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「何名様ですか?」・・・怪談。心霊スポットに向かった仲間たちは・・・。

学生時代。スピリチュアル好きだと言うB男の誘いで、
A子、B男、C美、D恵、と私の5人で、湘南の少し入りくんだところにある心霊スポットを探検することになった。

B男の運転する乗用車で、たどり着いたのは、山をくりぬいたトンネルだった。側道からさらに入った山の中にあり、あまり車も通らない。

この中を明かりを消して通過すると、トンネルの中程にずぶ濡れの女が立っているのが見える、という噂があるのだとB男は言う。

「じゃあ。行くぞ」

B男は、わざわざトンネルの入り口で車を止め、声を掛けた。
他の3人が無言で頷いたのを確認すると、B男は再びアクセルを踏む。

ハイブリッド車だというその車は、ほとんど音も無く動き出した。
トンネルに入ると外界の音が遮断され、さらに静かになった。
お互いの呼吸音まで聞こえる。

トンネルの壁に車の明かりが反射して、車内が少しだけ明るい。

「じゃあ。そろそろ消すぞ」

トンネルの中程まで来たところで、B男が車のヘッドライトを消した。

遠くに見えるトンネルの出口だけがボヤっと明るい。

「大丈夫か」

運転席からB男が声を掛ける。
助手席に座っているA子が、震えながら答えた。

「う、うん」

C美とD恵は、緊張しながら左右の窓から外を見つめている。
後部座席の真ん中に座ってしまった私は、窓外を見るのも少し遠く、
仕方ないので、前方を眺めていた。

左右どちらかに女の霊が現れるのと正面に現れるのと、
どちらの確立が高いだろうかなどと、自分の妄想で恐怖を増幅していると、運転席から助手席にB男の左手が伸びて行き、
助手席のA子がその手を握るのが、目についた。

「なんだ。そういう事か。どうりで熱心に誘うわけだ」

私はさらに恐怖が冷めてしまった。

「何も出なかったね。ピザでも食べて帰ろうよ」

トンネルを抜けた途端、私は明るく言い放った。

慌てて手を離したA子とB男、左右の窓を見つめていたC美とD恵も
緊張が解けたように賛同した。

街灯に照らされる前席の二人の横顔を見つめながら、私は思った。

『心霊スポットを色恋に利用するなんて、祟られても知らないぞ』

全くわが心のさもしさを表すような嫉妬の言葉である。

しばらく走ると、海岸沿いにイタリア料理店があった。
車を駐車場に止め中に入ったのだが、お店に入る時、
出迎えてくれたウエーターが、

「いらっしゃいませ。6名様ですね」

と聞いてきた。

「いいえ。5名です」

私たちが否定すると、

「失礼しました。こちらへどうぞ」

と何食わぬ顔で奥のテーブルに案内された。

「心霊スポット帰りだからかな」

などと、B男が言うと、C美とD恵は少し怒ったが

私は気にも留めず、ピザを注文していた。

ところが、これだけでは終わらなかった。

一週間ほどして、バイトがあると言うD恵を除き、A子、B男、C美と4人で晩ご飯を食べることになった。
お金も無いので格安ファミレスに入ったのだが、ウエイトレスが私たちを見て、

「5名様ですね」

と聞いたのである。

さすがに、二度も続くと不安になる。

「この中の誰に取り憑いているのか」

あまり知りたくない問いを誰かがはじめ、その夜は心霊話で盛り上がった。

その答えは意外に早く分かる時がやってきた。

2週間ほどして、バイト代が入ったというD恵の誘いで、
再び5人が集まる事になった。

今度は、ちょっと贅沢をして焼肉屋にした。A子とB男が少し遅れると言うので、三人で先に入ってメニューを選んでいた。

「カルビ、ロース、タン塩は外せないわよね」

食欲優先の大学生が注文を選び終わったところに、A子とB男が入ってきた。

店員が元気な声で応対した。

「いらっしゃいませ。3名様ですか?」

それを聞いた時の二人の表情は忘れられない。何か悪戯をとがめられたような、不倫現場を記者に直撃された芸能人のような顔をしていたのだ。

自分たちの「無罪」を確信した私たちは、ニコニコして二人を迎え入れた。
私は内心、

『やっぱり、こいつら祟られたなぁ。きっと長続きはしないで、すぐに別れるだろうな』

と、少し気の毒に思っていた。

ところが、ところが、ところがである。

その後も、A子とB男は付き合い続け、卒業と同時に結婚することになったのだ。

「あの後二人でレストランに行って、3名様ですか? とか聞かれたりしなかったの?」

A子から婚約を聞かされた時、私はちょっと意地悪な質問をしてみた。
するとA子は、

「実はあの後、どこへ行っても3人ですか?って聞かれるようになっちゃったのよ。つまり、どっちに憑いてるってことでしょ。それ、確かめるの怖くなって、一人ではどこにも行きたくなくなって、いつもB男さんと一緒に行くことにしてたの。そしたら、いつの間にか、こんなことになっちゃって・・・お先にご免ね」

そんな展開ありえるのか?

この調子じゃあ、二人で映る結婚写真が怪しい3人目の影が映る心霊写真になるかもしれない・・・などと、私の頭の中を意地の悪い奇妙な妄想が駆け巡った。

しかし、二人の写真に3人目の姿を確認したのは、幸せそうに眠る赤ちゃんを抱いた年賀状を貰った時だった。

今では、あのトンネルは、心霊スポットではなく、縁結びのスポットとして噂になっている。

               おわり



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