「何を見つめるかで人生の意味は大きく変わる」・・・宍道湖のシジミ漁が教えてくれた事。旅で見つけた物語。

　　　　　　　　　　　　　

朝もやの晴れきらぬ宍道湖のほとりを
重い荷物を背負って、行商の男が歩いていた。

「こんなに自分が辛い思いをしているのに
女房のやつは何も分かっていない」

男は、なかなか商いがうまくいかず、女房に当り散らして家を出てきたのだ。

誰でもいいから大変さをわかってほしいと、男は思っていた。

近くの桟橋に、しじみ漁の船が帰ってきた。

「大変ですね」

「そうだね。波にもまれるし、天候にも左右される。
これほど大変な仕事はないね」

「私の仕事も大変です」

男は、そんなやりとりを期待して声をかけた。
思いやる言葉をかけて、思いやる言葉を返してもらう。
それで、自分が癒されたかった。狡い考えだった。

しかし漁師の答えは違った。

「大変ですね」

「なあに。晴れて波が穏やかなら神様がたっぷり恵みをくれる。
晴れた日は大空に感謝をし、雨の降る日は雨を愛す。
感謝と愛の毎日だ。だから毎日幸せだよ。
毎日が幸せなら、生涯幸せさ」

屈託の無い漁師の笑顔が、男の心を揺り動かした。

「商売の上手くいった日も、ダメだった日も
なぜ自分は、辛い事ばかり見ていたのだろう。
良い方だけを見ていれば良いのだ。
辛い方を見ていると、空の明るさも雨の恵みも、不幸の印に思えてしまう。
どんな時でも、どこにでも良い事はあったのに」

男は、シジミを買って女房の元に急いだ。

人は時として悪いところばかりに目をやる。
常にその横に良いところがあるというのに・・・。

　　　　おわり

シジミの味噌汁は美味しいですよね。
宍道湖のシジミはとても大きくて濃厚な味です。
味噌汁の素朴な味、たくさんの具と味噌のバリエーション。
何よりもホッとする温かさ。
心まで癒してくれます。

#旅行 #怪談 #伝説 #宍道湖 #シジミ #出雲 #湖 #街道 #ショートショート #特産物 #味噌汁 #心 #夫婦 #やり直す関係