「麻田君、悪魔の声を聞く」・・・ちょっと大袈裟なタイトルのプロローグ。
麻田君は不安だった。
ここしばらく、妙に動悸が激しくて、胸の痛みが続いていた。
「心臓なんて調べても『苦しいときに来てください』と言われるのが落ちだろう」
楽天家の友人・小野は、治療費の無駄だと否定した。
麻田君も、最初の内は「しばらく様子見かな」と気楽に構えていたが、その後も胸の痛みが発生し、動悸も激しくなることがたびたび起きた。
念のため、医者に相談すると、
「万が一のことがあるといけないから。24時間心電図を記録する機械を着けみましょう」
と言われた。
マッチ箱ほどの機械から伸びたケーブルの先にシール式のセンサーが付いていて、それを左胸を中心に4か所ほど貼りつける。
これで、24時間連続して心臓の動きを記録できるらしい。
「本体はお腹に絆創膏で貼り付けますから、今日はお風呂に入らないでください。それと、この機械を付けている間に、胸の痛みや違和感を感じたら、時間と一緒にメモしておいてください」
その他に5つくらいの注意点を聞いて麻田君は、病院を後にした。
「普段と違う事をするのはちょっと緊張するけど、気にしすぎておとなしく過ごしても意味はないから、少しくらい散歩したり、軽い運動をした方が良いぞ」
という医者の言葉に従って、麻田君は、病院の帰り道、少し速足で歩いてみたり、夕食後に散歩をしてみたりした。
しかし、特に胸が苦しくなったり、動悸が激しくなることは無かった。
数日後、麻田君は検査結果を一人で結果を聞くのが怖くて、小野に付き添ってもらって再び病院を訪れた。
診察室に二人で入ると、医者は、小野の顔をチラと見て、何も言わずに検査の結果を話し始めた。
「え~っと。結論から良いますと、何も問題はありませんでした。
強いて言えば、少し不整脈があるだけですが、不整脈なんて誰でも出ますから心配する事はありません」
と医者はニコニコ笑って言った。
その笑顔がさらに麻田君を不安にさせた。
「じゃ、じゃあ。あの動悸とかは何だったんですか?」
「一時的なストレスが原因ですかね。ストレスの潜伏期間とでも言いますか、原因になる出来事から数日経ってから影響が現れるという事もありますから」
「何日も経ってから体に症状が出るなんて、困ったものだな。麻田。
でもお医者さんが、大丈夫と言うんだから大丈夫だよ」
麻田君の不安に気づいたのか、小野が明るく肩を叩いた。
しかしその時、麻田君は昔読んだフランスの詩人の言葉を思い出していた。
「悪魔の最も狡猾な所は、悪魔はいないと思わせるところである」
「考え過ぎ、心配しすぎだよ。ハハハ」
と医者と小野が同じような笑顔を浮かべて麻田君の方を見ていた。
『まるで悪魔のようだな』
麻田君は、心の中で呟いて、二人の尻から黒いスペード型の尻尾が伸びていないか確かめた。
つづく
*久しぶりの麻田君シリーズは、不安に囚われている麻田君は、その後どうなるのか、麻田君の身に何か変化があれば、続編でお報せします。
ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。