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新社会人になって3ヶ月目 大人の発達障害と診断を受け会社を辞めた僕が障害者雇用で自分の居場所を見つけた物語 その④

※※ 物語を分割しています。その①②③の続き。 ※※


Chapter 3 変身! ジョブチェンジャー

ステップ1  障害に合った転職活動を探そう!


「オープン就労を希望します」
 就労移行支援事業所の担当者に伝えると、早速、会社説明会への参加を勧められる。
 事業所の告知板には、常に障害者雇用の複数の求人が貼り出されていた。でも、障害者手帳を持っていなかった僕は、今まで真剣に見ていなかった。
 担当者から希望する仕事を聞かれたものの、思いつかずに困っていると、「希望の勤務時間を決めるだけでも、求人が絞られますよ」とのアドバイスをもらった。障害特性により⾧時間の就労が困難な人に向けて短時間雇用の求人も多いからだそうだ。
 僕は体力的には問題がないので、8時間勤務可能な3社の説明会に行くことにした。
 
 ところが、どれも進展することなく終わってしまう。
 説明会の担当者のしぐさや話し方が気になり、業務内容などが全く頭に入らず、入社したいという気持ちになれなかったからだ。

『真面目に話を聞いているのに、担当者が足を組んで説明していたり、上から目線の話し方をしていたり、そんな会社は嫌だ。面接に申し込まない』
 説明会の感想を母のスマホに送る。
『確かに人と接するときの態度は大切だよね。アスペルガー症候群があるから、麻人なりのこだわりがあって、譲れないこともあるよね。でもね、その担当者が会社の全てではないから、よく考えてね』
 母からの返事に対して、「理解しなきゃ」とはわかっていた。でも、譲れなかった。結局、どの求人にも応募することはなかった。

 半年ほど就労移行支援事業所にいると、仲間の様子も段々とわかってくる。年齢も障害の種類も様々だった。
 人付き合いは苦手だが、ちょっとずつ会話ができるようになり、みんなの転職活動の様子を聞く機会も増えていった。
 3ヶ月前に転職したのに戻って来た人、仕事が決まらずに1年以上も通っている人もいた。
 うつ病で会社を辞めた人から、「転職先は慎重に選んでいる」との話を聞いたとき、先日の母と姉の会話を思い出していた。

「うちの就労移行支援事業所、うつ病の人が多そう」
 なんとなく僕が話した内容に、姉がすぐに反応してくれた。
「わかるような気がする。うちの事務所でも、うつ病で長い間、休んでいる人がふたりいたんだけど、ひとりは先週、辞めちゃった」
「実はね、うつ病とは言っても、そもそも発達障害が根本原因で、周りの人とコミュニケーションが取れず、うつ病になることもあるみたいよ」
「え~、そうなの、お母さん。でも、確かに辞めた先輩は、同じ業務のグループの人とうまくいってなかったかも」
「なるほどなぁ。うつ病の人の中には、発達障害の人もいるかもなぁ。僕が言うのも変だけど、最近、観察していると、発達障害の人がわかるようになった気がするんだ」
「麻人は、自分の障害が理解できるようになってきて、本当によかったわ」

 アスペルガー症候群の特性で、言葉通りに捉えがちなことや変な(母と姉にはそう思えるそうだ)こだわりがある僕は、説明会だけではなく、実際の職場を体験できる求人を探そうと決めた。

 就労移行支援事業所で職場体験に参加したいと伝えると、ちょうど募集中の案件があり、紹介をしてもらえることになった。
 ケースにも寄るが、1日〜3日ほどの職場体験期間があるそうだ。今回、応募したインテリア関連の会社は1日で、仕事内容も実際に確認できるようだった。

「当社では、コミュニケーションを大切にしており……」
 参加すると、風通しの良い職場を目指して、上司・部下の立場に関係なく意見を交換できるようだった。仕事内容も在庫管理が中心らしく、業務内容は僕にもできそうな仕事だった。

 夕方、家に帰ると、姉が職場体験の話を楽しみにしていたらしく、根掘り葉掘り聞いてきた。
「あのインテリア会社だから、オフィスとかもおしゃれ? 家具を買うとき、社員割引きとかあるの?」
「インテリアに興味がない麻人に聞いてもね。わからないわよ」
「バカにし過ぎ。確かに興味はないけど、おしゃれなことはわかるって。社員割引きもあるぞ」
「あ〜やっぱり。そういう会社に勤めたかったなぁ。麻人、勤めたら、家具買ってよ」
「いつみは気が早いわよ。それより、麻人は職場体験をして、入りたいと思ったの?」
 母は姉に呆れながら、僕の意見を聞いてくれた。
「う~ん、それが確かにオフィスも綺麗だし、人間関係を含めて、職場の雰囲気がものすごく明るかったんだ」
「ものすごくってどういうこと?」
 姉が間に割り込んでくる。
「おしゃべりが楽しそうな雰囲気は、人付き合いが苦手な僕にはちょっと厳しいかなぁ。それよりも、照明が明る過ぎて無理。あの照明の下でずっと仕事はできないと思った」
「そういうチェックも大事よ。いつみ、発達障害の人の中には、視覚や聴覚に過敏の人がいて、明る過ぎる環境では仕事ができないのよね」
「だから、麻人の部屋は暗いんだ。ヲタクのせいだけじゃなかったのね」
「お前もヲタクだろう」
「ヲタクの子は、ヲタクらしいから、ふたりともヲタクよ」

 自分の障害と仕事環境の確認は、重要だと実感した職場体験だった。







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