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「今宵、餃子があるバーで。」第2話 誰が為にクラッカーは鳴る

『Bar ミカヅキ』で出てくるおつまみは餃子だけ。店にはマスター選りすぐりのお取り寄せ餃子がストックされている。お手製の餃子は食べたことがない。

「私は占い師になりたいの」

そんなマスターに話を聞いて欲しくて、愚痴とも相談ともつかないことをしゃべってしまうけど、マスターの場合、占いとアドバイスの境目がやっぱりよくわからない。

来月はマスターの誕生日。ほかの常連のみなさんとサプライズ計画を練ってみたものの、お店で決行するならマスター本人の協力は欠かせない。「友達の就職祝い」という名目でマスターにサプライズを相談した、ある梅雨どきの話。

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お店でサプライズをやりたいと相談をされたときの対応は決めてあるの。

「無理よ」

みんなどうしてそんなにサプライズが好きなのかしら?

だいたい、サプライズって相手のためじゃなくて、する側の都合が優先されている感じがしない? 好意なのはもちろんわかるけど、される方は迷惑かもしれないじゃない? いきなりケーキが出てきてさ、急に注目を浴びてしまうなんてさ、私は嫌よ。主役になる予定があるなら前もって教えてもらわないと。だってせっかくなら、お肌を整えて、キラキラするものを身に付けて、テンション高めていきたいじゃない? 

「だって、知らされない方が嬉しさ倍増すると思わない!?」って常連さんたちの意見がめずらしく一致してるけど、みんなわかってないわね。

「知っていても、サプライズになることはあるのよ」

今日の餃子はコレしかないわね。

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『寅ちゃんねぎ餃子』

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ねぎ餃子だからって、ただネギがたくさん入っているだけの餃子じゃないのよ。この餃子に使われているネギの糖度は19%以上! バナナと同じなの! 果物みたいに甘~いネギで作られた餃子、あなた食べたことある?


清水 寅。職業 葱師。

彼が作る葱は、糖度19度を超える。
果実より甘いのだ。しかも太く柔らかい。

初代葱師・清水寅にしか作れない最高級の葱。
そのこだわりの葱を使って、餃子を作った。

葱以外の原料にもこだわり、配合にもこだわり、もちろん皮にもこだわり。
完成した餃子は、葱の甘みを感じる。だから、また食べたくなる。寅ちゃん餃子は、葱が餃子に恋をして生まれた、唯一無二の餃子だ。

≪引用≫ 寅ちゃんねぎ餃子 パッケージ記載メッセージ


最初は、こだわりのネギをたくさん入れてみたんだけど、量を入れれば美味しくなるってものでもないらしく、皮を極限まで薄くすることでネギの甘さが際立つようになったんですって。

清水寅さんと話したことがあるのかって? ないけどわかるのよ、だって私は占い師を目指しているのよ!

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一口食べれば、その甘さと旨みに夢中。
ネギのイメージが変わるわ、ぜったい。

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なんだか今日は少ししゃべりすぎみたい。何が言いたいかって? 要するに、あなたの当たり前が、誰かにとってのそれとは限らないってこと。

ネギの概念からも、サプライズはみんな嬉しいものだろうっていう思い込みからも解放されたらいいって話。

本当に喜んでもらえる贈り物がしたいなら、内緒にして驚かせることを考えるよりも、その人との対話をサボらないこと。いっぱい話して、いっぱい想像すること。プレゼントってそういう生活の延長でするものなんじゃないかしら? ああ、そういう贈り物って、素敵よね・・・。

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しばらくたってから、常連さんが「びっくりすると思うよ」ってプレゼントをくれたの、4ケ月遅れの誕生日祝いだって。

モナリザ

△◎※*・・・!!!

寅ちゃんで、毎年3本しか販売されない幻のネギ、1本1万円する『モナリザ』よ。言葉を失うほど嬉しかったわ。

あ、そうそう最近は、お店でのサプライズも相談に乗るようになったの。やるからには完璧に、相手に喜んでもらうためには覚悟が必要よ。え? 大げさだって? わかってないわね。大げさにしたいからサプライズなんでしょ。手っ取り早く喜んでもらおうなんて、あなたが嬉しいだけじゃない。

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そろそろ閉めるわよ、おやすみなさい。





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最後の写真は、ねぎびとカンパニーさんのオンラインショップよりお借りした。

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