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『にわか雨』の中の子育て

以前の投稿でも触れましたが、年老いた母が「子供が何歳になっても心配でしかたない。子育ては自分が死ぬまで終わらない」と言っていました。それを考えると、娘が18歳になるのですが、今の時点で自分の子育てを振り返るというのはまだ早いのかもしれませんが、最近思うことを書いてみようと思いました。

イギリスママのバイブル本

イギリスママたちが、まるでバイブルのようにみんな揃って読んでいた本がありました。この本、実は今では評価が割れているようで、今も若いお母さんたちの間でバイブルのように読まれているかは不明です。18年前は、私のママ友はみなさん読んでおられました。

Gina Fordという元Maternity Nurse(産科看護師)が書いた”Contended Little Baby Book”という本です。1999年に初版が出されて、現在でも販売されているようです。

子育てのバイブル

この本の概要を大まかに言うと、赤ちゃんの一日のスケジュール(分刻みに近い)を厳格に守り、赤ちゃんが生後6週目から夜通し(午後7時から午前7時まで)眠る習慣をつけることによって、赤ちゃんのストレスが軽減され、その結果、赤ちゃんが泣くことがあまりなくなり、身体の健康状態も改善されるだけではなく、精神的にもハッピーになるというものです。

私のママ友たちは本に書いてある通り、毎日決まったルーティンをどんな時でも守り実施していました。そのルーティンを守ろうとする姿勢が、時には痛々しくもありましたが、ママ友たちはルーティンを守るということに満足感を感じていたように見えました。

私はほんの何日間だけ試みてみましたが、最後までみなさんのように貫き通すことができませんでした。娘の夜泣きがずっと続いて疲れ果てていた私は、イギリス人のママ友たちのルーティン大作戦の成功秘話を「そうなんだ~」と熱心に聞いたふりをしながら、内心では「私には無理!」と思っていましたし、失敗したような気分にもなっていました。

そんなバイブルの教えに従って育てられたママ友の子供たち、日中かなりの頻度で泣き叫んでいました(笑)。それでもママたちはルーティンを崩すことはしませんでした。脱帽!

同じ頃、2004年に子育て系テレビ番組「Super Nanny」が大ヒット(今はバズったとか言うのでしょうか)しました。親でも手が付けられない子供たちの行動をちょっと無表情な感じのSuper Nanny(メアリーポピンズのようにどこかしらから現れるナニーが)、子供の行動、そして親のしつけ方を何日間かカメラ越しに観察して、その後両親へのアドバイスを行い、Super Nannyのアドバイスに従って2週間ほど生活したころ、目で見てわかる成果が出てハッピーエンド、という番組です。あまりの人気に、同じSuper Nannyを使ってアメリカで番組が制作され、アメリカでも人気だったようです。もしかして、日本でも放映されたでしょうか。

この番組が人気になったひとつの理由が、Naughty Corner(言う事を聞かない子を部屋の隅に立たせる)、Naughty Step(言う事を聞かないと階段に座らせる)に子供たちを一定の時間立たせたり座らせて、子供たちに反省を促すという手法です。これはイギリスの多くの親が試みた教育法でした。

重要なのは、ただ立たせたり座らせるだけではなく、なぜそうさせられているかを子供がわかるように説明してから立たせたり座らせること。そして、一定の時間が終わったあと、今後こういう事はしないようにすると約束させたり、ごめんなさいを言わせることです。

褒めるのも叱るのも下手な私は、イギリスママ友たちの絶妙な子供への説明にいつも聞き入ってしまいました。

※褒めることに関しての過去の投稿もご参照ください。

イギリス人ママ友のすばらしいし説明の仕方
設定:ベンが公園でブランコを独り占めして、友達のアリスに使わせない。

「ベン、あなたがブランコが大好きで、ずっと遊んでいたい気持ち、お母さんよくわかっているの。でもね、あなたは賢いから、順番を守ってブランコで遊ぶルールはわかっているわよね。賢いだけじゃなくあなたはとても親切な子だから、アリスちゃんにもブランコを使わせてあげることができるわよね?アリスがブランコを使っている間、一緒に30まで数えようか。(数え終わった後)30まで上手に数えられたわね~ぇ!ベンは本当に頭がいいのね。順番を人に譲ることのできるような思いやりのある子供に育ってくれて、ママはベンを心から誇りに思っているわ。Well done!(High Five付)(よくできました!)」

一方、私の説明の仕方
「エマ、ちゃんと順番守って!エマはもう1回ブランコのったでしょ。次はアリスの番です!」(アリスに向かって、ごめんね~ぇと言って娘とその場から去る)

ママ友たちの説明は聞き惚れるものでしたが、子供たちをNaughty Stepに連れていくことが1時間の遊び時間のうち少なくとも7回ぐらいあって、それを見ていて「うん?これって効き目が果たしてあるのかな?」と思って見ていました(笑)。でもイギリス人ママ友たちは毎回、イライラしながらも、あくまで冷静に何度も『なぜ立たされたり座らされたりするか』についての説明をきちんとしていました。私はただ短く怒るだけ。また反省。

砂糖は麻薬=甘いものは食べない

私の周りにいたイギリス人の比較的裕福なママたちは、子供に甘いものをあまり食べさせないという人が多かったです。砂糖の多量摂取が体に悪いという理由のほかに、砂糖摂取により子供たちが急にハイ(躁)状態になってしまったり(Sugar Rushといいます)、糖値が急に下がると体がエネルギー不足と感じ、感情的(悲しくなったり、短気になったり)になると考えていたようです。こういう症状をあらためて文字にして書いてみると、まさしく麻薬の症状ですよね。

内心、普段砂糖をとっていないから体が過敏に反応するのか?と思っていましたが。

当時、私はと言えば、日本から送ってもらった”おいっし~いお菓子”を普通に娘に与えていました。それだけではない、私も娘以上に喜んで日本からのお菓子を食べていました。なので、人前だからと言って、娘に急に「これは砂糖がたくさんのお菓子だからだめよ」とは言えないわけです。

友人のヘレンの家では砂糖は一切禁止。出てくるお菓子はほとんど手作り。全部フルーツやごく少量のハニーの甘さのものばかり。でてきたのが手作りの『ジンジャーとハニーとサフロン入りクッキー』や『シナモンとナツメグのビスケット』などでした。ちなみに、大人の口には素朴な感じで、全然食べれました。

それを出された私の娘は「これなに?」とヘレンの前で質問したので、私に代わってヘレンが「ジンジャーと~~~ それとシナモンと~~」と説明をしたところ、娘は、誰がみてもわかる感じで顔の表情を曇らせ、私がそれを見て慌てて、何もなかったように自分の口にそのヘルシーな手作りのお菓子を口に頬張り「おいしい、おいしい」を連呼して、なんとかその場をしのいでいました。

そのヘレンの娘さんのへティーが我が家に来た時に、市販のジンジャークッキーだったらジンジャーで『甘さ控えめ』って書いているから大丈夫かな?と思ってだしたら、へティーは「砂糖が入ってるね」と言って手をつけず、フルーツばかり食べているのを見て、砂糖の入ったお菓子を当たり前のように与えるどころか、子供と一緒になって「日本のお菓子ってなんておいしんだろう~!」と子供以上に感動して食べていた自分を恥ずかしく思ったこともありました。

その市販のジンジャークッキーを食べることを拒んだへティーに最近会う機会がありました。彼女は片手にマックのコーラを持っていて、笑顔で「最近は友達と週2でマクドナルドでディナーしてぇ、コーラしか飲んでない ワッハハ」「ほとんど毎週末飲み会で、すっごく高校生活を満喫している!」とはじけた感じで教えてくれました。

「あれっ、砂糖… だめなんじゃなかった、へティー?」と心の中で思ったのですが、それを隣で聞いていたヘレンは、ちょっと気まずい感じの表情をしていました。

にわか雨だったんだ…

子供が小さい頃、ママ友たちが子供の事を一生懸命考えて作ったルーティンや甘いものの制限などのルールを聞くたびに、無我夢中で同じことを試みたり失敗して自信を失ったり、自分の子供の育て方や自分の母親としての能力や資質に落胆したり疑念を持ったりすることが多かったです。

でも今18歳になる、私よりすっかり背が高くなった娘を見て、「バイブル本も教育テレビも独自の砂糖抜きのルールも、当時のママ友の教育法に一生懸命耳を傾けていたのは、まるでものすごい音を立てて降っていた『にわか雨』にあたっていた感じだったのかな」と思います。

雨音も雨量も半端じゃない『にわか雨』の中、娘の手を握りながら、何か新しい情報を聞くたびに、あっちの話し手、こっちの話し手に注意を注ぎながら、ただただ右見て左見てオロオロしていたのかなと、今振り返って思います。『にわか雨』の大きな雨音と激しい雨の勢いに気を取られてしまって『娘と自分』という関係もまっすぐ見れていなかったのかなぁと思います。

すっかりマクドナルド のファンになったというへティーの話を聞いた時、「ゆくゆくは子どもたちがバイブルもSuper Nannyも関係なく彼女達が作ったルールで彼女たちが道を切り拓いて、その道を歩いていくんだなぁ」と思い、まるで『にわか雨』の後の何もなかったような真っ青な空を見たような気分になりました。

『にわか雨』はいつか通り過ぎる。私のようにジタバタ、オロオロせず、もがく事なく、じっと過ぎるのを待つことが、実は一番賢い雨宿りの方法なのかもしれません。

今だから、そう思えるんですけどねぇ。

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