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「山道のトラック」

「めざせ100怪!ラジオde怪談」は、「清原愛のGoing愛Way!」(SKYWAVE FM89.2(https://www.892fm.com/)にて毎週木曜日16:00~放送中)の番組内で100の怪談を特集する「怪談朗読特別企画」。

その為に用意した怪談を紹介していきます。

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「山道のトラック」 作・夢乃玉堂

光学機器メーカーに勤める美智雄は、ある日、
100キロほど離れた隣の県まで納品に出かけることになった。

納品先の小学校で、新しい望遠鏡のカタログなどを渡したところ、
思いの外反応が良く、新機能の説明に熱が入り、
気が付くと、日が西に傾いていた。

「よろしくご検討の程、お願いいたします」

そう言って、担当の教諭に挨拶をして校門を出る時、
ちょうど街灯の明かりが灯った。

本社のある町までは、大きな山を迂回しなければならず、
このまま国道で戻ると、2時間は掛かるのである。

「しょうがない。ショートカットするか」

美智雄は、普段はあまり使わない、山道を行くことにした。

それは、林業関係者しか使わない一本道の林間道路で
街灯も無く、途中集落も無いので、ガス欠になると、
闇の中で立ち往生してしまう。
舗装だけはされているが、地元のドライバーでも敬遠するような道だ。

だが、その日は出発前に満タンにしてきたからガソリンには余裕があった。

「大回りするよりは、早く着くかもしれないな」

美智雄は、気軽に考えていた。

ところが、林間道路は思ったよりカーブが多く、夜走るには神経を使う。
わずかなヘッドライトの明かりだけを頼りに30分も走ると、
美智雄は音を上げ始めた。

「しまったな。やっぱり国道を行くべきだったかな」

ゆっくりと顔を出し始めた眠気を押さえながら、ハンドルを握っていた時、
少し先に大型のダンプカーのテールランプが見えた。

「山の工事現場から来たのかな。でも道案内にはちょうどいいや」

普段はその圧力的な走りが嫌いなダンプカーだったが、
今はありがたかった。
これで、カーブのたびに対向車の存在を気にしなくても良いし、
あの後を付いて行けば、道を外れることも無いだろう。

美智雄は、適度に距離を取りながら付いて行った。

森に囲まれた夜の道でも、ダンプカーの赤いテールランプを
見ているだけで済むので運転は楽だった。

やがて、道の先に街の明かりが見え始めたところで、
ダンプカーが路肩に止まった。

後ろから様子を見ていると、
運転席の窓が開き、中から手が出て、先に行けと合図をしている。

美智雄はダンプカーの横を通り抜けざま、
お礼のクラクションを軽く鳴らした。
ダンプカーの大きなクラクションが一瞬だけ聞こえた。
不思議と優しい感じがした。

林間道路の終わりに小さなドライブインがあった。
美智雄は一休みしようと車を留めた。

ついでに、もし先ほどのダンプカーが通ったら、
軽く挨拶の一つもしようと思い、車の脇に立って待った。

しかし、いくら待ってもダンプカーどころが車は一台も来ない。

ようやく入ってきたのは、若い人が乗った原付だった。

美智雄は思い切って、その原付に乗った人に聞いてみた。

「その道でダンプカーに会いませんでしたか?」

いきなり質問されたためか、
原付に乗っていた青年は、困惑した顔で美智雄の方を見た。

「いや。ここ、ダンプなんか来ませんよ」

「そうですか。ありがとうございます」

美智雄は、どこか脇道にでも入ったのだろうと思い、
ドライブインで眠気覚ましのコーヒーを飲んで会社まで戻った。

数週間後、顕微鏡のカタログと見積もりが欲しいと連絡が入り、
美智雄は朝から、小学校に向かった。

昼間なので、走るのは楽だろうと思い、
美智雄はあの林間道路を通って行く事にした。

眠気覚ましをしたドライブインの横から林間道路に入ると
木々の間から差し込む木漏れ日が心地よかった。

同時に、あの時のダンプカーの事が思い浮かんできた。

「あの時は、ダンプカーのテールランプだけが頼りだったからな」

美智雄は、森に囲まれた道を走りながら
テールランプの輝きを思い出していた。

すると、妙な事に気が付いた。
頭に浮かんだテールランプが、道をはみ出すのだ。

林間道路は、乗用車一台分の幅しかないところが多い。
途中、対向車とのすれ違い用に幅が広くなっている場所もあるが、
ほとんどの道は狭く、森の中からせり出して生えている木々が、
時々、車の屋根に触れそうになる。

美智雄はあの夜、ドライブインで話を聞いた若者の言葉を思い出した。

『ここ、ダンプなんか来ませんよ』

彼が言ったのは、『この道は、ダンプカーなんか通れる筈ありませんよ』
という意味だったのだ。

道幅の狭い森の中の、かろうじて舗装だけしている道。
そんなところを大型のダンプカーは通らない。
いや、この幅では通れる筈が無い。

「じゃあ。あれは何だったんだ。俺はあの時、何を追って走っていたんだ」

美智雄は一瞬背筋が寒くなったが、すぐに思い直した。

「とりあえず、俺を助けてくれたんだ。感謝しないとな」

そう言いながら先を急いだ。
森の青葉が光に映えて美しかった。


おわり



タイトルは「山道のトラック」ですが、登場するのはダンプカーという作品。「山道のダンプカー」でも良かったが、何かで、「トラック」にしたともうのですが、思い出したら、又報告します。


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