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【乗車記】日光の玄関口、多くのギャラリー[2022.3 きりふり④]


日光・奥日光の玄関口である東武日光は、常に人で賑わっている。
バスが到着する度に人の波がどっと押し寄せてくる。そして、その波は駅の改札外までで留まる。
特急列車が到着して、乗ってきた人々が改札を通り終えると、これから乗る人々が改札を通り抜けていく。
東武日光はこのような流れを一日に何度も繰り返しながら、観光客を運んでいるのだ。

私は、復路も350型で運行されるきりふりで帰るわけだが、その前に出発するリバティやスペーシアには観光客が怒涛の勢いで乗り込んでいく。空席状況の表示は「×」になっている。
鉄道に興味がある子どもたちは、このような「東武特急天国」を目の当たりにして、身体を目一杯に使って喜びを表現している。なんとも微笑ましい状況だが、親のほうは大変な忙しさを見せている。こちらにもひしひしと伝わってきて、子育ての大変さというのを改めて思い知らされる。頭が下がる思いである。

さて、そのような魅力的な列車が発車した後にやってくるのは、我らがきりふりである。
いつもは特急列車が出発すると、束の間の静寂空間と化す東武日光構内であるが、今回はそうではない。絶えず人の流れができており、まさに「人流」である。その流れも次第に落ち着きを見せ、皆が固唾を呑んで350型が入ってくるのを待つ。

ついにそのときが来た。
太陽がスポットライトの役割を、我々が観客の役割をそれぞれ果たしており、まるでファッションショーの会場になりながら入線の瞬間を迎えている。フラッシュを焚いてしまうのは運転士の妨げになるから、一同おこなっていないが、それがあれば完璧である。
この間は殺気立った雰囲気で、一声出したら睨まれてしまいそうな、それほどの空気感を作り出していた。もちろん睨むような人はいなかった。

入線シーンを堪能したら、続いては車両の隅々の写真をなめまわすように各々が撮り始める。同業者というのは作法が一致している傾向があるようで、今回の場合だと、入線→外観→車内の順となっている。写真を撮るのにも一苦労といったところである。

私も写真を一通り撮り終わったから、ようやく座席へ移動する。
復路は、前の記事で述べたかもしれないが、窓側を押さえてある。前日に席を取ろうと思い立ったのにもかかわらず空いていたというのは、「土曜の東武日光行き→日光に宿泊→日曜の浅草行きラストラン」の需要が一定数いたのではないかと推測できよう。

帰りのきりふりももちろん満席である。
定期特急列車のような客層ではなく、酒盛りを始めたり歓談をし始めたりする人はおらず、驚くほど静かであった。
列車はそのような環境の中、ゆっくりとすべりだす。



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