ネットワーク論と確率分布の民主化
”新ネットワーク思考” アルバートラズロ・バラバシ
Covid-19の騒動が起き、衝撃的だったことは感染力であります。その感染力を目の当たりにし、一冊のこの本をふと思い出しました。
気鋭の物理学者が描くネットワークの解明に関する著書。7-8年前に読んで衝撃を受けたものの、その頃の自分には大して関係もなく、忘れ去っていた本を思い出し、数ヶ月前に本棚から取り出しました。
再読し再確認した事は、
人はいかに人のいう事を聞かず、もしくは聞いても対応しない怠惰な生物であるという事。
全て今回の一件についての脅威が綴られていました。
自分自身への失望と、他者への期待感の喪失で、このテーマについて書く事は憚られました。
しかし、今回出版されたWiredを通読すると、
”ブラック・スワン”
の著者ナシーム・ニコラス・タレブ
が私が考えていた事と全く同じ事を寄稿していたのをみて、
”これは人々は今知るべき事なのだ”
と確信しました。
少しでも人々の役に立てたらと思い書く事に決め、タイトルを
”ネットワーク論と確率分布の民主化”
としました。
今回のテーマは、
”接続性と複雑性が異常に高くなったネットワーク化された現代社会は、ネットワーク論を理解し、各事象の発生確率分布を正しく認識し、時にはネットワークの性質によって変化する確率分布の変質を意識し続ける事によって、判断の精度を上げる事が不可欠。危機管理においては変え難く重要”
となります。
因みに私の大学の研究は複雑系(カオス)に関してで、大学院は金融工学で確率統計が専門なので、今回の話は長い間関心を持っている領域であります。タレブも過去はトレーダー、私もトレーダーなので興味対象は必然的に似ているはずとなります。
ネットワーク論の主、かつ大胆に細部を削り取った場合のポイントは
・ノード
・リンク
・ハブ
・クラスター
・分散化
・優先的選択
・動的ネットワーク
・非線形
上記は具体的に下記のように理解して頂きたく。
・ノードは人やコンピュータ
・リンクは人と人の接続やインターネットの接続
・ハブは知り合いの数が多い人、人と触れる回数の多い中心的な人、Web linkが非常に大きいWeb page
・クラスターは近接する人の塊や相互接続しているコンピュータやWebpageの塊
・分散化はクラスター同士の接続数やハブを減らす事
・優先的選択は、ノード同士が繋がりをもつ時、人は人気者につながりたがり、コンピュータは人気のページにより繋がろうとする。これは選択がランダムではないということ。接続集中が加速しやすいという事。
・動的ネットワークとは、ネットワークは常に成長し続けるという事
・非線形とは、直線的には捉えられない・近似できない事。
これのポイントから言える事は、
ネットワークは決してランダムに成長はしない。複雑系ではあるが、ランダムではない。ランダムは複雑系の十分条件であるが、必要条件ではない。
成長するという事は動的であり、静的な想定を置いた解には何も意味がない。
優先的選択によりクラスターやハブが発生する。選択には意志がある。この特徴が高まったネットワークにおいては大きな影響力を持ち、ウィルス感染力も高める。
接続性とハブ・クラスターの存在は非線形拡散という、事象によっては脆弱性を生み出す仕組みとなってしまった。(Covid-19の感染者数増加は非線形)
ネットワーク効果などに見るロバスト性や拡散性はアタックに対する脆弱性と表裏一体である。
ネットワークの脆弱性、すなわち一箇所に攻撃を受けて全てのネットワークを犯される事を回避する為には分散化が必要。
ここで確率分布について考えてみたいと思います。世の中でよく考えられるのは、釣鐘型分布、即ち正規分布。
成績の偏差値でもよく出てくるあれであります。
金融における株価リターンの想定にも使われたりします。
釣鐘型分布の何がいいかというと、数学的に大変扱いやすい。一方、世の中では、無理やりこの正規分布を当てはめている事も多いです。
例えば、金融の場合はリターンを正規分布、株価自体を対数正規分布と置く事によって、数学的展開がしやすいようにしています。
モンテカルロシミュレーションも乱数生成に正規分布を使用します。
もちろん正規分布にのっとる物理現象・自然現象もあります。
しかし、明らかにネットワークの変質に伴い、発生確率が変動し、分布の特徴が変わってしまいました。顕在している最も特徴的な分布が
”べき分布” (べき乗則)
特徴は以下にまとめられます。
・ロングテール
・ファットテール
要約すると、
・全く起きないとされていた事が起こる確率が存在する
・起きないだろうとされていた事が起こる確率が、正規分布対比、比較にならない程大きい
金融ではよく
”テールリスク”
と呼ばれます。
グローバル化・インターネットの発展によって、接続性が過去とは比較にならない程高まった人類社会は、非線形拡散により分布形状が変化し、テールリスクが高まり続けているという結論になります。
べき乗則による、テールの発生確率を考えると、
富の集中も同じ事が言えます。
人類の1%が世の中の富の多くを占めている事も同じ。
水や氷の状態が変わる事を
”相転移”
と言いますが、
相転移が起きる時の分子運動もべき乗則を持っていると言われる為、自然界にも元々べき乗則は存在します。
大きな自然災害の発生確率もファットテールになってきています。
結論、個々人が考えて行動し、確率分布を検討し、動的に動く世の中でその時々にあったリスクヘッジを行なっていかなければいけない。
これが”自律”分散化(ネットワーク)であります。
国や一人のカリスマが皆を守ってくれるなんて事はなく、一人一人が対処していく問題になっているという事です。
明らかに過去と今は違う。ウィルス攻撃に対し脆弱になってしまった現代、富の寡占が起きた世界、多発する自然災害。
個々人が”自律”し、分散化を図り、正常化バイアスや直線バイアスを捨て、非線形に変化する世の中を理解する見識、生き抜く為の思考力を持つ事が重要と考えます。
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