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ACLへの壁【Jリーグ】浦和レッズvs名古屋グランパス

前節アウェイ広島戦で勝ち逃げに失敗し連勝がストップしたレッズはホームで2位につけている名古屋グランパスと対戦しました。

名古屋は前節の仙台戦に敗れたので連敗は避けたいという一戦でした。とは言え、ここまで堅守と個人のタレントを武器にここまで安定した結果を残してきました。

レッズとしてはACL圏内を目指すのであれば名古屋に勝って上位進出したいところです。

スタメン

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レッズは前節の広島戦から3名メンバーを入れ替えました。伊藤(敦)、汰木、田中がベンチスタートとなり山中、関根、武田が先発でした。フォーメーションは4-1-4-1を採用しました。

名古屋は前節の仙台戦から2名変更。相馬と山崎が先発起用され、古巣対戦となる長澤はベンチスタートとなった。前節は4-3-3でスタートした名古屋ですが、この試合は4-2-3-1を採用しました。


試合内容

レッズが後ろからビルドアップを試みるのに対し名古屋は前線から積極的にプレス。中盤での攻防が多くなる展開。しかし、徐々に名古屋が山崎やダブルボランチの個の力を武器にレッズ陣内へ押し込み始める。前半17分に山崎が抜け出しGKと1vs1になるが彩艶がセーブし得点を許さない。レッズは19分にユンカーがドリブルからミドルシュートを放つも枠の外へ。名古屋は26分にCKから山崎がヘディングシュートするも枠の右に外れる。前半は0-0で折り返す。

後半からレッズは武田に替えて伊藤(敦)を投入し巻き返しを図る。伊藤(敦)の投入でレッズが徐々に流れを引き寄せる。66分には関根がシュートを放つも右に外れる。70分には汰木が左サイドで抜け出しクロスを上げるも惜しくもユンカーには合わず。すると名古屋は斎藤と長澤を投入し、再び流れ取り戻し始める。79分に名古屋は斎藤がコントロールシュートを放つもポストに嫌われて得点にはならず。結局、両チーム得点を奪えずにスコアレスドローで試合は終了した。

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・試合スタッツ

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・試合ハイライト動画



アンバランス


まずこの試合でポイントだったのがレッズが4-1-4-1でスタートしたことです。右IH(シャドー)に入った武田はリーグ戦7試合ぶりに先発起用となりました。

レッズは名古屋が4-4-2で守備をすることを考慮して4-1-4-1を採用したと思います。このシステムにすることで自然と中盤で数的優位を作ることができるからです。

レッズの狙いとしてはビルドアップ時に小泉と武田が名古屋のダブルボランチ(稲垣、米本)の脇に入ることで稲垣と米本をピン留めし、槙野、岩波、柴戸の3人で前進する狙いがあったと思います。

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試合序盤はこの狙い通りに進めることができていて、上手く前進していたと思います。しかし、徐々にレッズがビルドアップでつまづくことが増えました。これは小泉と武田のアンバランスな立ち位置が影響していると感じました。

小泉は多くボールを引き出そうとして2列目から下りてくることが増えました。そして武田は上手くボールを引き出せずに名古屋の最終ラインに吸収されるような立ち位置を取り始めました。

その結果、稲垣と米本は小泉と柴戸を捕まえに前に飛び出し始め、武田は中谷に捕まるようなポジションになってしまいました。

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小泉と武田のバランスが崩れたことで自ら名古屋の4-4-2のブロックにハマりにいってしまう形となりました。そして名古屋に主導権を渡す結果になりました。


名古屋の「個」


名古屋がこの試合のペースを握った要因の1つとして「個」でレッズの選手たちを上回ったからだと思います。名古屋は特に複雑な戦術を用いたり、いわゆるポジショナルプレーのような立ち位置や選手の流動性で攻めるチームではありません。攻撃もシンプルなプレーが多いのが特徴です。ですが、タレントが揃っていて個の質はどの選手もJリーグトップレベルです。この試合でも個を活かした攻撃を展開してきました。

・山崎の高さ
レッズが1番苦労したのが名古屋の1トップに入った山崎への対応でした。ランゲラックや吉田からシンプルに山崎をターゲットにロングボールを入れてきました。槙野や岩波も空中戦には強い方ではありますがほとんど山崎が競り勝つシーンが多かったです。

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山崎が競り勝ち、こぼれ球やヘディングですらしたボールに柿谷や名古屋のダブルボランチが反応して回収されたので、レッズは自陣に押し込まれることになりました。

山崎はこの試合で空中戦で9回中7回成功と圧倒的な数字を残しました。また仮に競り勝てなくても山崎が競るだけで槙野や岩波は味方に繋げることが難しくなりました。

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・マテウスの左足
名古屋の右サイドのマテウスは1発を持つ選手なので危険な存在でした。レッズが前からプレスをかけて名古屋の右サイドに追い込んだ時に成瀬からマテウスにパスが渡ります。多くの選手は狙われているのでここでロストすることが多いのですが、マテウスは狙われていてもキープできるのでレッズのプレスが無力化されてしまいました。

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それでもレッズもしっかりとマテウスは警戒していて、「山中と明本の2人で対応しマテウスに自由にプレーさせない」、「マテウスがボールを持つと左足をケアする」ことを徹底していたのであまり決定的な仕事をさせる機会は多くありませんでした。


戦術合戦


この試合の1番の見どころは両指揮官の『戦術合戦』だったと思います。

まずハーフタイムに上手くいかないレッズが先に動きました。武田を下げて伊藤(敦)を投入しフォーメーションを4-2-3-1に変更しました。この交代によって名古屋のダブルボランチがレッズの中盤3枚をマークしきれない状況を作り、伊藤(敦)もしくは柴戸がフリーでボールを受けれるようになりました。そして前進することができるようになり、再びレッズがボールを握れるようになりました。

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また最近では4-2-3-1で多く戦っていることもあり、柴戸が最終ラインに下りて(サリーして)2トップのプレスを回避する動きもスムーズにできていました。

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すると劣勢になり始めた名古屋が今度は手を打ってきます。山崎と相馬を下げて斎藤と長澤を投入し、フォーメーションを4-3-3(4-5-1)に変更してきました。この変更によってレッズの中盤での数的優位が消えて、再び名古屋の守備にハマる形となります

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次第にレッズはボランチを起点としたポゼッションができずにボールを握れなくなり、押し込まれる展開になっていきます。

この展開を受けてレッズは更にメンバーを入れ替えます。小泉と関根を下げて武藤と田中を投入。先に山中に代わって投入されていた汰木がトップ下に入り、武藤が左SHに入りました。

左SHで起用された武藤ですがかなり中央に入ってきてプレーをしていました。レッズの狙いとしては中盤で数的同数となっているところに武藤が入ってくることで、再び数的優位を確保してボールを握ることだったと思います。

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武藤は積極的に動いてボールを受けていましたが、肩を怪我したユンカーと不慣れなポジションの汰木の動き出しが少なく、前線にボールが入る機会は少なかったです。結果的に興梠を投入した際にいつものように汰木を左SH、武藤をトップ下に変更しました。

時間帯毎のポゼッション率を見ても、立ち上がりはレッズペースで進み、徐々に名古屋の時間帯になっていきます。そして、ハーフタイムで立て直したレッズ、システムを変えて名古屋が持ち直し、レッズが更に交代で変化を加えたことがわかります。

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両指揮官は自チームを円滑に回すために変化を加えていましたが、結果的に相手の良さを消す形となり、どちらのチームもゴールから遠い攻撃になりました。サポーターからするとチャンスが少なく物足りない内容かもしれませんが、とてもハイレベルな戦術合戦が繰り広げられていたように感じました。


成長と悩み

・鈴木彩艶
個人的にこの試合で成長をすごく感じたのが彩艶です。これまで安定したセーブを見せていてポテンシャルはズバ抜けていましたが、ビルドアップ面でも起点になるようなパフォーマンスを見せ始めました。

70:42では彩艶が伊藤(敦)にパスをしたところから汰木のクロスまで流れるような攻撃を展開しました。このシーン以外でも下の図のような名古屋の2トップの間を通すパスをいくつもこの試合で見せていて感激しました。

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簡単そうなプレーに見えますが、引っかけてしまったら失点に繋がるプレーなので高い技術と勇気が必要なプレーです。自陣からビルドアップして攻撃を展開するレッズのサッカーには欠かせないピースになりつつあるのかなと感じました。

槙野も試合後のインタビューで彩艶のビルドアップ力を称賛していました。

最後の最後までしっかりと味方にボールをつなげられる視野の広さを持っていることです。あの歳にしてすごいと思います。リカルド ロドリゲス監督からは『へそ』と言われていますが、彼からボランチにつけるものすごくいいパスが入っていますので、そこは彼の武器だと思っています。

引用:第17節 vs 名古屋「ホームで勝ち点を積み重ねる」(浦和レッズオフィシャル)


・山中と明本
2人とも強烈な左足を持っていますがこの2人が同じタイミングで出るとプレースタイル的に難しさがあるのかなと感じました。特に名古屋のように守備で穴を作らずにスペースをしっかり埋めることができるチームを相手だと2人の走力がなかなか活きてこないように思いました。

明本と山中はこの試合のスプリント数が20回ずつで十分多い回数ですが普段の試合と比べると少ない結果でした。基本的にスペースはサイドにできることが多いので、自然と大外のレーンにいる選手がスペースを使えます。おそらく山中も明本もレフティーで大外でのプレーを得意としているだけに2人とも大外でプレーさせたい選手です。

しかし、リカルドサッカーは5レーンを使用し同レーンには選手が並ばないように設計されているのでどちらか1人しか大外には入れません。カウンター時など背後に広大なスペースがある場合にはこの2人の同時起用は活きてきますが、今日のような相手だと2人が走力を同時に活かせることが限定されるので良さが出づらい展開でした。2人の走力と強力な左足が同時に見たいだけに、山中と明本が共存できる流れやシステムを構築したいところです。

・関根と柴戸
この2人に関しては個人的にですがもう少しシンプルにプレーしてもいいのかなと感じました。2人ともリカルド監督の下で色々なことを吸収している選手だと思いますし、できることを増やしている選手だと思います。

関根に関してはもっと仕掛けていいのになと感じています。海外に行く前はもっと縦に仕掛けていましたし、たとえ1vs2の状況でもがむしゃらに突っ込んでいくような強引なプレーがありました。レッズに戻ってから思い切りの良い仕掛けがあまり見れていない印象を受けます。

柴戸に関してはここまで素晴らしいパフォーマンスを見せていると思います。ビルドアップの核になっていますし、ボールハントは安定していてこの試合の終盤は柴戸の潰しが効いていました。この試合で気になったのはちょっと持ちすぎなのかなという点です。米本に監視されるような場面が多かったこともありますが、ボールを持ちすぎてバックパスになったりロストするシーンがありました。45:50や84:35のように柴戸が持つところを狙われてボールを失う場面がいくつかあり、ダイレクトや2タッチでテンポ良くボールを捌いた方がチャンスに繋がるシーンがかなりあったのでそこは柴戸の課題かなと感じました。


最後に

流石の名古屋の堅守を前にレッズはペナルティエリアに侵入する回数はほとんどこの試合で見られませんでした。ヒートマップでもその結果が反映されています。

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もともとペナルティエリアに侵入する回数が多くないレッズですが、決定機はいくつか作れていたのがここ最近の試合でした。しかし、この試合では汰木のクロスぐらいだったかなという印象です。ACL圏内を目指すのであれば超えていかなければいけない壁だと感じましたし、まだまだ発展途上のチームなのかなと思いました。

一方で、劣勢になっても崩れることなく戦えていたので、開幕当初に比べると大きく成長していると思います。リカルド監督の采配を見るとまだまだ引き出しを増やそうと努力していることが伺えますし、これから更に進化していくことに期待したいです。

ここで次のリーグ戦は少し期間が空きますが、またリーグ戦とは違った雰囲気のルヴァンカップや天皇杯があるのでレッズの飛躍が楽しみです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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