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「叫びは誰に」・・・よーく考えると怖い話。ちょっと嫌な話なので、又、妊婦の方、父親になる方、なりたての方は、読まないで下さい。


「中一でお母さんが亡くなって、それから家の事は
全部私がやってたの」

自称ファザコンと言いながら、料理自慢をする早苗が、
可愛く思えて付き合い始めたのが、2年前。

まだ若いからと渋るのを、強引に説得して結婚に漕ぎつけたのが、1年前。

「赤ちゃんには、パパママって呼ばせたいな」って
二人で話していたのが半年前。

そして、今、それを実現するために、早苗は必死に頑張っている。

「頑張れ!頑張れ! ママになるんだよ」

叫び続ける早苗の耳に、どれくらい届いているか分からないが、
俺は必死に声を掛け続けた。

「コンチクショー!」
「ぬお~早く出ろ~」
「うどん食べたい」
「許して。許して。ごめんなさい」

混乱しているんだろう。叫びの内容はどんどん支離滅裂になっていく。
どんなに叫んでも、俺が言えることは、「頑張れ」しか無い。

数時間後、玉のような女の子が生まれるまで、
俺はずっと苦痛に耐える早苗の手を握り続けた。

いや。一瞬だけ手を緩めてしまったことがあった。
それは早苗のこんな叫びを聞いた時だ。

「お父さん。私、産むよ~。産んであげるよ~。お父さ~ん」

頭をよぎった嫌な想像を振りほどき、俺はすぐに早苗の手を握り直した。
それに応えるように、早苗は言った。

「パパ~。生まれるよ~。パパ~、パパ~、パパ~」

          おわり


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