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先日、私が顧問をしている士業先生から「断捨離をテーマにセミナーするので構成を考えて欲しい」とのリクエストがあり、久しぶりに終活について考えてみました。(時々、相続や終活のセミナー資料の作成を手伝ってあげたりしています)

ところで、断捨離という言葉はもともとヨガの考えだそうで、簡単に言うなら不要なものを減らし、バランスの良い暮らしをしましょうというとのこと。

今はすっかり片づけを指す言葉としての認識が強いですが、改めて断捨離の意味を調べてみて、なるほどと思いました。

さて、財産の断捨離というテーマということで、対象を3つに絞ってみました。

①趣味で集めたモノ、思い出のモノ、写真、衣類、アクセサリーなどのモノ
②交流関係という人的資産
③預貯金、保険、不動産などのいわゆる財産

■モノの断捨離

ご高齢者の中には戦前戦後のモノ不足でご苦労された体験から、モノをなかなか捨てられない方が多いです。

「いつか使うかもしれない」
「まだまだ使えるから、捨てるなんてとんでもない」

こんなお気持ちが強いです。

子どもがたまに帰省して、こんなに要らないモノばかりで部屋が狭くなるし、見栄えも悪いからなんでも捨てようとしたら大喧嘩が始まります。
そんなご経験のある女性の方は多いのではないでしょうか。

親の家の片づけはコミュニケーション力が必要なので、今時の片づけ本は
片づけのノウハウ以上に親との会話術などに大量の紙面を割いているものがほとんどです。(コーチングにも役に立ちそうです)

私もなかなかモノを捨てられない性格なので、ご高齢者の方々のお気持ちは
とてもわかります。

ちなみ私が捨てられないものは、
・多分二度と読み返さないだろう本の山(いつか読むかも)
・今は全く着ない結構お高いスーツやワイシャツ(高かったから)
・家電を買った時の段ボール・・・(リサイクルショップなどに売る時に)

モノの断捨離をした方がよい理由にはいくつかあります。

1.整理整頓された快適な環境で生活すると気分がいい
2.モノを片づけると、頭と心も整理される
3.必要な情報を整理し、心配ごとを解消するきっかけになる
4.自分が亡くなった後に家族が捨てる罪悪感を軽減させる
5.どこに何があるか明確にしておくと相続手続きの負担を減らせる

●整理整頓された快適な環境で生活すると気分がいい

モノで溢れかえっている部屋よりも、清潔ですっきりした部屋で過ごすほうがいいに決まっています。

●モノを片づけると、頭も心も整理される

必要なモノと不要なモノに分けてしまうと大事にすべきモノが明確になり、
残したモノをその後どうするかを考えるようになります。

例えば、着る機会のない着物やアクセサリーなどを子どもやお孫さんに譲るようなこともあるでしょうし、代々受け継いでいるようなものは子どもにきちんと伝えておくように考えるようになります。

●必要な情報を整理し、心配ごとを解消するきっかけになる

モノの中には財産に関するものも含まれます。例えば、後述する使っていない預金通帳や保障内容を忘れている保険証券などが代表的です。
保険なら現状必要な保障に合っているのか見直すきっかけになりますし、
相続対策として保険活用をこの機に考えてみるなどが考えられます。

●自分が亡くなった後に家族が捨てる罪悪感を軽減させる

自分にとっては大事なものでも、家族にとってはそうではないことはあり得ます。特にコレクションや身に着けていたものは処分しづらいものです。
かといってそれをずっと持ち続けるのもためらいがあります。やはりある程度年齢を重ねた方は残される家族のことも考えて不必要にモノをため込まないことをお勧めしたいです。

●どこに何があるか明確にしておくと相続手続きの負担を減らせる

自分が亡くなった後のことを考えたくない人は多いでしょう。また、自分に死が訪れないと信じている人もいます。

ただ、相続の現場を数限りなく対応してきて思うことは家族に何も伝えていない方が本当に多い現実です。

保険に入っていたのか、借金はないのか、預金はどこの銀行にあるのか、投資はやっていたのか。これらをゼロから調べるとなるとかなり大変なものです。

相続手続きで期限のあるものの代表例は3ヵ月内の相続放棄と10ヵ月内の相続税申告です。

人が亡くなって数か月などあっという間に過ぎ去るものです。気持ちも落ち着かないし、慣れない手続きばかりで疲れるものです。

せめて何がどこにあるのかを明らかにしておいてくれたらどれだけ助かるか。そういうことを考えて準備している人はほんの一握りですが、片づけの際にこれら情報の整理をぜひしておいて頂きたいと思います。

■交流関係という人的資産

人付き合いはその人の大事な資産です。学生時代の友人や趣味の仲間、仕事などでお世話になった人など誰しも多くの人と繋がっているものです。

終活という側面で考えた場合、葬儀のことも頭をよぎるかもしれません。
家族葬など葬儀の規模やスタイルはこの十数年でだいぶ変わりましたが、自分の葬儀に来て欲しい友人、知人がいるのであれば、その連絡先も整理しておくのがよいです。

ご家族が誰を葬儀に呼べばいいのか悩みません。葬儀に呼ばなかったことでお叱りを受けるご遺族もいるくらいです。最後のお別れをきちんとしたいと思う方は交流関係も整理しておいた方がよいと思います。

また高齢者でもSNSを使っている方も多いので、そのことも頭の隅に置いていただきたいなと思います。

■預貯金、保険、不動産などのいわゆる財産

最後にいわゆる財産の話となります。
これは考えておいた方がいいことがたくさんあります。

●預金口座の断捨離
・使っていない預金口座
・引き落とし口座がばらばらになっている
・ネット銀行やネット取引にした通帳のない口座
・届出印の管理
・キャッシュカードの暗証番号の管理

使っていない口座は解約し、複数の口座は減らすのが日常生活でも便利です。上限1000万円の預金保険制度のことが心配で複数口座をお持ちの方は別かもしれませんが、まったくの休眠口座は解約してしまった方がよいです。

また、昨今ではネットの金融機関で預貯金や借入れ、投資などをしている方の相続手続きで手間がかかっている実情があります。

お元気なうちから家族に全てを見せる必要はありませんが、万が一の時に備えてID、パスワードなどの情報の整理はやはりしておくべきだと思います。

ネット取引よりも身近な問題としてはキャッシュカードの暗証番号です。

足腰が弱くなった、体調不良が長引いているなどの理由で、お金の出し入れをするのも一苦労ということも多くなります。暗証番号を教えるのは子どもでも信用できる人に限られると思いますが、認知症などになった場合で施設入所した時に親のカードの暗証番号がわからないと月額利用料などの介護費用を引き出すことができません。

だからといって成年後見人を選ぶというのも正直現実的ではありません。
後見人になるのはまず弁護士か司法書士になりますので、ほとんど仕事をしない彼らに毎月最低でも2~3万程度の報酬を親が亡くなるまで支払い続けないといけない羽目になります。(仮に認知症となって後見人を付けて10年経過すると360万もの報酬を支払うことになります)

親のキャッシュカードの暗証番号がわからないことがきっかけで後見人を付けることになるのであればもったいない話です。

そして相続の時にどこの口座にどれくらいのお金を預けていたのかは大事な情報であるのは言うまでもありません。

使っている預金口座、暗証番号、ID/パスワードの類はエンディングノートに情報を集約しておくのがやはりお勧めです。

エンディングノートと聞くと、縁起でもないと毛嫌いする方は多いのですが
情報整理ノートとしては本当に便利なノートだと思います。

保険もやっかない存在のひとつです。

●保険の断捨離
・何の保険に入っているかを忘れてしまう
・保険の存在を家族が知らない
・離婚などをして、保険金の受取人変更をし忘れている
・必要以上に保険に入っている
・保障内容が現状に合っていない

断捨離といっても保険の解約をお勧めしている訳ではありません。
せっかく保険に入っているのであれば自分が求めている保障内容でなければ
意味がないという話です。

そもそも保険に入っているのにその存在を忘れている、家族が代わりに請求しようにもわからない。そういう事態は避けて欲しいのです。

離婚をしていて前の配偶者が受取人のままというのも少なくありません。手続きを忘れてしまうのでしょう。

本来、保険と言うのは定期的に見直すべき対象なので、一度加入したら放置せずに保険代理店などに相談することをお勧めしています。

不動産が最もやっかいな問題を含んでいるかなと思います。

●不動産の断捨離
・相続手続き(名義変更)をしていない不動産がある
・共有名義になっていて将来権利関係が複雑になってしまう可能性がある
・ローンを完済したのに登記簿には抵当権が残っている
・家族にも教えていない不動産がある
・空き家や別荘などなかなか売れない不動産を持っている
・売りたい時に認知症などで判断能力が低下すると売買契約ができない

ひとつずつ解説していきます。

先代から譲り受けて居住はしているものの、名義を変えないまま放置している場合は案外多いです。諸事情あっていざ自分の名義に変更しないといけないことになりました。

ところがかつての相続人だったきょうだいなどが皆亡くなっており、その子どもが代襲相続人になっているところ、行方不明で相続手続きが進まなくなってしまうようなケースです。

たかが名義変更と高を括っていたところ、時間と費用と労力がかかる結果となります。

不動産の名義などあまり深く考えずに親から子どもが相続した時にきょうだいで仲良く等分の共有名義にするケースも後々複雑な事態になる場合が同様にあります。将来は従妹やはとこが共有者になると、売却したり担保に入れることも現実的にはできません。

多くの方は住宅ローンを利用して家を購入するかと思います。無事にローン完済をすると借入先の金融機関から抵当権抹消という担保解除手続きに必要な書類一式を送ってきますが、手続を放置したり、これら書類を紛失したりすることも多いです。

登記簿など普段見る機会などないでしょうが、住宅ローンを完済しても登記簿の担保の記録は自動的に消滅しないので、第三者から見れば金融機関の担保に入っている不動産としか見られません。

よって、これを売却したり、新たな借入れのために担保提供することはできなくなります。

不測の事態に陥らないために、自宅の登記簿を入手して放置している手続きがないかを専門家に確認してもらうことをお勧めします。

また、家族が知らない不動産の存在というのも珍しくありません。

地方の実家を相続している事実、昔、投資用に買った原野や別荘、老後資金にと考えてローンを組んで買ったアパートなどです。

空き家も悩みのひとつです。

特に地方の空き家などはそうしょっちゅう掃除や手入れに行くこともできませんし、業者に管理を任せればそれなりに費用もかかります。

値段がつかず売ることもできない、万が一火事でも起きたら所有者としての責任も問われます。(ちなみに空き家に火災保険は基本的にかけられません)

自分はそうした不動産の悩みを抱えていても、家族に所在どころか所有している事実も教えない方、本当に多いです。

ご家族に迷惑だけを残して先にいなくなってしまうと本当に困るのです。

財産の断捨離というテーマでお話しましたが、程度の差はあれ、誰にも起きる可能性があることばかりです。

これもよくご存じの話でしょうけれど、預金の解約、保険の締結、不動産の管理、処分。全てはご本人の判断能力が必要ですので、万一認知症などになってしまうと原則として成年後見人をつけない限り何もすることができません。課題も本人が亡くなるまで凍結となります。

元気なうちにしかできないことが多いので、断捨離、ぜひ取り組んで頂きたいと思います。


最後までお読みいただきありがとうございます。