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「24分の1」・・・1 長い春の終わりを唐突に告げた女の末路は? 連続超ショートストーリー

しばらく、ショートストーリーを連載します。
色々と版を重ねるたびに加筆していく、成長する魔球ならぬ、成長する落書きです。


「24分の1」(1) 


「5回目か」

美晴は小指をゆっくりと折り曲げながら、口をついて出た言葉に驚いた。
いや、言葉にではない。
その言葉が引っ張り出した、心の奥に仕舞っていた思いに驚いたのだ。

「私、意外に登志夫との未来を真面目に考えていたのかな」

最初の疑問は、本当に小さなものだった。
それが、「遅れる」という短いメールを受け取ってから
徐々に大きくなっていったのだ。

駅に近いカフェ。
同じ様に待ち合わせしている女たち。
一人、また一人と、金魚すくいの網に掬い取られるように、男の手に引かれて出て行ってしまう。

「もしかしたら、私はずっと同じ思いを抱えていたのかもしれない。
美晴は、言葉にならない焦りのような感情を膨らませていった。
二度目、三度目、そして「今度こそ」わという期待が大きかった四度目の誕生日。そのつど、美晴は同じ思いを抱き、その思いを先送りしていた。
当然のように何も起こらず、体を求めるだけで終わる。いつものように。

そして、五度目だ。
登志夫が入って来た。
悪びれる様子もなく、ただ「お待たせ」とだけ言って目の前の席に座った。

美晴は、驚くだろうな、と思いながらも、すぐに本題に入った。
「ねぇ、最近ずっと考えていることがあるんだけど、聞いてもらえるかしら?」

「なんだい、美晴?」

美晴は緊張しながらも、決意を胸に話し始めた。

「もう待てないの。私たち、別れましょう」

彼の顔には驚きが広がったが、
それは一瞬だけだった。
驚きが消えるのが予想より早くて、美晴は次の言葉を言えなかった。

もうすでに、登志夫の顔には、彼女の言葉を受け入れる表情が浮かんでいたのだ。

「美晴、分かった。俺もちょうど同じことを考えてたんだ」

後の事を美晴は覚えていない。

登志夫が、「君が幸せになれるなら、それが一番だ」とか
「二人のの思い出は忘れない」「これまでの時間は宝物だ」
などと、言っていたようだが、
美晴は、ずっと微笑んでいた。
他にどうすれば良いのか分からなかった。
だけど、泣き叫ぶような女にだけはなりたくないと思っていた。

     つづく


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