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新社会人になって3ヶ月目 大人の発達障害と診断を受け会社を辞めた僕が障害者雇用で自分の居場所を見つけた物語 その① 

*プロローグ*


「働きやすい環境で、長く働きたい」
 社会人になってから発達障害と診断されたあなたは、そう強く望んでいませんか?

「働きたいのに、仕事が見つからない」
「せっかく転職できたのに、すぐに辞めることになった」
「障害者手帳を取得した方がいいのか、悩んでいる」
「転職活動をどうやったらいいのか、わからない」
「キャリアも資格もなくて、転職ができない」
「転職活動で、何回、面接しても受からない」
「障害者雇用にした方がいいのか、迷っている」
 など、発達障害を持ちながら、働く人の悩みは尽きることはないと思います。

 残念ながら、「わからない」「迷っている」と立ち止まっていては、何も解決しません。
 まずは、「一歩を踏み出す」という選択をしてみませんか?

 左の道を進むか、右の道を進むか、人生は選択の繰り返しです。
 noteを読み終えるとき、いくつかの分かれ道に立ち、選択をしたあなたは、きっと希望する働き方を手に入れていることでしょう。

 実は、僕も家族から背中を押されて、一歩を踏み出しています。

「ちょっと」人より忘れ物やうっかりミスが多いかもしれないと思いながら、なんとか学生時代を送りました。
 就活をして、採用通知をもらい、無事に大学を卒業。
 新社会人になり、働いてお金を稼いで生活をしていくはずでした。
 でも、ミスが多いせいで、3ヶ月で会社を辞めました。

 その後、僕は発達障害と診断を受けました。ADHD(注意欠如多動症)とASD(自閉スペクトラム症)でした。
 学生から社会人へ、間違いが許されない環境に入ったとき、その「ちょっと」が大きな問題となり、立ちはだかる発達障害。
 まさか、自分が発達障害だなんて信じられず、将来が全く見えなくなりました。

 そんな僕に家族が寄り添ってくれました。
 資格もキャリアもない僕ですが、転職し、そして5年目。
 真っ暗闇な未来から、光が差す未来に一歩を踏み出した僕の冒険物語を記録しました。

 選択をすることで、人生は変わっていきます。
 発達障害は、人それぞれ症状が異なるので、必ずしも当てはまるとは限らないかもしれませんが、ひとりでも多くの迷える冒険者に届く攻略本になることを祈っています。

(※3,000~5,000文字に分割して公開予定です。)



Chapter1 今日から障害者⁈

・3ヶ月で詰んだ新社会人生活


「多田、なんで、また間違ったんだ!」
 社長からの怒鳴り声に僕は返す言葉がなかった。

 芸大を卒業後、ものづくりがしたいとステンレス加工の会社に就職。実家を離れ、会社の寮にも引っ越し、新社会人生活をスタートさせた。
 2週間ほどの新人研修が終わり、現場に配属されるまでは順調だった。
 ところが、実際の商品を作り始めると、僕の作ったものは、どこかに間違いがあったのだ。
 納品先からの指摘回数が増えるにつれ、社長の怒鳴り声が大きくなっていった。
「一生懸命にやっているはずなのに」
 自分ではどうして間違えたか全くわからなかった。

「仕事で何回もミスしちゃって、今日、会社の上司と一緒に納品先へ謝りに行ったんだ」
 寮に戻ってすぐ、母の携帯電話へ連絡をした。
「そうなのね。みんなに迷惑がかかるから、次からは気を付けるのよ、麻人あさと
 どうやら入院中の祖母のお見舞いの帰り道なんだろう。救急車のサイレンの音も聞こえる。でも、話を続けたかった。
「それがさ、自分ではちゃんとやってるつもりなんだけど、いつのまにかミスをしちゃっているみたいなんだ」
「仕事の手順がわからなくて、そのままやってないの?」
「それはないよ。まぁ、確かに先輩から説明を受けているときにメモが取れなくて、困ることが多いのは認めるけど」
「なるほど……一度、お家に帰っておいでよ。お家でじっくり話を聞きたいから」

 翌日、週末に実家へ帰ると上司に話をしたら、夕方、社長に呼び出された。
「戻って来なくていい」

 僕の新社会人生活は3ヶ月で終わった。


・たった1日で人生が変わった日


「おかえり。疲れたでしょう。一人暮らしはどうだっだ?」
 会社を首になった僕を、母はいつも通りに迎えてくれた。
「美味しいもの、食べに行こうね」
「なに? なに? 豪華料理を食べに行くの? 私も行く」
 姉で2つ上のいつみも部屋から出て来た。
「知っていると思うけれど、母子家庭でやっとこの春、学費から解放された多田家では豪華料理は食べれません。でもね、麻人のお疲れ会だから、麻人の好きな回転寿司かなぁ」
 3ヶ月ぶりの家族そろっての食事は嬉しかった。

 会社を首になった経緯を聞いてもらっているうちに、積み上がるお皿のスピードが落ちつき、デザートを食べ始めていた。
「実はね。会社でたまたま『発達障害』という障害について勉強する機会があったの」
 急に障害の話をする母を不思議に思ったけれど、聞き続けた。
「簡単に説明すると、コミュニケーションに問題があったり、うっかりミスや忘れ物が多かったり、じっとしていられなかったり、字が読めないとか書けないとかでね、脳機能の発達に関連して起こる障害を発達障害と言うそうよ。障害の内容によっては、日常生活を送ることが難しくなる場合もあるらしくてね」
 そう言って、母は僕の目をしっかり見つめた。
「小さい頃の麻人の様子と、この3ヶ月の話を聞いて思ったの。麻人は発達障害かもしれない」
 驚きとショックで言葉が出てこなかった。代わりに出てきたものは涙。お店の中なのに、次から次へとこぼれてきて、止まらなかった。

 しばらくして、やっと涙を止めることができた。姉から差し出されたハンカチで涙を拭いた。下を向いたまま、「もう、大丈夫」とだけ言った。ふたりの顔を見たら、また涙が出そうだった。
「驚くと思う。私も信じたくない。でも、このままではいけないと思うのよ。まずは、病院で診断してもらいましょう」
「どこの病院に行くの?」
 姉が聞いてくれてよかった。何か話したら、また涙が出て来そうだった。
「大人の発達障害の診断をしてくれる病院って少ないみたいなの。これから探そうと思って」
「私も手伝うよ」
「じゃ、いつみ、よろしくね。麻人、水分補給してから帰ろね」
 冷めたお茶を飲み干してから、店を出た。

 姉が数十件の病院に電話をかけ、大人の発達障害の診断をしてくれる大学病院を探し出してくれた。母と病院に行くことになった。

 診察の申込みなど事務的なことが苦手で字も汚い僕に代わり、母はテキパキと受付を済ませる。
 6ページもある問診票の大量の質問にも、僕に聞きながら、次々と記入してくれた。終わると、読書を始めた。
 大学病院は待ち時間が長いと母からは聞いていたが、受付番号を見ると本当に長くなりそうだった。じっとしていることが苦手でイライラしている僕に対し、母はひたすら読書をしている。
「ちょっとウロウロして来てもいい?」
「まだまだ先だからいいわよ。じっとしていられない症状は、発達障害のひとつで多動性って言うのよ。多い少ないの多いに動くと書くんだけどね。売店にでも行ってキャンディーと水を買って来てくれる?」

 売店へ歩き出す。
「多動性か……確かに家の中でもウロウロ歩き回っているかもしれないなぁ」
 売店に着くとキャンディーの陳列棚の前に立つ。たくさんの種類があって選べなかったのでとりあえず自分の好きなキャンディーを買って、待合室に戻った。

「あれ、水は?」
「あっ、忘れた」
「別にいいけど、このうっかりが発達障害の注意欠如になるのよ……ってこれも本に書いてある」
「ふうん。はい、キャンディー」
「炭酸味ね……私が頼んだときは、私が好きそうな味を選んで欲しいなぁ。お母さんはミルク味が好きって知ってるでしょう」
「最初からミルク味のキャンディーって言わない方が悪いじゃないか」
「発達障害のひとつ、アスペルガーの症状に、相手の気持ちを想像するのが難しいってこれも本に書いてあるんだよね」
 イライラしている僕に母はさらなる追い打ちをかけて来る。でも思い当たることが多過ぎて、僕は言い返せなかった。

 うとうとしていたら、順番がやっと来て診察室に入る。
 病院の先生は、子どもの頃からの僕の様子と今日の受診理由が書かれた問診票を読んでいた。
「発達障害かもしれないということですね」
 問診票の記入内容について、質問のやり取りが続いた。ほとんど母が答えていた。
「そうですね。発達障害の可能性は非常に高いです。ただ、確定するためには別の日にあらためて心理検査をする必要があります。受付で予約を入れてお帰りください」

 2週間後には心理検査、4週間後には検査結果を聞くための診察予約を入れてその日は帰ることになった。

                              その②へ


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