を走っている。ちょうどカーブを通る鈍い音で目が覚めたようである。

栃木においては、乗客の入れ替えが激しくおこなわれる。
JR両毛線に乗り換える(から乗り換えてきた)と思わしき鉄道ファン同志で交代する形となる。なぜ鉄道ファンだと見抜くことができたかというと、カメラや録音機材を持っていたからである。

栃木を発車したら、もう浅草まで降車する客は幾ばくかであり、少しでも長く乗車したいという「乗り鉄」根性がいかんなく発揮されていた。
車内ももちろん静まりかえっている状態のため、私はまた寝てしまう。
クスリのせいだといってしまえばそれまでだが、それは単なる甘えだと自分自身を厳しく批判しなければならないだろう。自己批判である。

次に起きたのは、伊勢崎線との合流駅である東武動物公園手前のポイント通過時の揺れであった。
列車はあいも変わらず快走を続けており、その勢いで複々線開始駅の北越谷を通過。さらに速度を上げて、爆走状態に。

寝ぼけ眼の輩を叩き起こすかのように、素晴らしい爆音を奏でている。これは機嫌よく、そして興奮しなければならない。そんな意識付けをしなくても、本能的に興奮しているらしく、眠気は「吹っ飛んだ」という表現が適切だ。
しかし、その区間はあっけなく終わってしまう。短く儚い旅路であった。

川に挟まれた下町区間に入ると、ウイニングランの如くゆったりとした速度で走る。東京スカイツリーを左手車窓から見上げると、まもなく隅田川の橋梁を渡る。往路と同じく、カメラを構えた人々が点在しているのがはっきりと見ることができる。
ギシギシと音を立てて、浅草のホームへ入り込む。もちろんお迎え勢が待ち構えている。通勤電車の待機列のような人混みである。

とうとう終着の浅草に着いてしまった。
これから、折り返し新栃木行きとなるために車内整備をおこなう。それもあってか、早々に清掃係員が乗り込んできて作業を開始する。車内の写真を存分に撮ろうとカメラを掲げていた鉄道ファンは残念そうにホームへ降り立っていた。
私も降り立って、ファンの熱気を感じながら改札を出る。

静かな車内から雑踏へと踏み出すと、頭がクラクラする。ただ、これが病みつきになるのだ。JRのグリーン車を降りた後も同様の現象に遭遇する。これに名前を付けてみたいが、誰かがもう既に名づけているはずである。

最後にまとめになるが、ラストランはもちろん、前日に乗るのも今回が初めての経験であった。どちらか片方のきっぷが取れなかったら、行かなかっただろう。苦渋の決断をしてキャンセルをしてくださった方には御礼申し上げる次第である。ありがとうございます!
この拙く出鱈目な文章が、皆様がそれぞれ持っている350型との思い出を想起するきっかけとなれば、これ以上ない悦びである。

浅草と東武日光を往復するだけで5つも記事を作ってしまいましたが、ここまでお読みくださった方々に感謝申し上げます!



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