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サマセット・モーム「報われし者のために」・・・古典が古典として残る意味を再確認する。

「報われし者のために」劇団キンダースペース 
両国シアターXにて2月19日まで

若い人にこそ観てもらいたい!

サマセット・モームが、第一次世界大戦後の1932年に書かれた戯曲。

今回の芝居では、セットや美術衣装などにも力を入れ、丁寧に戯曲の世界を表現している。

一方で、古典を古典として額縁の中に押し込んでしまうよなことをせず、ベテランに混じった若い役者たちが現代的な芝居をすることで、現代性を誘起している。
ちょっとした仕草やセリフ、動きなどが現実と地続きであると認識させてくれるのである。



昔、眠くて仕方なかった歴史の授業で、唯一記憶に残る言葉を思い出した。

「歴史を学ぶことは未来を考える事だ。
これから起こるかもしれない悲劇を回避する方法を学ぶのか、享楽的な側面を求めるのかは、君たちの自由だ。だが、過去をただ情報として見るのではなく、過去と現代を照らし合わせて存分に考えるんだ。」

という言葉である。

言われたのが三学期の最後の授業で、
「もっと早く言ってくれれば・・・」
と、自分の向学心の無さを棚に上げて愚痴ったのも含めて覚えている
(もちろん、それを本当に実感するのは、遥か後の事であったが)。

今更サマセット・モームやその戯曲について、どうこう言う必要もないと思うが、古典が現代でも愛される理由は、作品の持つ普遍性である。

だからこそ、この作品は若い人にこそ観てもらいたい。
そして、若者はこの作品のどの部分に共感するかを知りたい。

家庭や組織を守る為だけに固執し、
それを構成する人間の心を顧みようとしない男だろうか。

自由を奪われて傷つき、狂気や妄想、刹那的なものに
逃げ込もうとする者たちだろうか。

それとも、恋する女には躊躇なく1万ポンドを与えるのに、
倒産しそうな友人から頼まれた200ポンドの借金を断る男だろうか。

いや。全く違う、思いもよらないところに、共感するかもしれない。それもまた、自由で面白い。

ただ願わくば、戦争を肯定的に語り、戦争によって得をする側になろうとする愚かで楽観的な利己主義者たちではなく、登場人物の苦悩や悲劇に目を向け耳を傾ける側になって欲しい。

そんな風に感じさせる舞台であった。

「報われし者のために」劇団キンダースペース 
  両国シアターXにて2月19日まで

*為替レートについて
劇場に用意されているパンフレットに、「当時のポンドと現代の円との換算について」という解説が書かれている。
これによるとこの芝居では「1ポンド=1万円」に設定されている。(かなり円安に思えるが、当時のレートと物価指数を参考し、資料を調べると、これくらいが妥当らしい)
この感覚を理解しておかないと、芝居を見ていて混乱するので、開演前に読むことをお勧めする。
この記事でもそれに倣った。1万ポンドは、約一億円、200ポンドは約200万円として読んで欲しい。




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