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「おんにこにこ その7」・・・禁演落語を、演じる演じない?。


戦争などが起こると、検閲や忖度によって、
戦時禁演落語などが制定され、
「時世に合わない」などと言う根拠のない理由によって
演目の制限が行われた。
現代時折「禁演落語」と題された
様々な落語会が行われ、「禁演落語」も日陰者にされることは
無くなっている。

さて、今回紹介するのは、そんな迫害を受けた「禁演落語」ではなく、
落語家たちが様々な理由によって、その一部を演じなくなっているものである。
言わば、「一部禁演落語つまり、一部しかやらないで、思わせぶり、もしくは勿体ぶった落語」のいくつかである。

「宮古川」
東京で「一部禁演落語」の代表作は、
この「宮古川」であろう。

前半は、若い二人のなれそめ、恋の物語。
後半は、ヒロインが拉致され暴行され殺され、その復讐劇。
という風に、前半と後半が全く違うテイストで出来ていて、
ほとんどの噺家は前半だけで終わる。

CDになっているものも聞いてみると、ほぼ前半だけで終わりになる。

前半だけで終わるので、オチが無く、
終わり方も演者によって個性的で、それを聞くのも楽しい。

例えば、
「ちょうど(出番終わりの)時間になった」
「習った速記本がここで虫食いになっていた」
「収録しているテープが終わりになるのでここまで」

などなどである。

2023年。
有楽町で行われた
「桂宮治のブラック落語会フフフ」という会で、
桂宮治さんが、
この宮古川を本来のオチまで演じている。
確かに後半の内容はかなり凄惨だったが聞きごたえがあり、貴重な体験だった。

前半だけの宮古川に慣れていた方には衝撃だったかもしれない。

「代書屋」

上方の「一部禁演落語」の代表はこの「代書屋」ではないだろうか。
四代目桂米團治さんによる創作で、三代目桂春団治さん、
二代目桂枝雀さんが得意とした。

全部で4パートあるが、
最初の1パートだけ演じられることが多い。

1:就職の為に履歴書を頼みに来た男が、代書屋を困らせる。

2:書家が手のケガ(中風)で書けないので頼みに来るが、
 新しい墨と紙を下ろさせた挙句、
 看板の字が下手と言って帰ってしまう。

3:外国人が頼みに来るが、散々注文をしたのに、
 お金がかかると知って帰る。

4:2の書家の家の奉公人の女性が主人に言われて詫びに来る。下ろした墨と紙の金を払うが受け取りをくれと言う。
それも下手だと言われる。
ここで1の伏線を生かしたオチになる。

という壮大な物語なのだが、
ほぼ最初の第1パートしか演じられない。

おそらく、全部やると長くなるのと、
3の差別的な表現を嫌うからなのだろう。

3を抜いて2,4を続けてやる訳にもいかず
1だけとなるのだろう。
もちろん、1だけでも大変面白く楽しめます。

その他にも「一部禁演落語」は多いので、
この先も色々紹介していきたいと思います。


  おわり



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